第50話 スペツィアル・シントイスモス

僕は道満麗弥どうまんれいや。今年から遼習院中等部に入学したんだ。


五時間目が終わったら職員室に行くように言われ、これから職員室に行くところだ。


「じゃあ、そろそろ行こうか。」そう他の3人に声をかけると、「うん。行こうかー。」という道永と水織が、さっと僕の後ろに来た。


二人は目を合わせると、にー。と微妙な笑顔を浮かべて肩を窄めていた。


望月は幼稚舎からの幼馴染だから気が知れている。「行こうよ。」そう言うと、男っぽいというか、ざっくばらんな望月は、「ういーっす。」と言って右手を上げた。


職員室は1階にある。4人で階段を下りて行った。


僕の兄さんが3年生でスペツィアル・シントイスモスのスタメン選手だから大体話は兄さんから聞いてるんだよな。僕は皆を九鬼通臣くきみちおみ先生の所に案内した。


「九鬼先生。」


「おお!来たか。道満の弟の方だな。」


そう言うと、仕切りの後ろにある応接間みたいなスペースを案内された。


「ここに座ってくれ!」と元気に言い、右をブンブンと振り、座るように促した。座り終えると、


「私がスペツィアル・シントイスモスの顧問の九鬼通臣(くきみちおみ)だ。入部を希望してくれたそうだな!今日は入部するための必要書類配布と、ユニフォームと練習着のためのサイズを計るからな。」


「え。サイズ計るんですか!先生が!それってちょっと。」道永が怪訝そうな顔をした。九鬼先生はおおっ!というような顔をして慣れた様子で、


「女子はコーチの前田敏子先生が対応するから安心してくれ!」そう言いうと、道永も水織も苦笑いした。


「その前に、少しスペツィアル・シントイスモスについて説明しようか。最初はよくわからないかもしれないが、全部説明用のこの冊子に書いてあるから、帰ってじっくり読んでくれ。」


この先生、ほんと遼習院の雰囲気に合わず、サバサバしてるんだよな。でも世界的に物凄く有名な先生らしい。一般の人が知らない競技で有名ってどういう意味?よく知らんけど。


「スペイツィアル・シントイスモス、世界共通略称はスペイツィアルだ。昔は各国の文化に応じた武器を使って試合をしていたんだが、今はボールを使って協議している。」


「武器?道具じゃないんですか?」道永は全く知らない様だから、ストレートに質問をする。水織も目を大きくしていた。


「冊子の5ページを見てくれ。昔の各国の武器が載っている。昔は武器と各国の神道の技を使って戦っていた。ゴールは丸くて二つの足に支えられて宙に浮いている状態のものだ。ゴールはポータルと呼んでいる。」


「神道の技って何ですか?私、実は神道ではないのに1組になって、スペイツィアルに入るように言われたのですが。」道永が多分にイライラしながら質問していた。


「心配しなくていいんだぞ。技は使える者が担当になるから。それぞれポジションで役割があるんだ。」


九鬼先生は冊子の5ページを開いて挿絵を指さした。そこには、各国の武器の歴史が書かれている。


カラーのページには、まず昔の武器を説明しているページがある。


 イギリスやアメリカの人達が西洋人みたいな人達が魔法の杖みたいな棒と箒のような乗り物を、黒人の人達が弓矢と長い棒のような火の付いた杖と凄く大きな三角の乗り物のような物を、中東の人のような人達は長い杖と弓矢と大きな電球のような物を、日本は丸い鏡と剣と紙のような型紙を、絵にして細かく説明している。


九鬼先生が説明し始めた。


「まず、イギリスチームはエクスカリバーチーム、ヨーロッパチームはメディテラニアンチーム、アメリカチームはコロンビアチーム、インドチームはクリシュナチーム、中国チームは上帝シャンギーチーム、アフリカチームはアンマチーム、南米はアステカチーム、中東はシュメールチーム、ロシアはベロボーグチーム、とチーム名がある。でも普段は国や地域名で呼んでいるから覚えやすいほうで覚えてくれ。」


水織が、右手を上げて何か言おうとしている。九鬼先生が水織を指して、


「ん?どうかしたか?」と言った。


「九鬼先生、この冊子の絵に、魔法使いの棒のようなものを持っているチームがあるんですけど、もしかして、魔法を使っていたんですか?」


水織は物凄く目をぱちぱちと瞬きさせて、期待に満ちた表情で九鬼先生を見ていた。


「そうだぞ。エクスカリバーとメディラニアンは魔法の杖を使うぞ。でも他も似たようなもんだな。神道だからな。中国だけ最新鋭の武器を使っているよ。サイコパスのドミネーターみたいな銃な。音で反応する光のワイヤーロープも凄いぞ。人口太陽の超小型目くらましもあったな。基本的には、入学式の古神道の部にもあったように、スペイツィアルは各国の神道の技を使う。」


九鬼先生は子供みたいな表情で説明し始めた。そこで道永がさっと右手を上げた。九鬼先生の反応を見て、許可されずに話し出す。


「武器って、ケガをしたり、死んでしまう可能性もあるってことですか?」


九鬼先生は今までのサバサバした感じではなく、妙に真面目な笑顔で、


「中等部、高等部はそれは無いな。」


九鬼先生は椅子の背もたれに仰け反ると右手を頭に当てて、頭の後ろを撫でながら言い始めた。


「これはあくまでも実戦に備えての訓練のためのスポーツだ。この世界に何もない場合は単にただのスポーツだが、世界が危険に晒されるようなら、各国のスペイツィアル経験者、現役選手は全て世間とは秘密裏にその危険と戦う事になる。」


「ええっ?まるで兵役みたいじゃないですか?!私、嫌です。」


道永が困った顔で言った。そうだよな。小さい頃から「怖くない、怖くない。ただのスポーツだ。」と優しーく、洗脳のように教えられてきた俺たちとは違って、いきなり聞いたら怖いよな。


でも水織は何故か逆にウキウキしてるよ、表情が!


「そんなに重く考えなくていいんだぞ。現代のスペイツアルはハンドボールとほぼ一緒だからな。ゴールするまでに各国特有の技を使うエリアがあるんだが、技は技が使える者同士しか対戦出来ないようになっている。心配するな。今年の1年生は、男子2人が有能だからな。それに水織もいるから大丈夫だろう。他の国のチームは王族関係者ばかりで、5人で日本のチームの選手1人で対応できるレベルだからな。」


僕は付け加えた。


「チームは9人制。外国チームが9人いて、日本チームが2人いれば勝てる程レベルが違うからね。僕の兄さん、今度の引退試合に出るんだけど、一応エースだし、僕も望月も幼稚舎からスペイツアルやってるからフォローするよ。な、望月。」


望月は丁重に、

「その辺は安心しててよ。それより人数居ないと困るから、これから一緒に頑張ろうね。」と言う。


道永は、納得いかないみたいだけど、水織の方を見て、


「それならいいけど。利律子ちゃんがいるから大丈夫って、利律子ちゃんは技が使えるの?」


そう言って水織を下から覗き込むように見ていた。


「技みたいなものは・・・、使えるよ。神獣鏡があれば。えへへへ。」


なんで水織は恥ずかしそうに言っているんだ?もっと誇らしげに言っても良い事だと思うけどな。子のこのために、今迄謎だらけだった橘流が表に出て来たって物凄い話題になっているんだからな。


その時、道永はハッとした。


「ええ?神獣鏡の新しい主って利律子ちゃんだったの?藤原家の子が、近寄っただけで吐いたって言ってたあれ?」


「うん、その神獣鏡だと思う。」


九鬼先生が話している途中で割って入ってきて、ニンマリと笑い、


「色々聞きたいことはあるだろうが、採寸をして解散した後にお願いしてもいいかな?それから練習は週2回。水曜日と土曜日だ。予定を調整しておいてくれ。採寸が終わったら、そのまま教室に戻って下校していいぞ。いいか。冊子は全部読むんだぞ。じゃあこれからよろしく!」


そう言って右手2本指で決めポーズを取り、プリントを渡され、


「前田先生、女子の採寸お願いします。男子はこっちに来てくれ。私が採寸するからな。」


そう言って、さっさと応接間を出るよう促された。


水織は大丈夫そうだけど、道永はちょっと辞めないようにフォローが必要だな。でも今年は前代未聞の神獣鏡の主がいる。兄さんに帰って話してみよう。


私は水織利律子。


前田先生の採寸が終わって、私は燈子ちゃんと教室に戻って行きました。


その時、九鬼先生が車に乗っていて、事故に合うビジョンが見えてきました。でも、今日会ったばかりの部活の顧問の先生に、いきなり脅すような事を言いたくないなと思ったので、私はそのまま何も伝えずに燈子ちゃんと下校しました。

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