第52話:オッドアイナルシストボクッ娘参上!!


「……えっと、なんで俺は拉致られたんだ巴?」

「知りませんよ刃様、わたしが聞きたいくらいです……犯人は誰か分かりますが」


 多分きっと天原学園の屋上に造られた舞台のある植物庭園らしき場所で、俺は丑の干支神を祀る一族のでである如月巴と共に紅茶を飲んでいた。

 何があったかと言えば、急に執事服の二人組に拉致されて……あれよあれよの間に紅茶で持て成されていたって状況なんだが、割とマジで意味が分からない。


「……にしても紅茶美味いな、初めて飲んだわ」


 今世ではという言葉が前に入るが、ずっと麦茶や緑茶ばっかりだったのでこの世界で紅茶は初めて飲んだ。正直美味すぎてこれから先飲む紅茶が霞むと思うくらいにはこの紅茶は美味い。


「わたしもあまり飲みませんね、普段は緑茶ばかりですので……それにしても刃様、よくこの状況で飲めますね」

「なんか害なさそうだし、何よりお茶菓子が美味そうで別にいいかなって思ってさ」

「呑気ですね……まああの子の事を考えますと多分ノリと勢いなので気にしなくて良いのは分かりますが」


 最初の言葉で分かっていたが、巴は誰が俺を拉致ったか検討ついているらしい。

 ……俺も俺で執事が出た時点で大凡の犯人は分かっているが、本当に彼女だったらファースコンタクトが変になりそうだなぁと思ってしまう。


「一応聞くんだが、やったの皐月の子だよな」

「正解ですが、知ってるんですねあの子の事」

「まぁ……学校で有名だし」

「…………一応友人として言うのですが、悪い子ではないですよ?」

「それはまぁ、なんとなく分かるけど」


 原作で知っているのもあるが、俺を執事に拉致させた少女は悪い子ではない。

 ただ問題としてすっごくナルシストで他にも属性が盛られすぎた挙げ句に不憫枠の印象が強く、苦手って訳じゃないけど……多分疲れそうで、なんか気が重い。

 とりあえず出てくるだろうその子を待ちながら、お茶を楽しんでいると急に屋上庭園が真っ暗になり、ドラムロールが鳴り始めた。

 それどころかいつの間にかさっき見た執事が現れて、それどころか水で出来ているだろう動物達さえ現れて楽器を演奏し始めた。

 そしてそれが暫く続き奥にある舞台にスポットライトに照らされて誰か……というかさっき話題に上がったばかりの少女が現れる。


「待たせちゃったね、だけどもう退屈はさせないよ? だってボクが来たからね!」


 そんな言葉と共に黒と白の混ざった髪色の翠と紅のオッドアイの美少女が現れた。

 横目で巴を見てみれば、心底疲れたような顔をしながら呆れていてまたかみたいな雰囲気を出している。


「君の派手な噂は沢山聞いているよ? それに相当な問題児だって事も知っている。だけどそんなのはボクには関係ない、だって暦の一族最カワのボクにとっては大したことが無いからさ!」


 舞台役者のように聞き取りやすいぐらいの大声で芝居がかったように喋るその少女、言葉の節々から自信に満ちあふれる彼女は本当に記憶通りだ。


「とりあえずだ。ボクの名前は皐月澄玲さつきすみれ、暦の一族の中で最も才に溢れて何でも出来る優秀な美少女様だ――あ、拍手しても良いんだよせっかく出てきたしね」


 確かに可愛いのは分かる。

 それに才能があるのも知っている――だけど、なんでだろうか? 実際に目にするとなんか――言葉を飲もう。


「む、なんだい? あまりにもボクが可愛すぎて言葉も出ないのかい? ――フハハハッ! 無理もない、ボクは最強で最上レベルに可愛いから。でもいいんだ畏まることはない、君はこの学園に招かれた強者なんだボクを前でも発言して良いんだよ」

「澄玲、いい加減本題に入ってください――なぜわたしを呼んだのですか? くだらない用でしたら帰らせて貰いますよ」

「そう焦るなボクの親友、君には大事な役目があるからもう少し待っててくれたまえよ、今日はせっかくの初めての観客がいるんだもっと語らせてくれたまえ」


 痺れを切らした巴がそう言ったが、澄玲はそれを全く気にしない素振りで話を進めて大きな動きで高らかに宣言する。


「ボクは、君に決闘を申し込む――それも歴史に残るような大勝負をね!」


 ドヤ顔で何より自信に満ちあふれた態度で断られる事を一切考えずにそう言われたのだが、俺としては受ける理由がないので断ろうと思った。

 

『受けてもいいじゃない刃? 彼女は貴方の記憶を視る限り強いのでしょう?』

『いや……純粋に面倒くさい。それにまじで理由ないし、あと怠い』

『そんなに嫌なのね――でも貴方には受ける理由があるわよ? 彼女の方を見てみなさい?』


 神綺の気になる言葉、なんだろうと思って澄玲を見れば彼女が指を鳴らす。

 すると、急に現れ鳥籠の中で絵本を読んでいる孤蝶が――――。


「…………何してんだよ」


 俺の言葉で気付いたのか、本をしまってこっちを見てくる。


「あえっと……わー刃、たすけてー」

「いや……えぇ、せめて棒読み止めようぜ?」

「そう、見ての通り君の式神は預かってるんだ! 彼女を返して欲しければボクと決闘する事だね!」


 どういう経緯で孤蝶が彼女の所に居るか知らないが、孤蝶がいないと普通に困る。

 それに彼女ならあの鳥籠の中ぐらい蝶になって抜け出せるはずなのに、それをしてないってことは多分グル。

 ……これ、断ってもいいけどあとで面倒くさそうだなぁ。

 孤蝶にあとで絶対説教するって思いながらも、俺は仕方ないので決闘を受けることにした。

 

「そうかいその返事を待っていたよ! それにここには巴という証人もいる。受けると言った以上逃がさないぞ!」

「……そのためだけに呼んだんですね、まあいいですけど」

 

 不貞腐れるようにように言う巴。

 俺も俺で断りたいし面倒くさいのだが、孤蝶が乗り気でそうやってる時点で断った方が面倒くさいのが分かるので断れないのが辛かった。


「それでいつ戦うんだ? ――俺としては今でも良いぞ?」


 自惚れてる訳でもないし、未来の彼女の実力を知ってる身からすると絶対に勝てるとは言えない。だけど、相性を考えるに負ける未来があまり見えない。

 最悪引き分けが一番あり得る線だろうし、満足させればいいだけだろうからそれならさっさと戦って孤蝶を返して貰おうという結論に至ったのでそう言った。


「ふふふ、そう急ぐんじゃないよ。ここじゃ観客が少ないじゃないか、もう九曜様には許可を取ってるからね、決闘は休日である明日校庭で行う予定だ。見届け人は巴に任せるから存分に戦おうじゃないか!」


 九曜様も関わってるというのがさらっと暴露されたが、本当にどういう経緯なのだろう? というかそれを考えると元より逃げ場がなかった事に気づいてしまう。

 ……でも、どうしてだろうか? 最近は戦ってなかったし、原作でも強キャラである彼女との決闘――それを考えると何故か少し悪い気がしなかった。

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