第49話:転入先で早速出会って
雪が場を支配する体育館で拍手も喝采もなく場を無言が支配した。
その瞬間に頭に過ったのはやり過ぎという言葉、見るからに引かれているというか……なんというか、本当にやり過ぎた。
「これでこの子の実力は分かったかしら?」
それを見て面白そうに笑う九曜様。
……彼女からしたら面白いものかもしれないけど、俺としては本当に気まずい。
だってあれだぞ? この学園が建ってるのは東京であり、こんな極寒なんて体験する事はない。それなのに、氷点下30度ぐらいに変えちゃったし……完全に化物を見るような目で見られてる気がする。
「じゃあこれで始業式は終わるわ――土星・シャニの弓」
で――問題はここからだった。
九曜が能力を使った途端に空間が戻されたのか吹雪く世界が元の体育館に。
相変わらずのバグ能力と思いつつも、無事? に終わった始業式。
「兄様、私は自分のクラスに向かいます!」
「おう、頑張れよ剣」
「はい! 天下取ってきます!」
それは程々にと伝えてから俺も俺で自分のクラスである肆クラスに向かった。
学年的には二年生なので、あるのは二階だろう。俺が今日から通う天原学園 初等部は六階まで校舎があり、学年別でクラスが分かれている。
とりあえず教室に来たので自分の席を探して座った。
用意されていたのは窓側の席で、教室全体を見渡せるような場所となっている。
既に教室には全生徒が集まっており、なんというか凄い見られている。あれだけ目立ってしまったせいというのもあるだろうが、めっちゃ注目を浴びていて居心地が悪かった。
「…………つらい」
やり過ぎたのは分かる。
はっちゃけた自分が悪かったのも理解している。
だけどだ……二度目の小学校とはいえ、このままぼっちライフを過ごすのは普通にメンタル的にキツかった。
しかもあれだ。この学校は基本的に二年間は同じクラスなのだ。
つまり、このクラスにおける新人は俺のみであり、既に関係が形成されている中に放り込まれたようなもので……。
話しかけないことには始まらないのは分かっているが、この状況で誰かに話しかける勇気は俺には無く、一応最後の抵抗として横を見れば……その席には見覚えのある翡翠色の髪を持つ少女がいた。
彼女は本を読んで我関せずといった態度で教室にいるが、時折俺の方を見ていてすぐに顔を逸らすという行為を続けている。
……なんでだろうか?
明らかに怯えられている。最後に会った時はここまで露骨じゃなかったはずだし、話しかけても意味なさそうな感じがする。
義理はないが、彼女の母親に気にかけてくれと言われた以上ある程度関わりは持ちたいが……この様子だと無理そう。でも、一応関わりはあるし話しかけれそうなのは彼女だけだ。だから俺は勇気を出して話しかけてみることにした。
「……久しぶり?」
「ひゃっ――ひ、久しぶりですね」
やっぱり怖がられているのか、彼女の態度はぎこちない。
それどころか、話しかけられたせいで言葉を探し始めたのか視線を彷徨わせてる。
俺から話しかけたし、流石に話題を振るのが筋だろう。
「試練ぶりだが、あれからどうだ?」
「変わりは……ない、ですね。貴方はどうなの、ですか?」
「俺は元気だよ。というか、俺名乗ってなかったな。
「はい、こちらこそ……末永く」
「え?」
最後にナニカが付け足させたような気がするが、普通に小さな声過ぎて聞こえなかった。思わず聞き返してしまったが、彼女は誤魔化すように笑いこう続けた。
「いえ、とにかくよろしくお願いします刃さま」
「ああ、よろしく?」
そこで会話は終わり、このクラスの担任らしき先生が入ってきて、そのまま挨拶が行われて今日は解散となった。
この学校は俺が住んでいた静岡県から離れた東京にあり、通う以上は寮に住むことになる。もう荷物は運ばれているだろうし、あとでそこに行けばいいだろう。
今日の用事としては卯月家の面々と転入祝いの食事会があるので、校門に行かなければならない。
学園を見て回りたかったけど、時間もないので俺は普通に教室を出て校門に向かおうとした――んだけど。
「死体?」
なんか二階から一階に向かう階段の踊り場でうつ伏せに倒れる誰かがいた。
かなり長い灰色の髪をしている恐らく少女であろう何者か。その誰かに対して既視感を覚えつつも、流石に放置できないので俺は声をかけながら少し揺らした。
「大丈夫、ですか?」
「…………ごふっ」
「え、ちょま!?」
で、それが不味かったのか分からないが、彼女が血を吐いた。
それも凄い量。普通に階段が血塗れになったし、なんというかスプラッターな光景が広がった。
「――えっと救急車? それとも保健室か? いや……まじで俺にどうしろと?」
凄く焦った。
携帯もないし救急車は呼べない、人を呼ぼうにも何故かこの光景は無視されてるしで、割とマジで状況が謎。
そんな中、血に沈む少女がむくりと起き上がり……。
「ふ、ふふ――大丈夫だよ。いつものことだから、放っておけばいいさ君――おっと、また吐血が」
とてもいい笑顔で話しかけてくる彼女は、あまりにも自然な流れで血を吐いてそのままどっかに行こうとする。
だけど、俺としてはそんな彼女を放置できるわけもないので――。
「何処行く気だよ?」
「え、保健室さ――流石にこのままじゃ不味いだろう?」
「なら一緒に行く。流石に放置できない」
「いや、いい。初対面の私に時間を使い必要はないよ――あ、待って倒れる」
なんだこの人。なんでこんな体調で一人で行こうとするんだ?
また目の前で倒れていく彼女をとにかく俺は背負って、そのまま学校の案内を頼りに保健室に向かうことにした。
その途中に奇異の目で見られており、彼女が道中でも血を吐くので血塗れなったりとかしながらも俺は無事に保健室に辿り着く。
「はぁはぁ――すいません、先生いますか!?」
「始業式になんだい――って、なにこのスプラッター!? ――まって私血は無理」
そして、保健室の先生までもが俺等を見て倒れて――保健室には血塗れの俺、背負われる病弱少女そして、気絶した先生が残った。
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