第48話:天原学園始業式
桜が舞い散り、歩く地面を
基本的に富士の樹海で過ごしていたからか、こういう景色を見るのは今世初だけど、前世の入学式でよく見たような光景だなと思うと、妙な感覚に襲われた。
それだけではなく、原作の刃の技も桜が元になってるのが多いという事もありテンションは爆上がりしているのもある。あとここ原作の舞台である学園の付属校だし。
「兄様、桜です! 兄様の技とそっくりです!」
「そうだな剣、というかその様子を見るに納得したんだな」
一ヶ月前に俺とクラスが違うと父さんから言われた際の絶望顔は今も記憶に残ってるが、今の楽しそうに桜を堪能する様子を見るに機嫌は直ってるのかもしれない。
「いえ、納得はしてません。ですが、龍華を倒すのには近い方がいいと父様に言われたので!」
「……そっかー、頑張れよ」
「はい! 絶対倒して兄様を取り返します!」
この妹は何と戦ってるのだろうか?
意気揚々と闘志を滾らせ打倒龍華を掲げ校門へ向かう妹様。桜を見てテンションが上がってるのは分かるが、何かネジが外れてないか心配だ。
とりあえず先に校門に向かった父さん達に会いに行くためにも俺は剣と一緒に道を歩いていたのだが、その途中で感じ慣れた霊力を察知した。
相手も俺に気付いたようで、俺の元に角の生えた白髪の少女が駆け寄ってくる。
「よう龍華、久しぶり」
「えぇ二ヶ月ぶりね、最近どうかしら?」
「変わりないぞ? 龍華達は?」
「私も。それで華蓮の方は札の中でぐっすりよ。貴方に会うって聞いて昨日眠れなかったみたい」
義娘? である華蓮は十六夜家にいてもカオスが広がるだけなのと能力の修行のためか龍華と一緒に過ごしている。本人的には俺と龍華と一緒に過ごしたいらしいが、それは嫌だと剣が珍しく駄々をこねたので今は龍華預かりとなってる感じ。
「なるほどな、あとでちゃんと話すか」
「えぇ、そうしてあげなさい」
「あ、龍華! なんで貴女がいるんですか!」
「だって私もここの生徒だもの、別にいても変じゃないでしょう? それより、そろそろ始業式よ、転校生である貴方達は早く行かないと駄目じゃないかしら?」
「む、それもそうですね。兄様行きましょう!」
「あー分かってるから服引っ張るな剣。えっとまたあとでな、龍華」
「えぇ、終わったら集まりましょう?」
そんな話をした後で校門の前で家族で写真を撮り、俺と剣は馬鹿広い体育館の壇上へとやってきた。
段取りとしては始業式の後で転校生である俺達のお披露目があるらしい。軽い紹介程度とは聞いてるが、ここは九曜様が作った狩り人育成の学校だしサプライズで何か祓わせられる可能性もある。
……というか、そっちを容易に想像出来るのは多分原作を読み込んだからで、九曜様の性格を知ってるからとなるのは凄く嫌だ。
今から準備した方がいいのだろうかと、ちょっと不安だ。
あと普通に心配なのが友達が出来るかという点、この学園は小学校のクラスが六年間固定されているので、既に輪というのが出来ているはずで……今更馴染めというのは割と酷なような気も……。
「兄様、どうしたました?」
「いや、ちょっと心配で」
「兄様なら大丈夫です、絶対にこの学園の頂点取れます!」
「えっと剣、俺の事なんだと思ってるんだ?」
「……? 兄様ですよ?」
「…………」
無言になった。
普通に天然の気がある剣の事だし、本心だろうしで聞きにくかったから。
とりあえず気まずかったので剣の頭を撫でて、俺は始業式を壇上裏から観察する。
軽く霊力感知を行いながらも、端から生徒を見てみればクラスの大将となる暦の一族が列の先頭に並んでいた。
上から順に、如月、卯月、皐月、水無月、葉月、極月って感じ。
見た目で言うと如月は前に会った巴であり、卯月は龍華、皐月は何故かこの状況で鏡を見てる自由人で水無月は少し縮こまり気味。葉月は羊の上で寝ていて……極月である亮はそれを起こそうとちょんちょんと肩を叩いている。
うん、すっごく知ってる感じの性格。
……そんな事を思いながらも過ぎる始業式を見守り、俺等の紹介までやってきた。
「そうだ皆、これからは私が進行するわ」
そしてその瞬間に舞台に中心に現れるのは、相棒の姉である神無月九曜。
この場にいるモノ全てを魅了するかのような白い容姿の彼女は聞き惚れるかのような声で言葉を紡ぐ。
「暦の一族以外の子は初めましてかしら? 私が神無月九曜よ……でも今日はあんまりお話しできないの。だって今日の主役は私ではないからよ」
初めて見る狩り人の長。早々表舞台に出ることのない彼女に圧倒される生徒達。
初めて見るであろう神という存在に何を思ったか知らないが、彼女の言葉で皆が何かを待ったのは確かだろう。
「皆に報告よ、学園に転入生を呼んだの――さあ出てきなさい二人とも」
段取りは説明されてなかったし、何より九曜様が出るとか知らなかった。
いやケモノを祓う可能性自体は考えていたけれど、本人が紹介してくるのは違うだろう。とりあえず壇上裏にいるのは俺達だけなので二人共というのはこっちを指してるし、逃げ場がない。
とにかく手招きされてるので皆の前に二人で立てば、様々な視線がこっちに向けられる。前方にいる子供達からは純粋な好奇心、中腹辺りに並ぶ子達からは何故かの敵意。
それにもっと後ろにいる偉い方々からは、まじで色々入り交じった値踏みするような視線が感じられ少し嫌な感じを覚えた。
「……兄様」
「大丈夫だ剣、気にするな」
小声で安心させるように言う。
今の視線に対して怯える妹だが、これに関しては仕方ないだろう。剣はずっと家で修行してたから人と関わる機会なんて龍華ぐらいしかなかったし。
「十年ぶりに十六夜家の子を呼んだわ。名前は刃と剣、ちゃんと強い子だから仲良くしてあげてちょうだいね」
そんな事言わないで欲しかったと思いつつ、九曜様ならやるのは分かってたし出た時点で予想しておいた方が良かったかもしれない。
「じゃあ早速だけど刃、一つ術を使って頂戴?」
ちょま!?
口からその言葉が普通に出かけたが、普通に待って欲しい。
そんなの聞いてないし、何の説明もされてない。だけど、彼女のやれという態度とこの狩り人集まる場所で断れる訳がなく――。
「……はぁー、分かったよ九曜様」
「ふふ、出来るだけ派手なのが良いわ」
なんとか色々言いたい文句を飲み込んで使う術を考えることにした。
殺傷能力重視である俺の技は学校の始業式では使えないし、最近はそればっかり鍛えてたせいか割と何をすればいいか思いつかない。
『……神綺、どうすればいい?』
『あの姉の案に乗るのは癪だけど、刃の為だしこういうのはどう?』
それから頭に彼女から何をやれば良いか提示されたので、俺はそれに従う様に術を練る。これは完全に宴会芸みたいな技になるが、実力は示せるだろう。
だってこれはある意味全力を出さなきゃ魅せれないような技だから。
「――空霊氷蝕」
空気中に満ちる霊力に俺の霊力を流し込む。
そして続けるように俺の周りの霊気を全て変質させ――。
「流転氷龍――天翔の巻」
詞に意味を霊力を最後に載せることで、その全てを使い仮初めの命を吹き込んだ氷の龍が顕現する。そいつによって体育館全体に雪が降り、室内にもかかわらず北海道の真冬のような景色を作りだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます