二章:暦の一族との邂逅
第14話:一年の時が経って
初めての戦いから約一年の時が過ぎた。
正確に言えば、一年経ったと言ってもあの時は夏で今は冬だからそれ以上に過ぎてるけど……まぁ、そんな細かい事は置いておきとりあえずまだ襲撃は来てないので闇堕ちフラグがない。
つまり現在進行形で平和、俺が求めたものに浸ってる真っ只中なのだ。
これぞ求めた平和な日々、このまま何も無ければいいなとそんな事を思いつつ――俺は夜の森を駆けていた。
「深夜に労働は違うと思うんだ……俺」
「刃、ケモノ逃げるよ」
「ハイハイ孤蝶、引き続き追ってくれ」
「終わったら褒めて」
「……考えとく」
「うん、やる気出た」
丑三つ時、ケモノが生まれ最も力を発揮するこの時間。
そんな時間に俺達は富士の樹海を探索しながら生まれるケモノを狩っていた。それで今追っているのは中位レベルのケモノ、巨大な狼のようなやつであり白い体毛は夜の闇の中で目立っている。
『グルォォォ!』
「あ、こっち来るよ」
数日前から存在だけは認知していたそいつをやっと見つけ尾行していた感じなのだが……今孤蝶が言った通り俺達に気付いたようで一気に迫ってきた。
「刃作戦は?」
「いつも通り、隙が出来たら孤蝶が眠らせるぐらいだな――それ以外は俺がなんとかする。安心して術を練ってくれ」
「ん、分かった――それまで守ってね私の王子様」
「何の本に影響されたから知らんけどさ、その言い方は止めてくれ胃がいたいから」
相対するは十メートル以上の巨大な狼の姿をしたケモノ。
三ツ目でありあまりにも巨大なソレは、どう見ても自然から生まれたモノだとは思えない。体に瘴気を纏っているからか紫の煙のようなモノが出ていて、今日までのケモノが生まれた原因がこいつだという事が理解出来た。
こいつが生まれたせいでここ最近のケモノの生まれる速度がはやく、連日狩りっぱなし……その上父さんが仕事で居ないから俺と孤蝶が毎日毎日働くハメに……。
「思い出したらムカついてきたから徹底的にボコるわ」
言葉は分からないだろうが言った直後にケモノが低く唸り声を上げて襲いかかってくる。そんな攻撃にあわせて俺は霊力を解放し、周囲に冷気を解き放った。
それが戦闘開始の合図、襲い来る狼の攻撃――を、俺は既の所で避けて持っている刀で少し傷つける。
「うん、硬いなこいつ――この硬度じゃ斬れねぇわ」
普通に刀が折れかけたし、こいつめっちゃ硬い。
それでこいつを倒すのに必要な霊力を確認した俺は、より多くの霊力を集めて冷気を生みだしてより強固な刀を作る。
「斬れないなら斬れる刀を用意する。まぁ鉄則だよな」
再び攻撃してくる狼に対して避けて反撃すれば、さっきとは違いいとも簡単に相手を傷付ける――そしてそれだけでは終わらない。
俺が何もしてないのに周囲に漂っている冷気が形を持って相手を攻撃し始めたのだ。刀になり槍になり剣へと形を変えた冷気達が相手に襲いかかる。
「凍刃・白雪――能力はマーキングだ。この刀に傷付けられると俺が生みだした冷気全てが敵になる」
逃げても避けても俺が冷気を作る限り武器が増える。
原理は簡単で白雪により俺の霊力を相手に付着させ、そして生み出す冷気が俺以外に刃の霊力が残っている奴に対して攻撃するという命令を込めている感じ。
最初は対応出来ていた狼のケモノは徐々に増える――というより、無限に近い数の武器達に対処できなくなり次第に傷付いていった。
「というわけで頼む孤蝶」
「――眠って」
術を練り終わっただろうタイミングで声をかければ、孤蝶が狼の前に姿を現して一匹の蝶を放った。その瞬間狼は抵抗できぬままに意識を手放し――完全な隙を作ったところで俺は残っていた冷気を全て束ねて相手を両断した。
「っし、任務完了。戻るぞ孤蝶」
「うん頑張ったから撫でるの所望」
「……恥ずかしいから今度のおやつで手を打ってくれ」
「それでもいい」
最後に再び同じケモノが生まれないように瘴気を浄化し、俺達は住んでいる屋敷に戻る。こんな時間だけど母さんに出迎えて貰い、俺は一人部屋に戻った。
「孤蝶と共闘するようになって半年、めっちゃ頼りになるんだよなぁ」
ケモノに近いだけで性質としては妖という事になっている孤蝶は、すぐに十六夜家に受け入れらた。最初彼女はずっと警戒していたが、父さん達が優しく接したおかげか徐々に甘くなっていったのを覚えている。最初の病み感は身を潜め、なんというか見た目相応の子供になった感じだ。
「あの全員寝た事件も、孤蝶を取り込んだケモノのせいって逢魔さんが説明したらしいから、受け入れられたのも多分それで被害者であるって認識があるからなんだよなぁきっと」
原作からしても父さん達は凄く甘い。疑うことを知らないわけではないがあのぐらいの子供が被害者であるなら受け入れるのは当然の事なんだろう。
俺も俺で彼女を徐々にというか受け入れてきてるしで……。
「遊びに来た、構って」
そんな事を考えていると、部屋に急に現れた孤蝶がそんな事を言ってきた。自分の枕を抱きながら寝間着で現れた彼女はそのまますぐに俺の布団入ってくる。
「なぁ孤蝶……今は深夜なんだが、というかそろそろ朝」
「知らない、あとやっぱり撫でて」
「はぁ……しょうがないな」
この我が儘元病み娘がよぉ。
とかそんな事を思いながらも、満足そうに撫でられる彼女をみて、この平和が続けばいいと思ってしまう。闇堕ちの為の事件が起きればきっとこの平和はなくなるだろう。だから俺はこれからも頑張らないといけないのだ。生き残る為に平和に生きるために……何より家族を守るために。
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