だいだらぼっちは二度死ぬ


 決闘から数日空けて、始まったのは運動会。

 クラス対抗戦一つでもあるこれは原作ではなかったイベントだ。

 だって、メインは高校始まってからだったし小学校の運動会というのは語られないからだ。まぁ一応触りだけは話されてたが、基本的に身体能力が高めである如月と皐月そして卯月のクラスがよく勝っていたという事は覚えている。


「さぁ刃様、優勝しましょうね」

「やる気凄いな雫」

「――えぇ、とても」


 気になったんだけどさ、なんでやる気溢れてる中で俺を見るんだよ。

 普通に捕食者みたいな視線で肝が冷えたんだけど……。


「最初の競技は……二年生限定の障害物競走か、で――あれなんだ?」

「あれは……そうですね、だいだらぼっちを元にした式神かと」

「しょうがい……ぶつ?」

「でしょう?」


 何を当たり前の事をとそんな風に言われたが、俺からすれば用意された会場に巨大すぎる巨人がいるのは普通にビビる。

 他の生徒は驚いてないみたいだが、これは恒例行事なのだろうか? だとしたらこの学校改めてやばいんだが……。


「では参りましょうか、この競技は二年生全員が参加なので大変ですよ」

「まじか――ってことは龍華達も居るんだな」

「えぇ、そうですね。去年は余波で校舎の一部が倒壊したので気を付けてください――では、ゴールで会いましょう」


 すぅっと消えていく雫。

 まだ始まってないからスタートの位置にいるだろうが、今言った通り優勝のためにもゴールで会うのが最善。

 完全ステルス持ちの彼女はきっとだいだらぼっち(仮)に悟られず抜けるだろうが、他の暦の一族の面々はどうやって突破するのだろうか?

 そんな事を気にしながら始まった障害物競走。

 とりあえず俺は地面を凍らせながら滑って移動し始めたのだが、他の皆に目をやれば……。


「退きなさい」

「ボクの前じゃ無力だね!」


 龍華は岩剣を射出して巨人を両断。その破片を全て澄玲が吹き飛ばして巨人が一瞬にして消し飛ばされる。

 その光景にドン引きながらも俺も俺で再生を始めた巨人を完全に凍結させて先に進んでいく。


「いくようり坊、砕いて!」

「――迅雷が如く」


 そして後方ではうり坊を召喚して氷塊を砕き、その後ろから稲妻に体を変化させた巴がやってくる――さらにそれだけでは終わらず、邪魔だっただろう砕かれた氷塊を剣が完全に溶かしてだいだらぼっち君が完全に消滅した。


「……黙祷」

 

 あまりにも秒殺された障害物に軽くそれを捧げ、俺は続いての障害物と相対した。

 足を踏み入れた途端に現れるのは幾百もの下級だろうけもの達。九曜様が用意しただろうそれは、俺達の足を止めるためにも勇猛果敢に吠えて襲いかかってきたのだが……暦の一族でも歴代屈指のこの世代を相手したのは明らかに悪く――、


「邪魔」

「退くといいよ!」


 先頭にいた龍華と澄玲に一掃され残った奴も奴で俺と剣に滅された。

 ……あとさ今更ながらツッコみたかったけどさ、龍華とかの服装は普通に体操着なのにさ――なんで澄玲だけ漢字じゃなくて名前がひらがなで書かれててブルマなんだ? 古くない服装? え、何? 誰の癖?


「ん、刃に見られてる気がする。流石刃だね、この格好の良さが分かるなんて!」

「……ポージングしてる暇あったら抜くからな」

「あ、待ってよ! ――って卯月のは無視して進みすぎ!」


 とりあえず競技を中断してポージングしていた澄玲を抜かして俺は龍華に追いつくために速度を上げる。

 術は全部解禁されているのでフルで身体能力を強化して動いているが、普通に龍華が速い。純粋な体のスペックの差だろうが、これ以上強化したら普通に反動来るし……。


「刃様、抜かしますね」

「……巴? 速くないか?」

「私は雷ですので」


 障害物であろうけものは際限なく湧いてくるが、どれもが一撃で倒される。

 そんな中、巴が声をかけてきてそのまま一気に加速して俺を抜かした。その後ろから迫ってくるのは猪の群れ、亮が召喚した奴だろうが数がやべぇ。

 

「刃君……乗る?」

「いやいい――俺もあったまってきた」


 なんか皆全力だし、俺もやる気を出そうと思った。

 だから俺は空中に足場をいくつか作って、一気に跳躍し――それを蹴って空中からゴールを目指す。


「追いついたぞ二人とも?」

「やっぱ来るわよね刃!」

「氷って本当に自由度高いですね!」


 一位争いは激しく、先頭は見る限る龍華で巴が僅差。

 で、その後ろを俺が追いかけている形になっているが……追いつくには何かが欲しいという状況だ。

 

「そういえばこの競技って術は全部解禁されてるんだよね? なら目立つためにももっと大きいのを魅せようじゃないか!」


 後方から聞こえる大声、その瞬間に感じるのは莫大な霊力。

 何をするか分からないけど、ヤバイ事をすることだけは分かる――瞬時に本能が警鐘を鳴らし、防御しろと伝えてくる。

 

「オーツェアーン・マルシュ!」


 最近澄玲の技を一発で理解出来るように勉強しているが、それで技の名前は理解出来た。直訳で大海の行進曲――どういう技かは完璧には分からないけど、皐月の感性的に多分――海が、襲ってくる。


「あの馬鹿、周り全部巻き込むつもりなの!?」

「――わたし、あの娘見張っとけば良かったです」

「後悔しても遅いだろ、とりあえず全力で凍らせるから観客への防御頼んだ」


 ここに居る暦の一族達なら防御は出来るが、被害がやべぇ。

 なので俺達が選んだのは彼女の術の被害を無くすことだった――指示はなく、ただそれだけの会話だったが、多分やりたいことは伝わっただろうの精神で俺は一気に霊力を解放――した途端の事。

 大地が脈動して一匹の巨人が姿を現したのだ。

 それは、最初の障害物であっただいだらぼっち君。

 1度目現れたときよりも大きくなったそれは、俺達に目もくれず大地を操り海を受け止めた。吸収されていく海水、それを吸収し終わったそいつは誇らしげにガッツポーズしたのだが水を吸ったことで更に巨大化してゴールを邪魔してしまったので――。

 

「邪魔です!」


 やっと追いついて状況を何も知らない剣に炎による斬撃で両断されてしまった。


「あれ、兄様達ゴールしないのですか?」

「あ、そうだな」


 それで仕切り直し。

 殆ど並走状態で再会したんだが、強化の術の練度的に俺がゴールしそうになりその瞬間後ろから急に誰かが飛び出して――。


「わたくしの勝ちです」


 現れたのは雫であり、彼女はゴールと共にVサイン。

 今までどこにいたのかを聞きたくなるが、これもしかしてずっと俺の後ろにいたのだろうか?

 あまりにもそれが怖くて、それって干支的に睦月先輩の役じゃね? とツッコむことで心の安寧を俺は計った。

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