第17話:夢神社の中で
目覚めるとなんか重かった。
何かが乗っているというか、誰かに乗られているというかそんな感じ。初めての感触に、現実の方かと思ったが上を見上げれば普通に神綺様の顔が目の前にあった。
「……あの、神綺様?」
「…………何かしら?」
「頼むから退いて貰えます?」
「……ふふ、絶対に嫌よ」
重くはないけど、普通に顔がよすぎて直視できないから退いて欲しい。
そう願ったが、彼女は明らかに不機嫌そうに断ってきてそれどころかより力を込めてきた。抜け出せないし動けない、金縛りにでも遭ってるのか……いや全然縛られてるんだけどさ、このままだと何も出来ないから退いて欲しい。
あと単純に此処に来た時の記憶が無いのだ。
なんか推しキャラの一人が襲来して襲われたのまでは覚えているが、その先の記憶が無い。戦闘中だった気もするし、早く戻らないと孤蝶が危ないだろう。
「危ないから帰らせてくれ神綺様」
「嫌、貴方は暫く私の下に居なさい」
「なんでだよ……というか怒ってるのか?」
「…………私が? 怒る? ……そんなわけないじゃない」
心外だと言いたげにそう伝えてくるが、明らかに不機嫌そうで何より表情も暗い。それどころか様子もおかしいしで、絶対神綺様は怒ってる。
仮にも彼女とは五年の付き合いなのだ。些細な変化ぐらいには気づけるし、何より原作で怒った時とそっくりだし……彼女は確実に怒っている。
「覚えてないから教えてくれると嬉しいんだが、俺は龍華と何があったんだ?」
「知らない覚えてないなら良いじゃない――待って、なんで呼び捨てなのかしら?」
「いや、名乗られたし……畏まる様な奴じゃないし」
「そう……あの女は殺すわ」
「待て? 本当に待ってくれ神綺様? 落ち着こうぜ? 何があったか知らないけど、とりあえず落ち着こう。不味いから、殺すのは駄目だってまじで」
原作の流れ的にもメインヒロイン死亡なんてあってはならない。
え、なんでこんなに殺意高いんだよ。確かに彼女の性格を考えれば、俺に害を成す奴を許さないのは……まぁ理解出来る。でもだ。こんなに殺意全開なのはおかしい。
「……ねぇ、なんで庇うのかしら?」
あ、やばいかもしれない。
曇る表情、冷える空気に下がる気温。
それどころか普段この神社で過ごしている鴉が目を背けているしで、かなり神綺様が怖い。というか地雷しかない、どんだけ埋まってるの? って聞きたいレベルで地雷しか置かれてない。指一本動かすだけで爆発するだろうし、かなりやばい。
「ほら、あれだ。卯月って名乗ってたし逢魔さんの娘だろ? 流石に恩人の娘だし殺される訳にいかないし……神綺様のそんな姿みたくないなぁって」
「よく回る口ね、塞ごうかしら?」
もう、どうしろと?
言い訳は無駄、殺す気満々の彼女に対して何て言葉をかけていいのか分からない。
どうして彼女がこんなに怒っているのか分からないから、記憶を頑張って探ってみれば……過ったのが、主人公サイドの推しキャラである卯月龍華に襲われる記憶。
「…………あれは不可抗力だと思います」
無理だよあれ、怖かったし。
だってあれだぜ? あの子は原作最恐キャラと言われてるんだぜ? それに見合う恐怖を与えてきて俺は動けなかったし、何より拘束されてたしで俺はきっと悪くない……はず。
「うるさいわ、私だってしたことないのに。ずるいじゃない」
あ、駄目だこれ。
怒った理由を完全に理解した。ソレと同時に神綺様も嫉妬するんだなと、ちょっと変な事を考えた。なんかちょっと可愛く見えてきたが、それはきっと彼女の策略……じゃないな、純粋にそう思ってるのか吐露した自分の気持ちに顔を赤くしてる。
いつも余裕そうに振る舞う彼女が、ここまで自分の感情を出す光景。
なんかそれには慣れなくて、こっちまで恥ずかしくなってきた。
「……機嫌治してくれ」
「別に機嫌は悪くないわ、どこが悪く見えるの?」
いやどう見ても悪いだろう。
だがそう言うことは出来ないので、言葉を飲み込んだがいい。だけど加減戻らないと不味いだろうから俺は賭けに出る事にした。
「…………神綺」
「なにかしら、貴方……え、呼び捨て?」
「これからそう呼ぶから、今日はなんとか許してくれないか」
まじでこれが精一杯。
完全に許してくれるとは思えないけど、少なくても機嫌はよくなる筈……というかそう信じたい。
「あんなに頑なだった貴方が、呼び捨て?」
「そうだけど、なんかおかしいか?」
「違うの……嬉しくて、ふふもう一回呼んでくれないかしら?」
「……? 神綺?」
「もっとはっきりと呼んで頂戴」
「神綺……あのちょっと恥ずかしくなってきたから許して」
これ駄目だ。自分で言った手前恥ずかしがるのは負けな気がするが……なんかめっちゃ顔が赤くなってきた。普通に恥ずかしいし、むず痒いしでなんか死にたい。
「良いわよ、許してあげる――だけど、最後に我が儘を聞いて?」
「……俺に出来る範囲なら」
「ふふ、じゃあ頂きます」
え、待って?
そう言う暇も無く、マウントポジションで押さえつけながらキスされ貪られた俺は、そのまま意識が飛んでいき、夢の中から意識が浮上していった。
ただ最後に一つ言わせて欲しいのだ。
……撫でる事だけを要求してくる孤蝶って癒やしだなぁと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます