第32話:起きたら状況がカオスだった時、貴方はどうしますか?


「というわけで貴方、龍神に喧嘩を売ってきたわ」

「はぁ……はぁ!?」


 呪いの影響でいつの間にか寝ていた俺が起きれば、なんかそんな事を神綺に言われた。思考が止まること数十秒、理解するのに約二分……そして飲み込むのに一分かかり……俺は次のようにツッコんだ。


「俺が寝てたのってどれぐらいだ? いや、そもそも何があった?」

「どう説明しようかしら……そうね、蜥蜴が来たから追い払ったの。そしたら再戦する事になったのよ」

「……詳しく頼む、逢魔さん」


 一緒に部屋にいる彼に助け船を求めれば、詳細に話してくれた。

 だけど、それを理解したいかは別であり……あの百合龍と神綺が戦う事になった現実に頭が痛かった。次の新月は多分五日後、その時にここに現れるだろうが被害を考えると笑えてくる。


「どう戦うんだよ、神綺」

「あら私は戦わないわよ?」

「……は?」

「だって今日ので力使っちゃったんだもの」

 

 可愛らしく、ふふふと笑いながらそう言いやがった未来の相棒様。

 ……あまりにも聞きたくなかった言葉過ぎて、聞き返しそうになったが、結果が変わらないだろうから俺は言葉を飲み込んだ。

 でも、一つ聞かせて欲しい。


「え、あの……神綺? それだと誰が戦うんだ?」

「貴方よ」

「ごめん、もう一回言ってくれ?」

「だから貴方が戦うの……適任でしょう?」

「逢魔さんは?」

「無理だな……術特化の俺じゃあ相性が悪い。それに普通の奴の術じゃ通らねぇし」


 ……それでなんで俺が戦う事になってるのだろうか?

 え、無理だぞ普通に。だってあの龍は原作の剣がめっちゃデバフ入れて毒を盛ってなんとか倒せた存在……それも成長した刃の助力があって倒せた存在なのだ。

 俺なんかじゃ絶対に倒せるわけがないし、何より倒せる未来が見えない。

 今から弱体化させる術でも覚えれば……と思ったが、あれは文月家の奴がいてなんとか出来た筈だし、俺はそういう術と相性が悪いだろう。

 あれ、もしかして詰んだか俺?

 逃げるのは多分不可、呪いが幾分かマシになってるが、呪われてるのは変わりないし多分逃げたところで見つかるだろう。

 弱気になるのは駄目な気がするが、あれの本気を知ってる俺からすると相性悪いとかいう話じゃないし。


「どうしろと?」

「勝ちなさい、貴方なら出来るでしょう?」

「――いや、無理だって」


 神綺からの信頼が凄い。

 ……というか、凄すぎないか? 普通に考えて龍神と六歳の子供を戦わせるのはヤバイだろ……でも、やるしかないよなぁ。

 逃げられないからではない――ただ単純に、神綺から聞いた龍の態度が気に食わないから。原作キャラで仲間になるとかもう知らん、俺の周りの人に危害を加えるなら敵である。


「はぁー……神綺、死んだら恨む」

「えぇ、それで死んだらずっと一緒よ」

「死ねなくなったわ」

「酷くないかしら?」


 いやだって、ずっと神綺といるのはメンタル的によくないし、まじで魂が永遠に囚われる自信しかない。転生してこの世界に来たから二度目の生というのは信じているが、絶対に魂が終わる……なんなら魂だけで囚われ続ける。


「お前等仲良いな……」

「よくない」

「ふふ、いけず」


 なんか割と信じられないような顔で言われたので、すぐに否定する。

 俺は神綺と仲良くないし、なんならいつも恐れてるし、滅茶苦茶苦手だ。気は許しているかもしれないが、未だ名前を告げてないしな。


「なんだ……お前が戦うなら、五日の間全力で鍛えるが……本当に良いのか刃? 今更だが逃げても良いんだぞ? これは卯月家の問題だしな」

「そうですね、正直言えば逃げたいです。勝てる気しませんから……だけど逢魔さん、俺は卯月家の皆が好きです――逢魔さんにも龍華にも笑っていて欲しいから、戦いますよ、そんで勝ってきます」


 覚悟を決めた……なんて大層なことは言わない。

 でも、勝つしかないのなら勝とうじゃないか――原作の刃は、病み堕ち後めっちゃキツい対戦カードばっかりだった。成長し続ける剣とか、覚醒した龍華とか、四季を奪うときに戦う事になったらしい九曜とか……あれ、なんで生きてたんだあいつ?

 なんなら最終決戦前とか剣と戦う為、周囲のケモノを一人で倒し尽くすという無茶をやってたし、今思うとまじで馬鹿だろ刃。

 まぁなんだ俺は刃の体の中にいるのなら、龍神と戦うぐらいの無茶ぐらいしてやるしかない。負けるなんて考えるな、勝てないなんて怖じ気づくな。

 彼の顔に泥を塗らないためにも、全力で挑んでやる。


「というわけで逢魔さん、めっちゃ鍛えてください。遠慮はいらないです」

「了解だ。残り五日、全力で鍛えてやる」

「呪いの中和は任せなさい? ――荒技だけど防ぐ手段は見つけたもの」

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