第18話:式神契約


 現実に戻れば十六夜家の屋敷の中だった。

 見る限りは客間。起きたばかりで働かない頭で周りを見渡せば、そこには父さんと頭の痛そうにしてる逢魔さん……そして、床で眠る俺の事を覗き込んでいる龍華がいる。


「連れてくるんじゃなかったなマジで……」


 後悔しているのか、頭に手を当てながらこっちをみる逢魔さんが居る。

 その弱った姿は前に見た彼からは想像出来ないほどで、よく見れば胃の辺りも抑えていてかなり不憫……というか、この人大丈夫か? と思う程には疲れてそう。


「……かおすぅ」

「あら、おはようね刃」

「……………………」


 本能的にすぐにその場から離れた。

 そこで一斉に俺にへと視線が向かい、なんか気まずくなったがとりあえず何が起こったかを聞きたい。


「酷いわね、どうして離れるの?」

 

 金の瞳が俺を見据える。

 魂を覗かれているようなそんな感覚に襲われ、意識を失う前に感じた恐怖を再び覚えてしまう。あの狙われているような、餌としてみられているようなそれに再度体が冷えていく。


「起きたのか刃。体に違和感ないか? 意識ははっきりしてるか?」

「なんだよ父さん、怖いこと聞かないでくれ……違和感はどうだろ」


 体に軽く霊力を巡らせれば舌辺りに微かな違和感が……滞っているというより、何かを刻まれたような感覚。心当たりがあるとすれば式神に関係する契約と同種のモノ……背中に冷や汗が流れるのを感じてしまい、反射的に龍華の方を見ればにっこりと笑みを浮かべてきた。数秒の現実逃避、救いを求めるように逢魔さんに質問する。


「あの、逢魔さん? ――この気のせいだと思いたいんだが、俺……契約してる?」

「……あぁ」

「それも式神契約?」

「…………あぁ、そうだな」

「なんで?」

「………………本当にすまん、うちの娘がやった」


 簡潔にそう言われた。

 それで大体の事を原作知識と合わせて理解する。

 卯月家は縛りと契約を得意とする一族。逢魔さんが異端児なだけで本来なら契約によって神物や呪物を管理を任されている家なのだ。

 そして卯月家の禁術の一つに強制契約というのがある。

 それは門外不出の術らしく、使える者が限られており――とかそんな事を言ってる場合じゃなくて。

 え、つまり何? 

 俺……式神になった? 龍華の? あの最恐キャラの? メインヒロインなのに、強すぎてやべぇやつの? え、そもそもその役目は剣のモノで?

 浮かび続ける疑問符。あまりにもあんまりな現実と情報量に混乱が極まっている。


「どうやって?」

「あーそれは、うちのちょっとやばい術の応用……だな」

「解除は? 契約なら出来るよな?」


 一応契約であるこれは解除出来る筈だ。

 というかしないと不味い。闇堕ち回避を目指している以上原作を壊すのは覚悟しているが、流石に剣のポジションを奪うのはヤバイ。

 あれ、でも確かこの式神契約って相当大事な奴……というか、まじの夫婦の契り的な意味合いもあった気が。それもすっごく大事な原作のイベントで、剣と龍華が覚悟を決めたときに初めて交わされる契約で……あの? ちょっとまじで待ってくれ?


「すぐには出来ない」

「終わった?」

「いや。大丈夫だ刃、効果は俺の霊力で中和したから、本来の契約の効力は無くなった。精々一年ぐらい離れられなくなる程度だ。まぁ離れたらやばいが」

「どこに安心要素を見いだせと? そもそも、どういう術なんだ?」

「他言無用で頼むが、卯月家の初代女当主が作った術でな――相手を確実に逃がさなくする契約の術……だな。浮気とかしたりうつつを抜かせば爆死する」


 ギャグみたいな効果だが初代女当主やばくない? 

 そんな術を作る発想もそうだが、実際に作る手腕と口ぶりからして使っただろう思考回路がヤバイ。


「さっきから聞いていたのだけど、嫌なの?」

「嫌というか、殆ど初対面でその契約されるのはやばいだろ」

  

 会って一日も無いだろう俺にそれを使うのもやばい。

 嫌という話じゃなくて、そもそも常識的に初対面の奴にそれを使うのが分からない。俺がやったのって勝って押さえつけて……あれ、今更だが俺って龍華に触れた?

 

「でも、貴方は私のはじめてを奪ったのよ? 私に触れて負けさせるというそんなはじめてを――奪われたのなら責任を取らせなさいってお母様が言ってたわ」

「触れた? おい刃、本当に龍華に触れたのか?」

「………………触れた」


 心臓が脈打つ。

 それどころか冷や汗が止まらない。

 そう、確かに俺は龍華に触れた――触れてしまったのだ。いや、触れられたというのが正しいかも知れないが……何と言おうとも俺は卯月龍華に触れられる人間という事になる。それは……本当に不味いのだ。彼女に気に入られる要素の一番をそれだけで占めてしまうから。


「なぁ逢魔、さっき言われたがどうしてその子に触れるなって言ったんだ?」

「……龍華はな、龍に愛されているんだよ。生まれながらに魂を見初められある龍に加護を与えられた。その反動で家族以外触れる事が出来なくてな、今まで父である俺と……母親のあいつ以外は触れただけで呪われ、長時間触れれば俺ですら無理だ」


 そう今言われたとおり、龍華はそういう境遇なのだ。

 で、はじめて自分に触れられる剣に惹かれ絆を育み契約し、ヒロインとしてどんどん覚醒する――んだけど、状況的に俺がそのポジションで?

 そもそもなんで俺が龍の呪いに耐えられたんだよ――と思ったが、呪いに関してはその龍より何千倍もやばい者を宿してるからで説明できてしまった。

 そりゃそうだよな、耐性があるとかいう話じゃなくて俺呪いとか多分彼女のおかげで効かないし。


「だからね、はじめてだったのよ? それに貴方は私を負かした。少し武器を突き立てれば殺せる程にね。だから決めたの貴方と一緒に居ようって」

「……断ることは?」

「嫌よ? 絶対に嫌――もう私は貴方以外いらないもの、絶対に貴方を私のモノにしたいの」


 ……そうやって再び笑う原作最恐のヒロイン。

 金の瞳を輝かせはっきりとした意志を持って俺を見る卯月龍華。

 これから、どうなるんだろうか? 闇堕ち回避できるのかな? とかいう疑問が何処かに行くほどにこの状況のやばさに目眩がする。


「だからね、私しばらくここに住むことにしたのよ。これからよろしくね、旦那様」


 聞いてないと言いたげに龍華をガン見する成人男性二人組、そんなカオスな状況で頭を痛めながら、孤蝶を撫でたいなぁと現実逃避した俺はきっと悪くない。

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