騎馬戦を数人でやる必要はあるのだろうか?
あれから時間が経って競技が進み、二年生の最終種目である騎馬戦までやってきた。最初とても綺麗で新品と見間違えるほどだった校庭は今や見る影がなく、所々に穴が空き、明らかに俺が悪い氷塊が地面から生えている……。
いや、あれなんだ。
これもそうあの玉入れが全部悪い。今回の運動会の玉入れは学年対抗戦で、偶数学年と奇数学年が戦うやつだった。
妨害有りで始まったその玉入れは、まじでカオスであり……死者が出ると思える程に混沌が極まり、死屍累々というか術が行き交い最早玉入れってなんだ? と思うほどにやばかった。
というかあれだ一番の原因は五年生の
原作では出番がなくて唯一性格が分からなかった人だったんだけどまじで濃かった。校庭中を駆け回り玉入れ用の玉を集め続けたあの人の足を止めるために俺は無差別に凍らせるしかなくて……まあ普通に脱出されたけどさ。
「まじでなんなんだろうあの人、炎纏って普通に氷から出てきたしうるさいし」
思い出すのふはははは! と笑う午の人。
干支神である
「刃様、あれは事故ですので……それよりわたくし達の騎馬はどうしましょうか?」
そして最早いつも通りにすぅっと現れ耳打ちしてくる水無月雫。
なんかナチュラルに一緒に組むことになってるが、本当になんなんだろう? いやまぁさ、相性とかも悪くないし組む分には文句ないけど、なんて言えばいいのだろうか? 選択肢が元からなかったような……あとサラッと心読んでない? え?
「……えっと騎馬を二人で組むのは無しだよな流石に」
「いけますよ? 四年ほど前にそうなりました」
「なんでだよ、騎馬戦しろよ」
「
大体予想がついたから聞いて見れば、どうやら五年前の運動会で午の人がやらかしたらしく、最低二人さえいればあとは騎馬を術で補ってオッケーらしい。
ハチャメチャだと思いながらも、この世界だしそれもあるよなと納得してしまう自分にも驚いたし、染まってきてるんだなぁと心底感じてしまう。
「じゃあ俺等で組むのか、どうするどんな騎馬作る?」
「えっと馬とかどうでしょう?」
「やめようぜ? もう馬はお腹いっぱいだ」
「わたくし刃様と馬に乗りたかったのですが……」
「またの機会って事で」
「そうですか、約束ですよ? ――なら、炎蛇にでも乗ります?」
「割とありだけどさ、俺のこと乗せてくれるのか?」
純粋な疑問、干支神達は自分を降ろせる存在でなければ無関心なのだ。
だから暦の一族は器になり得る子供を求め、血を濃くして何代も繋げてきたわけだし……適性がなければ乗る事なんて不可能。
「あら……ふふふ、炎蛇が懐くなんて初めてですね」
「……あー水無月の当主にはこの事内緒でお願いします」
だけど接してみたから思った。
俺の体質的に、どの干支神にも好かれるという事に。
だって
「なぜでしょうか?」
「いや、本当に頼む。まじでいうこと一つ聞くから」
「ふふふふふふ、それならいいですよ。母様には内緒にしますね、わたくし達だけの秘め事です」
あれー地雷踏んだ?
いや、大丈夫だ。雫は原作の高校生時点で色恋に関する知識が赤子レベル。
それより幼い今なら何も気にしなくていいはずだ。まあその分、知ってることは過激だが……そこはきっとなんとかなるはず。だってこの子は純粋さでいえばトップレベルだから。
「じゃあ行きましょう、二人で勝ち上がりましょうね」
「お手柔らかに……でも勝つぞ、ここまで頑張ったんだ負けたくねぇ」
というわけで計六クラスによる騎馬戦が始まることになった。
だけど、今日の運動会では葉月の子が相も変わらずサボっているので実質警戒するのは五クラスでいいだろう。まあその分伍組は強い子が目立つけど、暦の一族に比べたら警戒しなくて良い。
とりあえずはちまきは炎蛇の主である雫がつけ俺は後方に乗った。
俺が所属する肆組は大将である俺等の騎馬を守るように陣取ってくれている。
「じゃあ始めるわ。最終種目の騎馬戦よ、皆死力を尽くしなさい?」
そして始まる騎馬戦。
始まった瞬間に俺達は炎蛇のステルスを使い姿を消し、あらゆる炎を作れる能力も活かして炎の意志を持った幻影を皆が守る位置に置く。
「水無月家は縛りとして、はちまきを取る際それも20秒前にはステルスを解除しなきゃいけません――それにわたくしの能力は既にバレているので各々別の手段で対策しているでしょう」
「了解――ならそれ込みで大将狙ってくぞ」
炎蛇の能力の一つに視覚情報に音や匂いそれに振動すべてを無効化する完全ステルスがある。持続時間は宿主の霊力に依存し、攻撃の際も消えたまま出来るというおまけ付き、術を使う時術自体は隠せないがそれでも破格の効果だ。
そりゃあ制限されるよなって感じだが、他の組はどうなのだろうか? そこら辺少し気になるな。
「やはり狙うのですね大将を」
「そりゃな今のままじゃ一位なれないし、なるなら全組の大将のはちまきを獲るしかないだろ?」
「ええそれならわたくしは従います――では征きましょう」
そして作戦会議を終えて俺達はまず最初に龍華を倒しに行くことにした。
彼女の性格を見るに組めそうなのが剣ぐらいしかいないだろうし、剣の事を考えるに龍華としか剣は組めなさそう。それに純粋にあとあと残しとけば辛い二人だろうからだ。
だからステルスを活かして俺達は後ろから近付いたのだが……。
「龍華、兄様が来ます!」
「えぇ、そうみたいね――多分これ、後ろかしら?」
当てずっぽう……いや違う、完全な確信を持って龍華を背負った剣がそう言い、それに賛同する形で龍華が岩剣を幾つも飛ばしてきた。
炎蛇の機動力を頼りに避けるが、なんで彼女たちは分かったのだろうか?
それどころか、俺達を囲むように岩剣が敷かれ逃げ場がなくなってしまった。
仕方ないのでステルスを解除して対峙し、俺は純粋な疑問を投げかける。
「なんで分かった?」
「愛故「勘です!」ちょっと剣、割り込まないの」
「私に聞かれたのかと……それより兄様どうします? 逃げ場ありませんよね?」
「だな――だから押し通る!」
幸い前だけ、龍華達が居る方向には岩剣の壁がない。
だからここから抜けるにはそこしか無いだろうし、やるのならば正面突破だ。
あいても俺の意図は分かってるだろうし、今からやるのは術比べ。龍華の植物&剣の炎をいかに抑えられるかの勝負になるだろう――そう思った瞬間だった。
轟雷が校庭に響いたのだ。
激しい光りが目の前を横切り、その直後に音が鳴る。
眩しさに目をやられながらもすぐに危険を感じて、炎蛇に避けろと声をかける。
「ッ巴だな!?」
「えぇ、わたしですね――それにしてもよく避けましたね」
「雷といえばお前だろ」
「えぇそれで覚えてくれたのなら嬉しいです、それよりどうします? 二撃目行きますよ」
「ダウト、お前は前の戦いを見る限り連続での今の一撃は出せないだろ」
「――よく見てますね、ですが――敵が私だけとは限りませんよ?」
「さぁ刃、有象無象に構ってないでボクの相手をして貰うよ!」
瞬間感じるのは空中からの莫大な霊力、この覚えのある霊力はきっと……とか言う前に声的に澄玲だろうが、避けなきゃやべぇ。
「ヴァッサーファル・ディートレーネ!」
落ちてくるのが滝と見間違う程の激流。
それは炎蛇のおかげで避けれたが、今のを喰らってたら普通にダウンして鉢巻き取られてた。炎蛇はステルスのおかげで強いけど打たれ弱いし水に弱い。
泳ぐことぐらいは出来るが、澄玲レベルの水の術を喰らえば動けなくなる。
「ふはははは! ここで今代の暦の一族が集合だー! この戦いどうなるんだろうなぁ九曜殿!!」
「
今更ながら実況と解説は九曜様と午の一族である長月藍櫻先輩。
マイクを通してるせいか耳元で大声を出される感じがしてマジでうるさいが、そのおかげで状況が把握できた。
囲むように陣取り、俺達は互いに睨み合う。
動けばやられると行った状況であり、先に何かをすれば目を付けられる。
そして――俺達がそんな時間を10秒ほど過ごしたことで、あまり我慢の慣れてない暦の一族の面々が取った行動が……。
「面倒くさいわね。潰しなさい? 岩神巨剣――デイダラ」
「フィナーレさ! オツェアーン・インヴァズィオーン!」
「やることは一緒のなのですね――
「……刃様、合わせてください。封滅――炎蛇の庭」
「あはは、やっぱそなるよね……魔猪の突撃」
岩剣が、海が、雷が、炎の蛇が、巨大な猪が、その全てが一カ所に放たれる。
そして――残されて出遅れた俺は、その一撃を見送ることしか出来なくて巨大な爆発を見守る事しか出来なくて――。
「会場、壊れたわね――はぁ、今回の運動会はこれで中止よ。今度から術禁止しようかしら?」
爆発が九曜の手によって止められて、今回の運動会は校庭全壊という結果で幕を閉じた。まあ、なんだ。最後に一つ言わせて欲しい。
「爆発オチなんて……サイテーだ」
[あとがき]
というわけで運動会終了、とりあえずこの先ふざけた会が出来なさそうなので昇華を兼ねての間章でしたが、読んでくださりありがとうございました。
次回から五章が始まり、それが終われば第壱幕が終了って感じです。
今後の予定を先に話すと、六章からが第弐幕となり第弐幕は三~四章分予定ですかね。これからも頑張って更新していくので、闇堕ち転生をお楽しみください。
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