第34話:吐露
……修行四日目の夜、その日も俺は夜遅くまで戦い続けくたくたになって床に倒れていた。
「あーしんど、まじで疲れる――でもやるしかないんだよな」
記憶の中にある龍神の力、それを思い出すと少しでも強くならなければいけない。
だって、何もかもが足りないから――大地に関する全てを操るあいつと戦うには今の俺では全部が足りない。
確かに少しずつ強くなってる実感はある――霊力も増え、冷気を制限されたことによって術の練度も上がった。
けど……どうしても勝てる未来が未だ見えない。
裏技として神綺様と契約して四季を手に入れるという手段は勿論あるが、今の俺では使える気がしなくて未だ覚悟が決まらなかった。戦うのは分かってるが、四季を使える気がしなくてどうしてもそこに踏み込めないのだ。
「……最悪俺が俺じゃなくなる――四季の呪いを考えると本当に危険だし……」
そんな事を言ってる暇はないというのは分かってるが、どうしても踏み込むナニカがない。龍華のため、逢魔さんが笑うためという目的はあるが……今の俺ではという考えが邪魔をしてくる。
「弱いなぁ、俺……」
使わず死ぬという結果が待ってるかもしれないけど、四季を使う事だけはどうしても怖い。原作の刃ですら蝕んだアレに俺が耐えられるわけがないと……そう、思ってしまうから。彼は乗り越えたが、俺は――と、考えるとどうしても。
「やめだやめ、とりあえず瞑想だな」
弱気になって意味ないし、とにかく今は霊力を高めるためにも瞑想あるのみ。
……勝てる勝負も弱音吐いてちゃ勝てないだろうし、強敵相手なら尚更だ――そうして残された修行場で鍛錬を重ねてると、不意に体に刻まれた呪印が痛んだ。
「はっ相手も力を高めてるのか……少し慣れたけど痛いなこれ」
魂までも蝕むような呪いの痛み。
それに襲われていると、ふと誰かの気配を感じた。
霊力からしてそれは龍華であり、上手く隠れているようだけど霊力感知出来る俺からすると筒抜けだった。
逢魔さんからは何の影響があるか分からないから近付くなと言われていたが、最近話してなかったし、彼女の事も心配だったので俺はこっそり近付くことにした。
「……どうしたんだよお前、何の用だ?」
「ひゃ……刃、なんで来たのよ」
話しかければ驚いたのか今までの彼女からは想像出来ない声が上がった。
「いや、お前がいたし……最近話してなかったし?」
俺が彼女を助けた日から約五日ぐらい?
そのぐらいの間は会話してなかったし少し積もる話もある。
後ずさり逃げようとする龍華、俺はそんな彼女の手を取って言葉をかける。
「逃げんなよ、流石に傷付くぞ」
「でも、お父様に会うなって」
「俺もそれは言われてるから内緒って事で頼む、怒られるから」
「……貴方らしいわね」
「まぁな、俺だし」
らしいもなにも俺なのでこういう事はやる。
同じ事で怒られるならバレないようにするだけ――持論だがかなり理にかなってるだろう……まぁ、その分バレた時の代償が二倍ぐらいになるけど……。
「で、何の用だよ……タダ見てるだけって訳じゃないだろ」
「……貴方と話したかったのよ」
「なら逃げようとするなよ、それじゃあ話せないだろ」
至極当然だろう疑問、話しに来たというなら逃げたら意味ないしそもそも隠れられてたら話せない。
「……心の準備ぐらいさせて欲しかったわ」
「お前が?」
「何よそれ、私だって緊張ぐらいするわ」
いやだって、卯月龍華だぞ?
原作最恐と言われるメインヒロインの……いつもやると決めたら即決のお転婆娘。そんな彼女が緊張? ……とも思ったが、彼女の顔を見て茶化せなくなる。
「じゃあ待つ、話したくなったら言ってくれ」
「……勝手ね、でもありがとう」
だから俺は待つと言うことを選んだ。
いきなり話しかけたのは俺だし、そんなんじゃ準備も何もない。
だから彼女が話せるようになるまでその場で待つ事にした――そして約二分ほど、待ったところで彼女が口を開いた。
「ねえ刃、この家から逃げてくれないかしら」
「……理由を教えてくれ」
「貴方に傷付いて欲しくないの――だから、この家から逃げて頂戴」
「無理だな、俺はもうその龍神に狙われてるし逃げれないから」
「……それでもよ、私があの龍に嫁げば説得ぐらいは出来る筈、だから貴方は逃げてこの家に関わらないで」
少し泣きそうに鳴りながら自分の意志をはっきりと伝える龍華。
龍華なりにそれはかなり考えたことなのだろう。あの龍に嫁げばどうなるかは彼女が一番分かっているだろうし、何よりそれを言うのには相当な覚悟は必要だから。
「契約に関しては安心しなさい、宝物殿からこれを盗んできたから」
彼女はそう言って一本鋏を取り出した。
それは俺からすると心当たりがある物、原作でも登場する神具の一つだった。
「これは、
それを伝え彼女はその鋏を開き、何やら呪文を唱え始めた。
すると彼女と俺の間に鎖のようなモノが可視化される――多分これは彼女が俺に強引に交わした式神契約の術そのものなのだろう。
「今から契約を断ち切るわ――さよならね、刃」
そう言って契約を切ろうする龍華、確かにこれがあれば契約は解除され俺は自由の身、逃げて家に帰ればハッピーエンド……龍華は龍に嫁いで俺はこの先――。
「駄目だ――勝手すぎるぞお前」
「……え?」
俺は彼女から鋏を奪い、目を真っ直ぐと見てこう告げる。
「なぁ龍華、俺は龍神と何が何でも戦うぞ――お前に何を言われてもだ」
「どうして?」
「初めて出会ったとき、俺はお前が苦手だった。だって強引に契約交わしてきたし、何よりなんか色々怖ぇし」
よく考えなくてもファーストコンタクトは最悪。
それに加えて寝室に忍び込んでくるしめっちゃ本気で攻撃してくるしで色々大変。あと重いし。
「……それはそうよね」
「だけどな、同じぐらいお前と過ごせて楽しかったんだよ」
「……そんなの嘘よ」
信じられないのかすぐにそう否定する龍華に俺は彼女の手を取って伝える。
「いいや本当だ。お前と戦うのが楽しかった。お前が料理作ってくれて美味かったし嬉しかった。なんなら案外初心で可愛いし……まぁこれは置いておいてだ。俺はお前に笑ってて欲しいんだよ――十六夜刃として、龍華に笑ってて欲しいんだ」
原作キャラで未来を知っているからではない。
改めて彼女と話して思ったが、俺は俺が関わった卯月龍華に笑っていて欲しい。惚れたというわけではない。でも、友達として……彼女にはどうしても笑って欲しい。
……そう思った時、すっとナニカが腑に落ちる感覚がした。
あぁ、そうか――俺、コイツに笑ってて欲しいのか。
そうだよな、それでいいのか。ならもっとちゃんと伝えよう。
「だから、信じろ俺を。絶対に勝つから――龍神ぶっ飛ばしてくるからさ、見守っとけ卯月龍華。弱音を吐くお前なんか見たくないんだよ」
本心からそう伝える。
この言葉が彼女に届くかは分からないが、どうしても伝えないといけないから。
「……馬鹿なの、貴方? 私は酷いわよ、ずっと貴方に無茶苦茶したのよ?」
「知ってる、そんなの分かってる」
「私に笑って欲しいからってあの龍に挑むの? たったそれだけの理由で?」
「そうだよ……俺からしたら立派な理由だ。だから見てろよ、あの龍は倒すから」
「本当に馬鹿ね、でも分かったわ。だから隣で見届けてあげる。勝つのでしょう?」
「それでこそお前だよ……あぁ、絶対にあの龍に勝ってやる」
そう言って龍華は笑った。
いつもの調子で龍華らしく、それを見た俺はもう迷わなくていいだろう。
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