第15話:原作ヒロイン登場
父さんが仕事に行って五日が過ぎたとある日の事。
俺はいつも通り午前中に鍛錬して午後になったら妹や孤蝶と共に過ごす……というそんな日常を過ごしていた
「……はぁ、まじで平和――うん、最高」
「どうしました兄様?」
「いや、なんでもない。ただ平和って良いなぁって」
強くなる実感と、争いとは遠い日々。
ケモノを狩る以外特に代わり映えない日に安堵しながらも妹である剣の頭を撫でる。まだ襲撃の時ではないのか、原作開始前である今はとても平和であり何より時間が有り余っている。
「そうだ剣、久しぶりに模擬戦するか?」
「ッ――やります兄様」
即答する妹、やはりそこには強くなろうとする原作の面影があり、性別が変わってもこいつは剣という事を再確認した。
というわけで孤蝶に審判をして貰い外れにある訓練場で模擬戦をする事になったんだが……。
「……むぅ、勝てません」
「そりゃな、でも剣は前より強くなってるぞ」
剣の術の属性は火、そして特性は交霊体質。
原作での使われ方としては、何かを宿す武器と心を通わせその力を引き出すといった感じ。順調にいけば剣は火の術を極め、相性の良い霊達と心通わせる万能型になる筈だ。
「それにしても剣、日に日に殺意高くなってないか?」
「……どういう事ですか?」
「あ、無意識か……」
今日戦った限りでは俺の術に対抗できるほどの火は操れないが、素早く的確に首などを狙ってきたり心臓を狙って突いてきたりとかなり殺意が高い戦いをしてくる。
確実に命を獲れるようなそんな動き、多分無意識なのだろうが……普通に戦っててヒヤヒヤする。俺ならついてきてくれるという確信があるからか、どんどん成長するしで普通に負けられないから焦るのだ。
「流石主人公、やっぱり凄いな」
境遇で言えば刃の方が辛い目にあい成長できる場所は幾度もなく彼の方があったのに、剣は仲間という大きな力とその才能で幾度となく襲いかかる試練を乗り越えた。
彼の視点で物語が進むからそっちに感情移入して読むことが多かったけど、いざこうしてこの世界に生きていると少し羨ましい……まぁ、大切な家族に思う事ではないと思うけど。
「……どうしました兄様?」
「剣は可愛いなーって思ってただけだよ……流石は俺の妹」
「からかわないでください、続きやりましょう」
「はいはい、じゃあちょっと次は段階上げてくぞ」
「負けません」
そんなこんなで妹と時間を過ごしながらの鍛錬を繰り返す。
そしてそれが一時間ほど続いたとき、訓練場に母さんがやってきた。
「二人ともそろそろ夜ご飯よ、孤蝶ちゃんが手伝ってくれたから手を洗って居間に来なさい」
「はい母様」
「あいよ母さん」
二人して訓練場から離れて手を洗って居間に進む、今日の食事を楽しみにしながら居間にいけば、そこにはいつも通りの夕食が並んでいた。
「今日は自信作、食べて刃」
「ん、ありがと孤蝶――って美味いなこれ」
自身があると言われた物を口に運べば確かにいつもより美味しかった。
なんというか活きが良い? いや違うな、素材が進化しているというか……なんか美味い。
「なにしたんだ?」
「隠し味に雷入れてみた、痺れる美味しさ。特に鰹節踊ってたよ」
「どんな料理方法だよ……」
「ほめて撫でてくれると嬉しい」
呆れてるんだよ……そう言えればよかったが、彼女のドヤ顔を見るに何も言えなかったのでとりあえず撫でておいた。
「そうだ昴から伝言預かってる。今日帰ってくるらしい」
「了解……少しケモノ狩って待っとくか」
車で行っただろうし、襲われて事故に遭ったら大変なので周囲のケモノを狩っておくことにする。
「分かった私も後で行く」
という事になったので俺と孤蝶は飯の後に外に出ることになったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
夕食後、森の中にケモノを狩りに来た俺達は、今日やってきただろう奴らを粗方刈り尽くして一休みしていた。
十六夜家があるのは龍穴付近。ソレを狙っているケモノは多く毎日のように生まれたばかりのあいつらがやってくるのだ。
龍穴とは、陰陽道や古代道教、風水術における繁栄するとされている土地のことであり、この【けもの唄】の世界で暦の一族が守る場所の一つ。
神道を基準とするこの世界において大切な意味があるそれらはケモノからすると力を手に入れるのに格好の場所。そこから流れる霊力を本能的に求めており、龍穴を発見した奴らはこぞってここにやってくる。
「今日は少ないな、他にいないか?」
「うんいない、周囲に気配はなしで――待ってあるけど、どんどん消えてる?」
「変だな父さんが帰ってきて祓ってるのか?」
「わかんない、でもなにか来る」
なにか来るそう言われて身構える。
すると森の奥から植物が伸びてきたのだ。
明らかに不自然なそれ、それは孤蝶目掛けて鋭く伸びてきて――危ないと思った俺は咄嗟に霊力を解放した。
「あら防ぐのね、じゃあこれはどう?」
次に襲ってくるのは木で作られただろう槍。
数十はあるそれに対して俺は孤蝶を庇いながら一気に抜けた。
一本一本が即死級、貫かれ抉られた地面がソレを物語っており冷や汗が流れる。
まだ姿すら見えてない襲撃者、さっき声が聞こえた場所に視線をやればそこには――記憶よりは幼いがとても見知った少女がいた。
異常なまでに整った。それこそ神綺様レベルになるだろう可憐な少女。
とても綺麗で何故か兎を思わせるそんな彼女には人とは違う所があった。
そう、それ鹿の様な対の角。
金色のそれが彼女がタダの人間ではないことを知らせてくる。
「ねぇ、貴方が刃であってる?」
「――あってるがいきなり何の用だ?」
「そう、やっと会えたのね――ずっと会いたかったわ」
話聞けよ、そう思ったが言える雰囲気でもなく……ただ何故か寒気だけを覚えていた。なんというかこう、蛇に睨まれた蛙というか――獲物を見つけた蛇の様な視線。
なんか一瞬頭の中にセーラー服の少女が過ったが、ソレを振り払う。
「ねぇ、聞かせて――なんでその子を庇うの?」
「そりゃあ、仲間だからな。俺の式神だし」
「そう、本当は一対一がよかったけれど――でもいいわ。構えなさい」
何を――とは言えない。
さっきのを見るに大体察したからだ。そして何より、目の前の少女は戦闘狂であり……一度獲物として定められたら逃げられない。
「私は卯月龍華――ねぇ、戦いましょう?」
予想通りの名前、記憶通りの響き。
そして忘れられない原作にあった地獄の数々――それら一瞬が頭に過り、逃げられないことを悟った俺は過去最大級に霊力を解放し最高硬度の刀を作りだした。
「なぁ一応聞くけど、拒否権は?」
「ふふ、鬼ごっこかしら?」
「――――孤蝶、全力だ。本気でやるぞ」
心の底から笑みを浮かべる彼女に対して俺は、仲間としてではなく孤蝶の主として霊力を流して命令し、ちょっと自棄になりながら刀を構えた。
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