第53話:決闘前の平和な一時
あまり経緯の分からない状況で決まった決闘。
経緯はどうあれ少し楽しみなので俺は明日になるまで霊力の質を高めることに注力していたんだが……。
「ねえ刃、なんで皐月の子と戦う事になってるのかしら?」
寮の部屋に龍華が突撃してきてこんな事を聞いてきたのだ。
しかもそれだけではなく彼女の後ろには剣が居て、めっちゃ目を輝かさせている。男子寮に来るなよと思うのと同時に既にその話が出回っているという事に少し驚いた。
「えっと、成り行き?」
「……ふぅん。じゃあ、それが終わったら私と決闘ね。いいかしら?」
「それはなんでだよ」
楽しみとはいえただでさえアホ強い澄玲と戦うのに、その後に龍華と戦うとか正気じゃない。流石に日は開けてくれるだろうが、純粋に疲れるので断りたかった。
「だって最近私達戦ってないじゃない、それなのにずるいわ」
「えぇ……それならいいけどさ」
「兄様兄様、それなら私とも戦ってください! ――強くなりましたので!」
「……もうこの際だし別にいいぞ」
「ありがとうございます」
……三連戦かぁ。
休み時間とかは一緒に居るけど、剣の授業の様子は知らないのでどれだけ強くなったかは分からない。妹の成長を確かめたいし別に戦うのはいいんだが、どういうスケジュールになるか心配だ。
「そういえば剣、学校はどうだ? 授業楽しいか? 変わったことあったか?」
「はい勉強楽しいです――あ、それと舎弟が出来ました!」
「……龍華説明頼む」
俺が知らない事を彼女に聞いてみれば、返ってきたのはそんな事。
意味が分からないし、若干天然入っている剣に説明を求めても無駄だと分かっているので俺は龍華に助けを求めた。
「いいわよ。えっと私って留年してるでしょ? それで去年同じ学年だった申の子が煽ってきたの――で、ムカついたから剣を嗾けてボコボコにさせたらその子が舎弟になるって言いだした感じね」
「本当に何してんだよ二人とも」
「だって五月蠅いものあの申」
申で思い浮かぶのは原作で噛ませにされた
これが収束かぁと思いつつも、運命が変わってないあの苦労人に少し同情する。
能力面では原作の面影があるものの、性格が全然違う天然入った剣の舎弟は苦労しそうだなと思ったからだ。
「あと刃、皐月の子に負けたら許さないから」
「……元から負けるつもりはないけどさ、理由は何だ?」
「だって貴方を倒すのは私よ? それを取られるなんて嫌じゃない」
「龍華らしい理由で安心した。まあ大丈夫だ負ける気ないし」
「ならいいわ――あ、それと気になったのだけど、本当にどうして戦うの? 決闘を受ける理由はないでしょ?」
理由かぁ……いや、本当に何でだろうな?
何が理由かって聞かれたら孤蝶なのだが、相手側にいるから訳わかんないし、そもそもどうしてあの二人が知り合ってたのかが一番の謎。
でも答えないと龍華が気になったままだろうから、俺はとりあえずこう答える。
「ちょっと戦ってみたかったからだな。ほら最近平和だったし、あんまり戦ってなかったし、鈍ると思って」
「それなら私でいいじゃない」
「いやほらあれだよ、丁度その時一緒に居たし相手から誘ってきたし」
「へぇ……戦えれば誰でもいいのね。分かったわ――数日後楽しみにしてなさい?」
やっべ、地雷踏んだ。
言い訳的にも俺が悪いけど、これいつも以上に本気で来るパターンだ。
澄玲との戦いで苦戦するのに、いつも以上に殺る気の龍華と戦うとかまじで失敗した。今から機嫌を直すほどの器用さは俺にはないし、甘んじて受け入れるしかないが……生きてられると良いなぁ。
「そうだついでなのだけど、ご飯作ってきたわ四人で食べましょ?」
「兄様、私も手伝ったので美味しいですよ。なんと私の炎でじっくりやりました」
「山菜も私が作ったわ――霊力籠もってて美味しいわよ」
何その能力の無駄使い。
そう思いながらも今孤蝶がいない事を伝えて三人で食事をする事になった。
――――――
――――
――
「む、出遅れてる気がする」
「どうしたんだい孤蝶? 食事中だぞ」
「大丈夫多分気のせい。それより澄玲ありがとね」
「いいってボクと君の中じゃないか! ――それに元々ボクあの子とは戦ってみたかったしね」
皐月澄玲の為に用意された寮の最上階の豪華な一室。
そこでは今、丑を祀る如月巴と辰の一族である皐月澄玲――そして完全に馴染んでいる孤蝶が一緒に食事を取っていた。
「澄玲ずっと気になってたのですが、その式神とはどう出会ったのですか? かなり仲が良さそうですが」
「ふふ、やはり気になるんだね親友。なら語ってあげようじゃないか、孤蝶との運命の出会いを! あ、その前にご馳走様だ。今日も美味しかったぞノワールにブラン」
料理を食べ終えて執事服の人に礼を伝え皿を片して貰った後で、芝居がかったような台詞と大袈裟な動きで説明を始める澄玲。
「あれはね、ボクがいつものように庭園で絵本を読んでたときだ」
そこから語られたのは孤蝶と澄玲の出会い。
『その本貸して、読んでみたい』
『む……なんだい君は、ボクが今読んでいるだろう?』
『確かにそう、じゃあ待つ』
そんな事を水を使いながら説明した澄玲はドヤ顔でこう続ける。
「普段人が来ない庭園にやってきたボクにも引けを取らない美貌を持つ孤蝶、初対面でのその態度にボクはビビッときたんだよね。それで話してみたら物語の趣味が合うしで仲良くなった感じさ!」
「…………貴女らしいですね。それで何故刃様と戦いたいのですか?」
「ふっそんなの決まってるだろう? 気配だけで分かるけどあの子は強い、それもとんでもなくね。だからどっちが上か気になるじゃないか。それにあの子は龍の因子をどうしてか左腕に宿している……ボクはドラゴンを使役する者として彼の事が気になった。それだけの理由だよ」
珍しく真剣に、それこそ真面目な声音で澄玲はそう語る。
その答えを聞いた巴はそれ以上何も聞かなかった。
幼馴染みである辰の少女が珍しく他人に抱いた興味、どう転ぶか分からないけどきっとイイ戦いが見れるだろうと思って。
「刃様は氷使いです。相性は悪いですよ?」
「見れば分かる――でも、それがどうしたんだい? ボクはドラゴンを統べる最カワ美少女だぞ」
自信満々に、負ける未来など一切考えず少女は笑う。
それに澄玲らしいと思った巴は任された役割通りに戦いを見届けると決めたのであった。
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