第33話:戦闘準備
「――もう一回お願いします!」
修行三日目、逢魔さんの術に吹き飛ばされ、受け身を取ったところでそう言った。
対する彼はこくりとだけ頷いて、再度数多くの木の根を向けてきた――それは鋭利で四方八方から迫ってくる。
絶え間なく襲ってくるその術、それを俺は防ぎながら逢魔さんに接近するが……彼が足を踏みしめるだけで増える木の根に邪魔された。
攻防一体、そんな言葉を表すようなその術。
逢魔さんの意志一つで武器となり盾となるそれはかなり厄介、龍も使ってくるだろこの術に慣れないといけないから始まったこの訓練だが……かなりキツかった。
「――冷気は出すな、お前はそれに頼ってる節があるからな。身体強化も禁止だぞ」
そして今回の縛りとして俺は冷気の放出を禁止されている。
感知、防御、攻撃、陽動、追撃――その全てを俺は自分の冷気に頼って戦っていた自覚はあったが、使えないとこうも無力だとは思わなかった。
使って鍛えた方がいいと思うが、俺の今の使える範囲じゃ龍神には通用しないだろうから基礎スペックを高める事に今は集中している。
今まで自由に放出したモノを体に留めるというのはかなりキツく、意識すると冷気を出してしまいそうになってしまう。
特に何がキツいかと言われれば、今までだったら出てる冷気を形にするだけでよかったのに一から武器を作る必要があること。必要分の霊力だけを消費するというそれに未だ俺は慣れずにいた。
「お前は天才だ。だが、その大部分は冷気を周りに出す才能に頼っている。相手は龍神だ何をしてくるか分からんからな……切り札になるそれを最初から使わないようにキツいだろうが体に覚えさせろ」
今の目標は冷気放出なしで二秒以内に武器を作り術を練れるようになることだ。
そうすれば龍神に通用するかもしれないという事だし、原作を知ってる俺自身もそれはそうだと思えるから。
原作のあの龍の能力、それは大地に関する全てを創造する力。
植物、土、岩石、水……主に使ってくるのはこれだが――改めて並べると意味が分からない。大地全てが相手のテリトリーであり、それに関するモノ全てを操るバグといってもいい性能を持っている。
もっと分かりやすく言えば、龍華の完全上位互換であり彼女の完成形だ。
「……集中しろ、続けるぞ!」
「ッはい!」
逢魔さんの属性は木、植物関連に対策するために鍛えて貰っているが、木の術の最高位のこの人に鍛えて貰えるのはかなり助かる。
今は新種……というより、彼が作った未知の植物に襲われているがどれも効果が強力で、気が抜けない。
「――
生えてくる不思議な蕾、一瞬何か戸惑ったが地面一帯を植物が埋めたことで一気に気を引き締める。
そしてその花が咲いた瞬間――蕾が槍のような棘を飛ばしてきたのだ。
あまりに危険だろうその技、氷の盾を何枚か作りだして四方を防ぐも簡単に五枚ほどの盾が割られた。
「その技は防いで終わりじゃ無いぞ」
忠告だろうその言葉、何が起こるか待つ暇の無く嫌な予感がしたので逢魔さんに突っ込めば、視覚外から槍が飛んできた。
冷気による感知があれば防げただろうその攻撃、すぐに切り替えようとしたのだが霊力が吸われる感覚に足を止められた。
見れば、掠った部分に蕾が咲いている。
「なんだ……これ」
「この術はな、無限に増えるんだよ。で、少しでも掠れば相手の霊力を吸うって技だ。ほらまだ来るぞ、俺は立ってるから頑張ってみろ一撃当てたら終わりだぞ」
言われたとおりに地面には先程よりも蕾があった。
それが咲いて槍になると考えるとぞっとするが、あの龍神はこれより強力な術を使ってくるだろうから文句なんて言ってられない。
「絶対一撃当ててやる」
「そうか、頑張れよ」
そして俺は、そのまま術を練り思考を巡らせて新たな術を考えながら逢魔さんに突撃する。きっとこの修行が終われば少しでも強くなれると信じて。
◇ ◇ ◇ ◇
修練場で戦う刃の姿を見て、私は何も言えなかった。
傷付く彼を見て、今すぐにでも駆け寄りたいが私が彼の枷になると考えると震えてしまう。お父様に聞いた所、彼は龍神と戦うそうなのだ。
理由は知らない、経緯も分からない――でも、彼は無謀にも挑むらしいのだ。
止めたかった。そんな事しなくて良いと言いたかった――だって、これは私の問題だから。彼に死んで欲しくないから。
彼が強いのは知っている。
この修行を見守っているが、日に日に霊力は上がり術の練度も上がり、それどころかお父様に禁術の一つを使わせる程に成長した。
でも――駄目なのだ。
私はあの龍の力を知っている。
自分に宿っている物だからこの力の可能性を嫌という程に理解している。だからこそ、彼が勝つ未来が一切見えない。
それを伝えたいが、今の私は彼を前にすると何も喋れないし近付くことすら出来なくなっていた。会いたい――でも、怖い。彼に拒絶されるんじゃないかって思うと何も考えられない。
「……本当に嫌ね、私ってこんなに弱かったかしら」
私は強くなりたかった。
強くありたかった――だけど、今の私は誰よりも弱い。
こんな思い知りたくなかった。彼と出会わなければよかった――だって出会わなければ彼が傷付く必要なんてなかったのだから。
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