第16話:最恐キャラ


 開始の合図は彼女から、空中に幾つもの岩石で出来た剣が作られて俺に襲いかかってくる。どれもが即死級の攻撃、当たったらやばいどころか死ぬのが簡単に想像出来てしまう。驚く暇はない、今は避けなきゃ不味いからだ。


「ッ殺す気かよ!」

「ちゃんと刃の部分は潰したわ、気絶程度よ」

「純粋に物量で死ぬわ」


 そんな事を言いながらも、俺は解放した冷気を操って氷の壁を上空に作り出す。

 どれほどの威力か分からないから、出来るだけ冷気と霊力を込めて作ったそれは迫る岩剣で出来たそれを当たった端から凍結させる。

 防いだことでほっとする暇は無い、この少女が攻撃の手を止めるわけ無いのだから。彼女にどうして目を付けられたのかは分からないが、とりあえず今は落ち着かせるしかないだろう。


「次はこれよ、防いでみなさい?」


 彼女が手に持つ鉄扇を動かせば、幾つもの槍に加工された木が下から迫ってくる。

 それは速く鋭利であり、当たれば貫かれるのは確定で――何より数が多すぎる。

 しかも追尾性能持っているのか、避けても避けても追ってくるしであまりにも殺意が高い。初対面だよね? とかいう疑問を晴らす暇も無いだろうし、今は生き残る事に集中しよう。

 

「あぁもう、あとで理由聞かせろマジで」

「私に勝ったら良いわよ?」

「なるほどな、なら――本気でボコす」


 解放した霊力の二割を強化に回す。

 単純な身体強化術だが、一年間鍛えたおかげで上限も増え孤蝶と戦った時以上の強化にも今の俺は耐えることが出来るので、後れは取らないだろう。


「ッ――速いわね」


 高速で迫り彼女の持つ鉄扇を狙う。

 アレを使って術を使ってるだろうから、ひとまずの勝利条件としてそれを定めることにした。

 届く一撃。

 しかしそれは鉄扇によって弾かれて、俺の後隙を狙ってまたも槍が迫ってくる。


「あら、上手く使えないわね。何したの?」

「俺が出した冷気だよ、この寒さなら植物は使えないだろ?」

「面白いわね、霊力を解放するだけで冷気を作れる相手なんて初めて見たわ。貴方は特別なのかしら?」

「さぁな、いるだろそんぐらい。俺でも出来るんだから」


 原作の刃もやってたし、氷を操るケモノの一体にいるだけで吹雪を起こす奴もいた。だからこの技術は割と普通のモノのはず。

 それに原作の刃なら成長したら龍華を圧倒できてたはずだし、この段階で苦戦する俺はやっぱり駄目だ。


「それは会ってみたいわね」


 彼女が踏み込んでくる。

 一気に距離を詰める龍華の手には先程の鉄扇ではなく刀が握られていた。

 ソレによる連撃は速く鋭く可憐な技。原作がアニメになった時に描写されていたからその技を知ってたのだが、それがなければ防げてなかっただろう。


「防いだ――うふふ、本当に凄いのね貴方!」

 

 声を張り上げ、楽しそうに舞う龍姫。

 彼女の攻撃は本当に防ぎづらい、刀の攻撃だけだったらよかったが、その間にも木の槍、岩石の剣絡めてくる植物が俺を休ませてくれないからだ。

 植物の動きは冷気のおかげで抑えられているが、それでも彼女の攻撃を防ぎながらというマゾゲーは止めて欲しい。


「やっぱり何度も防げるのね、初めてよこんなの!」

「そうか、あと頭上注意だ」

「――当たって」


 今まで完全に気配を消し、蝶になっていた孤蝶が姿を現して蝶を手向ける。

 これが当たれば多分眠る筈だ。そうすればこの戦いも終わるだろうし――とそう思っていた。だけど、彼女を知るものならそれはやってはいけないことだった。


「眠らせようとしたの? でも、それは私には効かないの」

「ッ――――加護持ちか」

「あら博識ね。そう私は加護持ち、あらゆる状態操作は私には効かないの」


 思えばそうだった。

 彼女はありとあらゆる状態異常を受け付けないという加護というものを持っており、正攻法で倒すしかない存在なのだ。

 だから今の技に意味は無くただ霊力を消耗させただけになる。


「それにしても酷いわね、私はこんなに楽しいのに……終わらせようとするなんて」

「誰だかしらんけど、俺は平和主義なんだよ。出来れば戦いたくない」

「それは出来ない相談よ、ここまでやったもの貴方だって消化不良でしょ!」


 いや全然。

 とそんな言葉が出そうになったが、強制的にそれは飲み込ませられる。

 彼女が……卯月龍華が一段と多くの霊力を可視化できる程に解放し岩の大剣を作りだしたからだ。あまりに巨大なそれは優に四メートルを超しており控えめに避けるのは不可能だろう。

 見る限り刃は潰れているが完全なる質量兵器。

 潰されたら神綺様が迎えに来るのは確実で、なんというかまじでやばい。語彙力が消えるぐらいにはヤバイ。


「――さぁ、受け止めなさい?」

 

 そこで俺は生き残る為にも周りに充満していた冷気を全て刀に集め、その上残っていた六割ほどの霊力も全て注ぐことにした。


「一刀烈華――氷刃霊葬」


 なんとか形にだけはなった刃の必殺技。

 鞘に刀を収めて迫る巨剣に向けて抜刀、両断と共に完全に対象を凍結させる。

 そして、これ以上は被害を考えて不味いと判断し一気に彼女との距離を詰め――そのまま押し倒すようにして地面に組み伏せる。


「これ以上は不味いからやめてくれ、お転婆娘」


 何より俺が限界だし、霊力が殆ど空だからいつ気絶してもおかしく無い程に意識が朦朧としてるしではやく終わらせたい。 

 でも戦闘狂の彼女の事だ……多分暴れられるだろうし、組み伏せ続けるのも身体のスペック的に無理だろうから諦めてもう気絶させるしか……。


「……私に触れれるの貴方?」


 だけど、返ってきたのは予想もしてない反応だった。

 何故か俺に組み伏せられながら心底驚いた様な表情を浮かべていて、なんというか有り得ない事が起こった時のような顔をしている。


「初めて家族以外に触れられたわ……それも男の子に……」

「え、どういう反応?」

「押し倒されて組み伏せられて――しかも相手はちゃんと強くて。ねぇ、私の負けで良いわよ?」

「え、あ……じゃあ解放するけど」


 負けを認めてくれたことで俺は彼女を解放し、完全に戦意がなくなったことを感じた。よし、これでいいやと思ったのも束の間――俺は気付く。

 目の前の彼女がめっちゃ顔が赤い事に……。


「――初めて、本当に初めて異性に触られた」

「え、ちょっと?」

「しかも、押し倒された――それに負けたのも」


 まぁ確かに地面に押さえつけたけど、それはお前が仕掛けてきてそれしか手段がなかったからであって――ってそれより不味くないか? なんというか俺の勘が逃げろって言ってる気がする。


「ねぇ、貴方……名前を聞かせてくれるかしら?」


 ゆっくり彼女は立ち上がる。

 埃を払いながらも下を向いて……で、どうしてかその声に戦闘の時以上の恐怖を感じた俺は素直に答えてしまった。


「十六夜……刃、です」

「えぇそうよね、貴方が刃よね――本当にお父様の言う通りだったわ」


 顔を上げて彼女は微笑んだ。

 とても綺麗で可憐な笑顔で、ただ笑ってるだけだけど何故か有り得ないほどの恐怖を感じ体が動けなくなった。

 いや、比喩じゃない。

 恐怖もあるが、なんというか……足に植物が巻き付いてて動けないというか。

 勿論霊力が殆ど残ってない俺に抵抗する術はなく、彼女が徐々に近付いてきた。

 ――そして、


「ねぇ、刃……貴方、私のモノになりなさい。これは契約よ?」


 顔に手を当て、首に手を回し……抵抗できない俺に舌を絡めてきた。

 

「――――!!!?!?」


 しかもそれだけではない、俺に霊力を注ぎなんかの印を結び術を刻みやがったのだ。しかも強力な奴。こっちの残った霊力を吸いながら彼女の霊力を流し込まれ、完全に空になった俺は意識を落とした。

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