第56話:結局カオスに落ち着いて
『澄玲、頼みがあるのだがいいか?』
『ボクに頼み事なんて珍しいね、それでなんだい
『こないだ十六夜刃という同年代の子供が転入してきただろう? いつでもいいが、その子の実力を試してくれないか?』
『別に構わないよ、ボクも彼の事は気になってたからね』
『……龍眼で視たのか?』
龍眼とはボクの左目に宿る力の事だ。
皐月家は代々辰を冠する干支神を祀っており、それを宿す上で本質と起源をみる力が備わっている。
マインファーターは既にボクに干支神である【まなこみずち】を託しているからその力が使えないがボクは現役なのだ。
『そうだね始業式の時に。まあ中身は珍しいものじゃなかったよ、氷に愛されてるってくらいかな?』
そこで少しボクは嘘をついた。
本当は別のモノを視たからだ――彼を視た時、ボクは人生で初めて相手の本質が見えなかった。いや、正確に言うとそれが黒い深淵のようなモノに塗りつぶされていたんだ。
そのせいで見通すことが一切出来ず、ボクは一目で彼に興味を持った。
まあ他には左腕に龍の因子が宿っていて、気になったってのもあるけど……それは置いていてとにかくたまに意識するようになったんだよね。
だけど、戦うのには難航した。
何故なら彼には戦う理由がないからだ。
これで彼が凡人のようにボクに見惚れて言うことを聞いてくれるような子なら二つ返事で戦えただろうけど、そもそも接点がないしで難しい。
それに罪作りなボクのことだし、惚れさせたら攻撃出来無くさせてしまう。
だから迷った接点を作ろうにも別クラスだし、ボクが登場したら惚れさせてしまう――でも戦う以上情報を集めないといけないしで本当にボクは困ったのだ。
まあでも驚いたことに情報に関しては意外となんとかなった。
なんか雫に頼んだら喜んで毎日のように写真と共に授業での彼の姿を原稿用紙十枚ぐらい量で語られたから。
記憶力もやっぱり完璧なボクはそのせいで彼のクセや好物まで覚えてしまったが、それは置いておいてどういう術を使うかも分かったし性格も大体分かった。
でもやっぱ戦うの難しいなって思ってたんだけど……。
『あ、刃なら私のパパだよ?』
『……? よく分からないけど、孤蝶は十六夜刃と関係があるんだね。そうだボクね、彼と戦いたいんだけどどうすればいいかな?』
『ふっ、友達だし手伝ってあげる。それに私が居ればすぐ戦える――完璧な作戦も思いついた』
内容はボクが孤蝶を人質にとって誘拐した十六夜刃に見せるってモノだった。
それをボクに匹敵するドヤ顔で語られ決まった孤蝶人質大作戦。流石のボクも心配だったけど……本当に彼はそれで戦ってくれることになった。
そして始まる決闘、卯月の姫と関われる人間と言うことで強いのは分かっていたし、始業式の術で才能があるのも分かっていた。
だから有象無象のモノと違って楽しめると思って挑んで、実際戦ったんだけど……本当に言わせて欲しい。
――本当に十六夜刃怖い。
何なんだろうか? 氷対策に海水で挑んだし、なんならどの純水兵達も常に流動させて凍らせないようにしたのに、そんなの関係ないと言わんばかりに凍らせた。
それに殺意凄いし術が怖い。
いやね、ボクも煽った自覚あるからなんかされるなーって思ってたけど、いくらなんでもキレすぎだよね?
なんか怖いというか、ボクに辛辣な言葉かける人間なんていなかったから変にゾクゾクすると言うか初めての対応でドキドキするというか? 本当になんなのだろうねあんな顔で見られたのも初めてだし……と空から堕ちながらもボクはそんな事を思う。
きっとこのまま行くと絶対に落下死する。
九曜様のおかげで死なないのは分かってるけど、痛いのは嫌だなと。
まあでも負けだし受け入れるか……とそんな事を考えていると気付いた。
「……あれ死んでない?」
いつまで経っても地面に激突する感覚がなく、それどころか誰かに抱えられてるという事に。
――
――――
――――――
「えっと大丈夫か?」
腕の中にいる彼女に声をかける。
あの時、使われた澄玲の術を絶対霊度によって凍らせて破壊したんだが、そのせいか術が消え澄玲が落下した。
流石に目の前で落下死する姿なんか見れないので、俺は即座に彼女を抱えることにしたんだが……今の今まで反応がなかったので普通に困った。
「もしかしてボクを助けたのかい? なんで?」
「いや誰だって助けるだろ、もう殆ど決着ついてたし、何より見過ごせないし」
「……あんなに煽ったのに?」
「お互い様だろそれ」
俺もキレて煽ったし、多分それであいこだ。
腕の中にいる澄玲はそれを聞き驚いた様な顔をしている。
なんか本物の馬鹿を見るような目をしていて、少し考え込んで笑い出した。
「ふふ、こんなに笑ったのは久しぶりだ。そっか君は雫に聞いた通り馬鹿なんだね――じゃあさボクの完敗だよ。さあ観客の皆、ボクの負けだ勝者は刃だぞ!」
そうやって観客に伝わる程の大声で自身の敗北を伝える澄玲。
結果を見守っていた面々はそれで沸き立ち、大歓声が場を支配した。
――で、その瞬間に観客達を守っていた結界が解けたようで、この場に馴染みのある気配を持った誰かが向かってくる。
「お疲れ様ね刃――聞きたいのだけど、いつまでその子を抱えているの?」
やってきたのは龍華であり、その後ろには剣と華蓮がいる。
お疲れ様の言葉の筈なのに、どうしてか威圧が凄い。身震いするほどにというか、氷使いの筈なのに芯から冷えるくらいに寒い。
「あ、えっと……そうだな降ろすか」
本能的な恐怖を覚えてしまったし、何より龍華の心中を知ってるし性格も呪尽くしている俺はすぐに澄玲を離そうとしたのだが澄玲の方から抱きついてきた。
「いいのかい? もっとボクの柔肌を堪能するといいよ。これは勝者の特権だ」
「降ろしなさい、今すぐ」
「あれ龍華もしかして嫉妬かい? へぇ、あの君がねぇー。そういえば仲良さそうだったね。でもごめん、やっぱりボクって最カワだからさ刃も離したくないそうだよ」
「ウォーミングアップって大事よね。私はこれから刃と戦うからその前にとっても」
龍華とは思えない低い声、一刻も早くこの状況を打破する為にも離そうとするが、いつの間にか俺の体に透明な何かが纏わり付いていて身動きが取れない。
「そういえばさ、前から思ってたけど君とボクキャラ被ってるよね? 才色兼備の姫様っていう。だからここら辺で白黒つけるのがいいと思うんだよ。そこの所どう思う我が儘龍姫様?」
「自意識過剰がよく言うわね、でもいいわ。やりましょう?」
身動きの取れない俺、明らかに霊力を解放しやばい術を使おうとする龍華、そして腕の中で煽り続ける澄玲。まじで勘弁して欲しい状況でとりあえず俺は口を挟む。
「人を挟んで喧嘩するの止めないか? あと澄玲は術解いてくれよ離せないから」
「ふっ仕方ない、また今度二人きりで堪能させてあげるよ。あ、でもその前にさ。これはご褒美だぞ?」
何度も言うが透明な何かのせいで俺は身動きが取れない。
そしてそれをしてるのは腕の中にいる澄玲だろうから彼女は自由。
そんな状況で起こってしまったのは――。
「ふふ、ボクの初めてだ。ありがたく受けるといい――わぁすっごく困り顔だぁ」
語尾にハートでも付きそうな煽り口調でそう告げる澄玲、そして今のを見た瞬間に完全に龍華がキレた。
「――慈悲なく殺すわ」
「さぁ逃げるよ刃、巻き込まれるよ」
霊力に限ってはもう俺は殆ど空、そんな状況では澄玲の術を解除出来ないので必然的に逃げるしかない。
……そして理不尽とも言える状況で、俺は結局逃走を選択し。
腕の中でけらっけらと笑う澄玲をいつか泣かすと誓いながらも、心の中で神綺に助けを求めた。
――――――
――――
――
天原学園初等部のとある一室、そこでは全く同じ容姿の黒と白の少女がお茶をしていた。
「助けを求めてて可愛い。本当にやんちゃね刃は、あとでお仕置きよ」
「あの子達ませてるのかしら、私からするとびっくりね――まあでも子供が増える分には良いのだけど」
「絶対させないわ、彼は私のよ九曜」
優雅にお茶を楽しみながらも、神綺は四季を横に浮かせ九曜は九曜で自身の最大火力として使える金剛杵を二つ手元に置いていた。
常人ならば彼女らの神力に潰されそうな牽制しあっている空間、一触即発の空気ながらも二人は会話を続けていく。
「なら行ってあげなさい? 流石に不憫よ?」
「嫌ね。それより九曜、今回のは貴女の仕業でしょう? どういうつもり?」
「直に刃を見たかったから頼んだだけよ、それ以外の理由は無いわ」
「……本当に変わらないわね貴女、性悪すぎてお茶菓子が腐りそうだわ」
「それは貴女の舌が子供だからよお子様神綺」
もはやビキッ……と空間に罅が入りそうな音が奏でられるようなその空間。
このままでは言い合いが続くだろうという状況で、煽り合いに先に飽きた九曜がこう切り出した。
「そうだ今度同年代の暦の一族で旅行に行かせるつもりなのだけど、刃も連れてっていいかしら?」
「…………今度は何を企んでるのよ。内容次第じゃ今ここで殺すわよ」
「怖いわね――でもその場所は貴女も無視できない場所よ」
「……聞くだけ聞くわ」
そこで話された内容、それを聞いた神綺はその場から姿を消し刃の中へと戻っていった。
「ふふ、やっぱりお子様ね神綺は。でもそれが恋って事かしら? 本当に命って面白いわ」
[あとがきぃ!]
四章終わりぃ!
今章を執筆中、☆が五千超えたり二百万pv達成したりと色々ありましたが、無事に箸休めとなる四章を終わらせることが出来ました。
少し更新が滞っていた分、一気に終わらせましたがここまでお付き合いありがとうございます。もしもここまでの話が面白かったまたは続きが気になるって方はどうかフォローや☆またはレビューしてくれると幸いです。
今後の予定としては閑話を二つ挟んで五章を開始って感じになりますのでこれからも当作品をお楽しみください!
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