第51話:天原学園での日常
帰りの会が終わり、チャイムが鳴る。
転生した事による二度目の学生生活は割と問題無く進んでおり、新しい友達が殆ど出来ない以外は平和な日々が一ヶ月ほど続いていた。
「刃君、遊びに行こー!」
「あー今いく、ちょっと待ってくれ」
鞄の中に教科書を詰め終わり、用事も内侍で今住んでいる部屋に帰ろうかと悩んでいると、
顔の整った黒髪の美少年。小学二年ながらにそう思わせるような友人の近くには相棒であろう小さい猪が居る。
「よし行くぞ亮――というかお前からくるの珍しいな」
「うん、二人に先越される前にね」
「……あーなるほど」
亮が言った二人というのは妹の剣と龍華だ。
この始まった小学校生活で基本的に俺はあの二人と過ごしている。休み時間は勿論の事、寮でも門限までは基本一緒の部屋にいる。
「二人の邪魔したくないけど、刃君と遊びたいからね。だから今日は早く来たんだ」
「了解、それなら遊ぶか。でも何するんだ?」
「えっと、うり坊の召喚許可貰ったから体育館で遊ぼうかなって」
「楽しそうだな、孤蝶も呼んで良いか?」
「うんいいよ! 話は聞いてたけど会ったことないから気になってたんだ」
そんな事を話ながらも俺達は体育館に向かっていると途中で担任の先生とすれ違った。少し眠そうにしているその男性は俺に気付くと声をかけてくる。
「十六夜、今じゃなくても良いんだがあとで訓練場来れるか?」
「いいですよ夜空先生。えっと、こないだの続きですよね?」
「ああ造形術式の追加授業だ」
この学校には前世で普通にならう教科とは別に、使える術によっての専門授業がある。俺ならば氷と木になるのだが、その際の氷に関する担当教師が今話している
「あ、極月もいたのか。見学来るか?」
「行きます先生、刃君の術みたいですし」
「了解だ。体育館使うって許可は見てるし、用事が終わったら二人で来てくれ。訓練場は予約しとくからな」
そこで先生と別れた俺達は何事もなく体育館に辿り着き、数十匹のうり坊達に孤蝶を加えた面々で鬼ごっこをして遊び、そのまま職員室に向かった。
「よし、来たな十六夜。解放して良いぞ」
そう言われたので俺は霊力を解放して辺り一帯に冷気を放出する。
少し狭い部屋と言うこともあってか一気に気温が下がり、横目で見れば亮が白い息を吐いていた。それに対して上着を渡していた先生が少し印象的で、準備が良いなと思ってしまう。
「……いつも見てもやばいよな十六夜の力は」
ぼそっと漏れた先生のその一言。
俺はいつも普通にこの術を使っていたが、氷使いから見るとこの使い方はしないらしい――というか出来ないししないというのが先生の談。
何故かと言われれば、単純に燃費が悪いし最悪死ぬから。
俺の冷気放出の原理は単純で、放出する霊力を片っ端から冷気に変えてるだけなのだ。だけど普通そんな事をすれば霊力が一瞬で枯渇するらしく、刃の霊力量がなければ自殺行為だったみたい。
最初先生に見せた時にはめっちゃ引かれた上で止められたのは良い思い出だ。
俺もそれを聞いたときは肝が冷えたし、改めて原作の刃のやばさを実感したのを覚えている。
「動かすぞ、準備はいいか?」
こくりと頷けば、先生が作った訓練用の氷人形が動き出し俺に襲いかかってくる。
「今回は言った通り造形術式をメインで鍛えるぞ、まずは刀からだ」
そう言われたので俺は手の中により鋭利になった刀を作り出す。
刀に関しては四季があるから覚えなくてもいいと思われるかもしれないが、戦える手段はいくら用意してもいいので一切の損がない。
斬って裂いてを数十回ほど繰り返し、次は別の武器。
氷使いというのは使える武器が多いほど強くなれる。何故なら氷である程度の武器を作る事が出来るから。それが出来る事による利点としては相手によって武器を変えられることで、理論上は武器の相性を覆し続けれるのだ。
夜空先生は武器を作る一族の生まれのようで、武器に関する知識が半端じゃない。彼に習う前の俺は記憶にある通りに武器を作って使っていただけだが、彼のおかげで一つ一つの武器に関する知識が上がった。
「次は大剣のを出すぞ」
声がかけられてその通りに大剣を持った氷の人形が出てくる。
何を作れとは言われなかったが、今までの授業の経験から俺は瞬時に双剣を作りだし、懐に潜り込んで手数で破壊する。遅く一撃が重い相手は手数で潰せ、彼に習った通りにそれを実行し、また出てくる別の武器使いに合わせた武器を作る。
武具に関して一芸を極めるセンスは俺にはない、だからこういう授業が組まれているが、それを考えると先生と出会えて本当に良かったと思う。
「よし今日はここまでだ。人形の破壊数は80だな。やっぱり思うが十六夜の造形術は反則だな」
「ラグが殆どないですからね、冷気は用意してるのであと造るだけですし」
普通の造形術式は霊力を練る、それを自分の属性に変換するそしてそれを形にするという手順を踏まなければいけないが、俺の場合は違う。
霊力を放出しているから一々練る必要も無いし、既に冷気となってるから手元に想像して作るだけでいい。それを理解している先生だからこそ、こういった授業を組んでくれてるし、度々思うがまじでいい先生だと思う。
「とりあえず宿題としては前渡した武器の歴史本の読み込むだけで良いぞ」
「了解です先生。えっと今日は解散ですか?」
「ああ片付けは俺がやっとくから帰って良いぞ」
そういう事になったので俺は荷物をまとめて亮と一緒に帰路に着き自分の部屋に帰ることにしたのだが……。
「お疲れ様です刃様、これ暖かいお茶です」
「――ありがと……雫?」
急に現れた水無月雫がとても自然な流れでお茶を手渡してきたのだ。
あまりにも自然すぎて受け取ってしまったが、彼女は何処から現れたのだろうか? いた、彼女の蛇の能力を考えるとステルス出来るのは知ってるけどさ、まじでいつからいたの?
「えっとぉ、なんでいるんだ?」
「ずっと、見てましたので」
「あ……そうなのか。ちなみにいつからだ?」
「授業が終わってからですね、鬼ごっこの時も居ました」
「…………そっか、寒くなかったか?」
色々聞きたいことはあったが、言葉を飲み込んで俺はそう聞いた。
蛇の干支神を信仰し身に宿す彼女の事だし、訓練中のあの空間にいたら辛いと思ったからだ。
「炎蛇のおかげで大丈夫でした。ふふ、心配してくれるのですね刃様」
「ああ。あとさ雫、せめて声かけないか? 普通に驚いた」
彼女の気に入った者に執着する性格は原作で理解しているし、少し気に入られてると分かってるから受け入れてはいるが、今回に関してはめっちゃ驚いた。
「恥ずかしいではないですか、それにいつもは龍華様がいるせいでバレるので」
「……なるほど、出来れば次は普通に声かけてくれ」
「善処はします。では私はこれで」
そう言ってまたすぅーっと消えていく水無月家のお姫様。
その後は少し引き気味の亮と別れてとりあえず宿題をやった後で寝ることにした。
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