第50話:超大天才清楚病弱系美少女発明家

 とりあえず血を吐き続ける少女をベッドに寝かせ、気絶した先生もついでに寝かせて、俺はどうすべきか迷いながら少しの時間を過ごした。

 運んだのを説明しなければいけないし、何より保健室の備品を勝手に使うことも出来ないので、まじで俺は何も出来ない。


「服着替えたいけど……どうしよ」


 今の俺は背負っていた少女の血で濡れており、肩から下が真っ赤っか。

 見た目からしてホラー映画の殺人鬼であり、もしもこのタイミングで保健室に誰かが来ることがあるのならば絶対に勘違いされるぐらいには見た目が酷い。


「……むぅここは保健室かい?」

「起きたのか、えっと大丈夫……じゃないよなあんた」

「まさか本当に運ぶとは――とりあえずありがとう。でも驚いたよ、この学校にまだ私を助ける子がいるなんてね」

「いや、あの様子見たら助けるだろ」


 血を吐いてたし、何より倒れたしで流石に放置出来ない。

 そんな事を考えながらも俺は改めて彼女を見ることにした。長い灰色の髪をした少女ながらに整った顔、そして事あるごとに血を吐くという体質、そしてこの口調。

 その情報で頭に過るのは原作での発明家キャラだ。

 そういえばこんなキャラだったなと思いつつ……この頃からこういう体質だったことに驚いた。


「ふぅんそっか君は馬鹿か!」

「……馬鹿は酷くないか?」


 助けたのに馬鹿扱いは酷くないか?

 反射的に言葉が出たが、彼女の過去を知ってる身からするとその反応は理解出来てしまった。だって彼女も彼女で少し境遇が悪いから。


「だってねぇ、私なんて見るからに厄ネタだろう? そんな私に関わろうとするなんて馬鹿か善人かしかないじゃないか。あ、でも何かお礼した方がいいかい?」

「別に俺が助けたかっただけだしいらん。目の前で誰か倒れてたら寝覚め悪いし」

「そっか、そういうことにするよ。まああれだねせっかくだし自己紹介でもしようか。私は初等部三年の睦月撫子むつきなでしこ、見ての通りの超大天才清楚病弱系美少女発明家さ」

「肩書きなっが――あと自分で言うなよ」


 一切に噛むことなく自分の名前と肩書きを語る少女改め撫子。

 原作でもドヤ顔と共に披露されたその肩書き。アニメ版でも聞いた事があるが普通にちょっと感動……と共にこれをドヤ顔で言われると叩きたくなる気持ちが分かる。このキャラの読者からの総評は、ガチ天才だけど妙にムカつく美少女であり、実際に多くの発明を作り剣を助け続けた善人だ。


「で、君は? 私はこの学校の生徒を全員把握してるんだけど、知らないんだよね」

「あー今日転入してきたし無理ないぞ。えっと十六夜刃だ……あれ、というか始業式にいなかったのか?」

「あれ、今日って始業式だっけ? あーそういえばそうだったね。転入生が来るから出来れば参加しろって言われてたよ、まあ用事あったからサボったけど」

「…………大丈夫なのかそれ?」

「駄目だと思う。でもしょうがないじゃないか、私は何かつくってる方が好きだし、興味ない誰かを見るくらいなら自分の好きなことやってる方がいいからね――でも」


 そこで彼女は言葉を切った。

 そしてそのまま、俺の事を観察しながら凄くイイ笑顔でこう続ける。


「君が転校生なら行った方がよかったかな? だって君、凄いもの宿してるよね?」


 視る……とは違う。

 だけど俺の中に神綺がいるのか確信したような言い方で彼女はそう言いきった。

 今までの九曜とかとは別の感じだが、彼女は確実に神綺を認識している。これだけで彼女の異常性が分かってしまうが、どうやったんだ?


「――ふふ、その顔はどうやってと思ってる感じかな? それなら教えてあげようじゃないか! 種としてはね、私が作った探知機のおかげだよ――ごふっ興奮しすぎて血が……」

「俺が悪かったから落ち着いてくれ」

「ふふ、だって私の発明を披露する機会なんてあまりないからね、テンションがあがるのは仕方ないだろう?」

「……そっか、なら聞くよ」

「君はやはりいい子だね。あ、そんな君にはサービスとして私の秘密を教えてあげようか! 私は生まれつき霊力の回復量が多いんだ。それも限界以上に回復しちゃうんだよね――その過剰分が血となって出ちゃうって話だよ」


 知ってはいたが、彼女の吐血の正体はこれだ。

 この世界には天贈呪償てんぞうじゅしょうというモノがある。それは何か特別な才能を与えられる代わりに見合った呪いの代償を強制的に付与されるというもので――で彼女は今言った通りに霊力が過剰回復してしまう才能を授かっている。

 代償は語った通りの吐血であり、常に貧血状態。

 体はどこも悪くいないが、魂が不具合を起こしており治癒できない才能のろいを持ってしまっているのだ。


「そんな顔しないでくれたまえ、私は受け入れてるからね」

「…………してたか、そんな顔」

「うん、捨てられたデンキウナギみたいな顔だったよ」

「何だよその顔――いやそもそもそんなもの捨てるな?」

「ふふ、冗談さ。本当に君は優しいんだね。まああれだね、話してたら元気になったし君は帰るといいよ。私は大丈夫だから」

「……了解、あんまり言えないがお大事にな」

「うん、君こそ中の子と仲良くね。あとこの先生には私が説明しておくよ」


 そこで彼女と別れた俺はそのまま校門で待っていた家族と瑠華達に会いに行ったのだが……会った瞬間にドン引きされた。

 最初はなんでだ? とそう思ったが、よく考えなくても俺の見た目完全に返り血浴びた人なんだよなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る