第7話:四季という名の妖刀
「どうしたガキ、そんな冷や汗をかいて……」
「なんでもない……です」
卯月逢魔の口から出た四季という名前、それについて俺は心当たりがある。
いやあるというと語弊があるのだが、俺はそれについて知ってるのだ――勿論原作でというのもあるが、何より実際に見たことあるというか……持っているというか。
「四季って、あの神具よね。なんでそんなのが家に?」
「それは分からない、五年前に急に宝物殿から姿を消したんだよ。それで探してたらここに反応があったんだ」
「……私達それらしいのは見たことないわ。あるのなら私達が分かる筈よ」
「それもそうなんだよな、見鬼である昴とお前が見つけられないわけ無いだろうし……だけどこの近くにあるのは確かなんだよ。最近の瘴気もそれが原因の可能性がある」
……それを言われ、あの刀ならやりそうと思ってしまったのは多分原作と関わってしまったやべぇ奴のせい。これも全部あれのせいです、ので俺は悪くない。
とりあえず後で話はするとして、一先ず聞きたい事を聞かなければならない。
「四季ってなんなんですか?」
ある程度の概要は知ってはいるがそれは原作知識で知ってるだけで詳しくはない。自衛のためにも聞かなきゃいけないし、ここで聞ける情報は手に入れたい。
「昴のガキならいいか……四季ってのは家が保管してた神具の一つだ。神が宿ってるとされ、名の通り四季に関した力を自在に操れるらしい」
「……らしい?」
「文献ではそうなってるが、数百年間誰も使えなかったんだよ」
そこは原作通りだな。
原作が史実としてその中でも刃が扱うまで誰にも使われなかったらしく、何より触れたものは皆死んだと書かれていた。
妖刀・四季。
春には雷、夏は焔、秋に豊穣、そして冬は氷と四季を自在に操ることが出来る刃の愛刀――別名として死季と呼ばれるそれは命持つモノ全てを死に誘うとされている。
改めて思うとやばいなあの刀、神綺がいる以上俺の中にあるんだろうけど……返す事出来るのか、これ。
「……にしても昴にガキかぁ、今何歳だ?」
「えっと五歳です」
「そうかそうか、俺の娘と一歳差かぁ。俺の娘……龍華っていうんだけどな、それはもう可愛いんだよ。上品だし、将来絶対美人なんだよ」
それはもう知ってる。
メインヒロインだし何より原作の一巻目から凄い人気だったし、なんなら女性の推しキャラだし……めっちゃ可愛いし、今言われた通り上品でたまに子供っぽいところとか覚えてる。あとこの人はかなり親馬鹿なので、こうなると面倒くさい。
だから話題を変えることにしたんだが……。
「そういえば確認だけならこんな大人数で来る必要ないですよね?」
さっきからずっと逢魔さんの後ろで待機している四人組。
……強いのは霊力的に分かるが、四季の確認だけなら逢魔さん一人で事足りるだろう。原作での彼の強さは知ってるからこそ、こんな風に強い人達を集めてくる理由が分からないのだ。
「あー、それに気付くか……四季はな、危険なんだ。あれは瘴気を引き寄せるから。宝物殿にあった頃なら大丈夫なんだが、竜穴があるこの地に与える影響を考えると戦力は多い方がいいんだよ」
「……それなら私も参加した方がいいわよね」
「出来れば頼みたい、四季の回収もしなければいけないし瘴気の浄化は得意分野だろ? それに結界術も……」
はやく逢魔さんにあの阿呆を渡した方がいいかもしれない。
でも実は持っててぇみたいなのはダメだろうから自然にあったよ! ……ってのも不自然だし。何よりこれが一番の問題だろうが、あのやべぇ奴が素直に回収されるとは思えないのだ。
「とりあえず昴が帰ってきたら話しましょう。刃、剣と一緒に待ってなさい」
「了解、母さん」
「なぁ、そういえばなんだが……お前って戦えるか?」
「……一応? 父さんとよく鍛錬してますし、少しは戦えるかと」
今の俺の言葉を聞き、彼が何を思ったかは知らないが……どういうわけか笑みを深めたのだ。
「昴のことだ。多分だが毎日鍛錬してただろ? よかったら俺が相手になろうか?」
「……いいんですか?」
「せっかくの機会だしな、あの馬鹿のガキの実力を見ておきたい。ダメか?」
「いいですけど、俺多分弱いですよ?」
最近父さんにやられっぱなしだし、成長はしてると思いたいけどまったく一発も攻撃を入れられない。父さんは俺が術を練っているのが見えるらしく、使おうとすると邪魔されるんだよなぁ。
「別にいいぞ、確認だけだ」
「ならお願いします」
そしてそれから少し経った頃、俺は逢魔さんと訓練場に向かい、そのまま対面した。緊張はある――父さん以外と戦うのは初めてだし、何より相手はあの卯月逢魔なのだから。
「いつも通りやっていいぞ、俺もそれにあわせるからな」
「じゃあ、失礼して」
俺は霊力を解放する。
訓練以外では普段父さんには抑えてろって言われていて全力では使えないが、この人相手ならきっと全部使って良いはずだ。
「へぇ……こいつは」
下がる温度、土で出来た床には霜がおり吐く息が白くなる。
「行きます!」
そうやって踏み込み仕掛けたのはよかったが、それから一時間の間俺は有り得ない地獄を見た。そこで知ったのはこの世界の上澄みの力の一端。
俺ってやっぱり弱いのかなと思うほどにボコボコにされ、普通に心が折れかけた。
◇ ◇ ◇ ◇
刃の心が折られた夜の事、客間には帰宅した昴と逢魔が集まっていた。
久しぶりに会う二人は酒を飲み談笑していたが、とある話題になったときに逢魔の声音が変わる。
「なぁ昴、刃は何者だ?」
「……どういう意味だよ」
「単純な疑問だ。あの歳であの霊力は異常だ。何より霊力を使うだけで世界に影響を与えてたぞ? しかもあれだ。俺に術を使わせた」
模擬戦で戦った姿を見ての感想。
最初完全に手加減するつもりで始めたそれは、術を使わせる程のものだったのだ。
「俺等の子供だよ、まぁ五行から外れた才を持ってるぐらいだ」
「属性が氷だもんな、でもそれだけじゃ説明できないことが多いんだよ。使える術が多いうえに精度も段違い。あいつ下手な狩り人より強いぞ?」
「……うちの子が天才って事じゃダメか?」
「ダメだ……それにな、あの子供からは四季の気配を感じた。あいつ狙われてるぞ」
誤魔化そうとする昴にそういった逢魔は忠告するかのような口調でこう続ける。
「俺は曲がりなりにも卯月家の当主だ。あの刀の管理を任されていたから知っているが――あれは最悪の咒具といった方がいい代物だ。アレには死者の念が籠もりすぎているんだよ。普通だったら狙われないが、あいつには何があるんだ?」
「ごめんな、お前にもそれだけは言えない。だけど、絶対に俺が守るから安心しろ」
「頑なだな、しょうが無い。何時か聞かせろ親友」
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