閑章:波瀾万丈運動会
運動会――開幕
私の名前はノワール。
誇り高く最強無敵で至上と言っていい程に可愛い皐月澄玲お嬢様の執事をやっている者です。そんな私は最近発売されたばかりのカメラを手入れしておりました。
「……アホ姉、何してんだ?」
そんな私の元にやってくるのは、同じく執事である弟のブラン。
奇っ怪な者を見るような目でこっちに視線を送ってくるその阿呆。どうやら私の意志が汲み取れないらしいので、態々説明することにする。
「うるさい愚弟、今日はお嬢様を見守る大事な一日だ。カメラを準備するのは当たり前だろう」
「…………はぁ、そっすか」
「それより何をやっている? ――そろそろお嬢様を起こしてこい。料理はもう作ってあるぞ」
「あい……ったく、家事だけは完璧なんだけどなこのアホ」
「返事は、はいだ――それと聞こえているぞ」
「はいはい」
そんな事がありながらも、私は愚弟をお嬢様の方へ向かわせて、カメラの手入れを終え用意していた料理をテーブルへと運ぶ。
「ふっおはようだよ二人共! 今日はクロワッサンなんだね、ノワールが焼いたのかい?」
「そうですお嬢様、今日は特別な日と窺っていたので焼かせて貰いました」
「よく覚えていてくれたね。そう、今日は運動会だ。つまりはボクが一番活躍して最も注目される日さ!」
一度朝食を食べる手を止め、高らかにそう告げるお嬢様。私が拍手をすれば、ブランはブランでクラッカーを鳴らす。
「ありがとう二人とも――それに今回の運動会で学年一位を取れば九曜様にお願いが出来るらしいからね、その為にもボクは勝たなきゃいけない。ファーターも来るし無様な姿は見せられないだろう」
やる気に満ちあふれるお嬢様を見て涙する私。
最近は少し不思議な姿を見せていたが、やはりお嬢様は完璧だ。
そんな時だったブランが手を上げお嬢様に発言をしていいか求めてきたのだ。
「なあお嬢、神無月の姫様に何頼むんだ?」
それは私も気になっていた。
だけど聞くのは恥ずかしかったのでナイスだ愚弟。
たまにだが役に立つのだな。
「いい質問だブラン。ボクの願いは単純だ――そう、刃との決闘権さ」
「……それ、日替わりで貰ってましたよね。他ならぬ本人から」
ある日の決闘以降の事、お嬢様は十六夜刃とかいう人間に構うようになり、事あるごとに彼を決闘に誘い卯月の龍姫とよく争っていた。
その状況で何故か胃の辺りを抑えながら、いつも仲裁していた十六夜刃の姿があったのだが……ある日限界を迎えたのか日替わりで戦う事を彼が決め争いがおわったという話がある。
「そんな事分かってるよ。だけどね、やっぱりキャラどころか最近行動まで被ってきてる卯月を煽るためにも優位に立たなきゃいけないだろう?」
「そっすか……まじ不憫だなあのガキ」
「何か言ったかい?」
「いえ何も、頑張ってくださいお嬢」
「うん、それでいいよ――ノワールはカメラをよろしくね、ボクの勇士を沢山撮るといい!」
「準備は完璧ですお嬢様、お嬢様の全てを記録しましょう」
私は買ったばかりのカメラを彼女の目の前に掲げそう宣言する。
記録用と個人用そして布教用、沢山撮らねば執事として恥だ。
「そうか頼むよ、運動会では全種目で活躍してあげるからね!」
高らかに笑い、そのまま支度を終えて会場にお嬢様は向かっていった。
見送った後私達は天原学園初等部の校庭に向かう。
そこには数多くの生徒とその保護者であろう者達が並んでいて、そんな中私と愚弟は澄玲様の父親である
「澄玲はどうだ黒白の龍?」
「最近は十六夜家の子供に執着気味っすね、彼に塩対応されたり困らせた際の顔を見て悦を覚えてるので、まじでやべぇかと」
「……本当なのかノワール」
「…………そうなのかブラン?」
「――俺視点だとそっすね」
私も知らなかった事を報告したブラン。
それを聞いてか信用している私の方に確認してきたが、私も知らなかったのでブランに聞いてしまった。
「本当になにがあったんだ? なぜ澄玲がそんな事に」
「決闘に負けて何か芽生えたかと、無視されて笑ってるので多分まじやばいです」
「――やはり悪か、あの子供は」
「いや明らかに不憫なのはあの子供なんで、許してあげてください」
確かにあの十六夜刃という子供はいつも忙しそうだ。
卯月の龍姫に水無月の炎蛇に囲まれ、妹だろう人間と常に居てそれどころか睦月の賢者に呼び出されては血塗れで帰る姿を見ている。
私はたまに刃という人間の監視をお嬢様から頼まれるので覚えているが、極月と如月の子供とも親しかったので暦の一族をコンプリートするのではないかと思うことがある。
「……そうか報告感謝する。澄玲とは今度話してみよう」
そんなやり取りの後、始まる開会式。
この学園を統べる神無月の姫君が挨拶を行い、運動会がスタートした。
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