第48話 入学式後の古神道の懇親会 藤原校長のつぶやき

わたくしが遼習院大学中等部校長になって3回目の入学式となりますが、今日ほど緊張感のある新学期の会合はありません。今迄参加することが無かった理事長の橘総宮たちばなそうぐうが参加されるという事で、各宗派の代表のご家族は、前任の代表も参加している流派もあります。


背が高く、外見も顔立ちが端正で美しいく、身のこなしが穏やかで上品な橘総宮、西洋人の様な黒崎宮司、他、全く見劣りする事の無い橘流陰陽道古神道の方達を見て、参加した代表の奥様方から注目を集めていました。


斎王の舞でご息女を斎王にしたかった奥州藤原流古神道の藤原家の方々は、得に今年は思うところがあるようで、厳しい言葉の一つも出る可能性があります。もともと、強気であることが伝統のようなお家でいらっしゃるようですから、お手柔らかにと祈るばかりです。


「なんとか纏めなければ。」そう心で呟きながら、会議室に向かいました。


毎年入学式の後、各宗派の代表は会議室に集まり、担任の挨拶と新学期の挨拶と1年間の行事の確認、意見交換、連絡事項等が行われます。


まず校長のわたくし、藤原が挨拶をし、1年間の行事をプリントを配布し確認を促しました。


「理事長。」


そう言って早々、奥州藤原派が一言、理事長の橘総宮に物申すと言わんばかりに話し始めました。奥州藤原派古神道先代当主の藤原兼家氏が話し始めます。


「理事長、以前一度お会いしていますな。いつとは言わんが、相変わらず若いのう。威勢がいいのは良い事だが、うちの孫娘を斎王にと押していたものを、あんな得体のしれない田舎娘にさせるとは如何なものか。」


はい。もう一瞬で会場は凍り付きました。さて、どう言えば良いか、、、。


そんな時、橘総宮が静かに右手を上げて、


「兼家様。発言をお許しください。」と言いました。


「橘理事長、どうぞ。」私は少しホッとしながら言いました。


「毎年、斎王の舞は京都、奥州のどちらかの流派当主のご息女が斎王を務める事が習慣化されていたことはよく存じております。内情としては、神獣鏡を扱える者が長年存在しなかったことで、その穴を埋めるために、両流派どちらかのご息女に勤めて頂いたというのが実情でございます。今回、斎王に指名された生徒は、私も、そして各流派のどなたも取り扱う事の叶わなかった神獣鏡を扱える者です。斎王の舞はそもそもが、神獣鏡を扱う者が担わされる祭事でございます。どうかご理解をお願いしたいと思います。」


「ふん!もう千年以上いなかったのだから、別の祈祷を新たに作ればよかろう。孫娘の舞を楽しみに、1年前から準備させていたものを、全く無礼なことだ。」


「兼家はん、お久しぶりです。相変わらず、しっかりしたはるなぁ。孫娘はんの、舞を披露したいのでっしゃろ。」


和泉基子様がゆっくりと言われた。ますます周囲の方々の顔立ちが強張ってしまいました。


藤原兼家氏は顔を顰めながら


「基子はんか。何だ、何か物申すと言わんばかりだな。」


ああ、そうでした。このお二人は、元同級生でした。なんとか基子様に説得して頂ければ・・。


「斎王の舞も五行の舞も、その女子生徒を出すつもりだったんですわ。ですが斎王の舞だけにして、五行の舞は必ず孫娘はんに出て頂ければ、努力も無になりまへんわなぁ。今回は神獣鏡が関わっていますから、必ず舞は披露せんといかんのですわ。」


基子様は、「ほほほ・・。」とにこやかにされているが、目が笑っていないのです。


「相変わらず芸術的な催しを好まれるようですが、神事である舞の本来の目的をよう考えんとあきませんわ。ここにいる何方も、その次の世代も、誰も神獣鏡を扱えないという現実を受け止めませんとなあ。向津の巫女以来の、神獣鏡を扱える主がやっと現れたのです。我々にとって、如何に重要で、如何に有り難いことか、新入生の子供達に伝えて下さい。忘れたらあきまへんで。おほほほほ。」


基子様が、納得されませと言わんばかりの笑顔で兼家しを見つめると、兼家氏は苦虫を噛むような笑顔を浮かべ、


「ふん!昔からあいも変わらず、威勢が良くてよろしいことですな。今日はお話し出来て大変嬉しいですわ。」


そう言って私の方を見ると、

「以上ですわ。」

そう言われました。これ以上何も言うなとおっしゃっています。


京都、奥州藤原両宗派は、権力を独占する才には長けていますが、神力を元々持ち合わせていません。古神道は催しの方法を神力のある部下の家系に教授されているのが実情です。


現代で、神力を持ち合わせているのは、安倍晴明の子孫の土御門家、そして橘流の橘総宮と黒崎宮司、道満家、諏訪家、沢口家、これらの方々のみが神力を受け継いでいます。


これらの方々のみが神力を受け継いでいます。


古より、神力を持つ方々は、支配権力層の藤原家、天皇家を守らなければならなかったのです。要するに、藤原家の方々は、神力を持つ者に教授されてやっと神力を使えるのです。


そして、新たに水織利津子さんが加わりました。しかし、利津子さんは他の方々と明らかに違います。それは彼女が神獣鏡に主と認められた、向津の巫女の生まれ変わりだということです。立場的に、主従関係が逆になります。


皆が総出で彼女を守り、仕える必要が出てくるかもしれません。その事に、今まで上座にいた方々は、どこまで気が付いていらっしゃるのでしょうか。


先の事を考えると、日汗が出てきます。


「お話がまとまって何よりでございます。兼家さま、基子様、橘総宮、色々と勉強になりました。ありがとうございます。」


私はそう言うと、各クラスの担任の紹介をしました。


各クラスの担任の紹介が終わると、意見交換、連絡事項を含めた、お茶の時間となります。今日は茶道のお茶ではなく、紅茶でおもてなしする事にいたしました。


「皆様、意見交換、連絡事項等ございますか?ここからは皆様で紅茶でも飲みながら、親睦を深める時間としたいと思います。」


京都藤原流古神道の近衛家当主夫人、近衛華子さまが話始めます。


「和泉基子様。なかなかお目に掛かれませんので、今日はお会いできて光栄でございます。基子さまは冷泉家の血筋とか。私も基子様のように威厳のある婦人になりたいと思っております。」


基子様は「あらまあ。ありがとう。」そういって、ほほほほ・・。とお笑いになりました。


私の知りうる限りでは・・・。


和泉家は古くは京都藤原の近衛家でしたが、安倍晴明と芦屋道満の術式の統合、忍術の統合、総合的な術式の掌握で独自の流派として独立し、その時に近衛家とは別れて和泉となったはずです。


「基子様と和泉元就様がご結婚に至るまでは、まるでロミオとジュリエットさながらのドラマチックな出来事が多々あったとか。今度、直接お話をお伺いたいものですわ。」


「それなら私がよく知っているぞ。私と基子はんは同級生やからな。元就はんは私も知っているが、目の下にほくろのある、男から見ても色気のあるお人でしたわ。」


兼家様がおっしゃいます。そうすると、奥州藤原流古神道の現当主、藤原公親様が、お父様を遮るように話し始めました。


「ああ、私も聞いたことがございます。何でも、お命を狙われたとか。本当なのですか?」


和泉基子様は冷泉家出身であり、現在は兵庫県芦屋市の六麓荘町ろくろくそうちょうに実家がある大資産家の家系で、京都の堀川今出川にも昔から大豪邸を所有しています。


当時は大変な美貌の持ち主と言われ、近衛家との姻戚関係を持ちたい当時の炭鉱成金の家が和泉元就様との婚姻に反対し、和泉元就様のお命を狙われたことがあったようです。お二人の婚姻はロミオとジュリエットのようでしたが、それを助けたのが橘流陰陽道古神道の橘総宮だったとか。


「私たちの婚姻は許嫁やお見合いが多くて、大恋愛なんて経験したことがありませんわ。羨ましいですわ。」


近衛華子さまは、ほぉっとため息をつきながら羨望の眼差しで基子様を見つめていました。


「ほほほ・・・。皆さんお若いのによう知ってますなぁ。」


これはまた、とても丁寧に言って下さっているようですが、これは「若い者が、黙っておきなさい。」という意味です。


しまったと言わんばかりに、会場が凍り付きました。


その時でした。青森の沢口家当主、沢口信樹様が話し始めます。沢口家はキリストの末裔と言われている、神力の強い一族です。


「このようなめでたい席で物騒な話をするのも気が引けるのですが・・。校長、盗聴防止をお願いできますでしょうか。」


皆さんの顔が一斉に沢口信樹さまに集中しました。機密情報も話し合う事がある会議室では、盗聴防止の設備が整えられています。私は盗聴防止の電波を発するスイッチを押しました。


きーんという小さな音が鳴り始めます。


「この状態は、携帯電話が使えません。この盗聴防止の電波は、10分以上は人体に有害です。恐れ入りますが、時間を気にされて下さい。」私はそう伝えました。


「世界各国で血の涙を流す聖母マリア像についてなのですが、人身売買のアドレナを警告しているのではないかと思います。最近秋田でもご出現があり、バチカンが認めましたが、日本でもご出現があったという事は、日本でもアドレナが行われている可能性があるのではないでしょうか。調査を開始したいのですが、全国に散っている草の者達に、指示を出して頂きたいのですが。久幸様、如何でございますか。」


それを聞いて泉八久幸さまは、


「それはいけません。お引き受けしました。」


そう言って、手短に会話が終わりました。私はスイッチを切りました。盗聴防止の会話はすぐ打ち切られ、別の会話を始めるのが昔からの習わしです。



奥州藤原流古神道の当主夫人、藤原正子さまが話し始めます。


「今回は、こうやって橘流陰陽道古神道の方々も新しくお顔合わせが出来たのですから、今後は親睦を深めたいですわ。確か、東京文京区のグリーンタワーの高層階を拠点とされたとか。今度また皆さんで会合でも如何ですやろか。子供たちを交えましたら、田舎から来た生徒も皆と打ち解けられますわなぁ。」


橘総宮が一段とにっこりとほほ笑み、


「大変ありがたい事でございます。皆様のご都合を調整させて頂き、是非夏までには予定を組ませて頂きます。心からのおもてなしを準備いたします。基子様や兼家様には遠出は体に響きますでしょうから、ご自宅からのお車や自家用ジェットを準備させて頂きます。他にも、ご高齢の方がお越しいただく場合のみ、お申し付けください。」


これは先代を連れてきたら車と飛行機を出すという事でしょうね。その方が楽ですし、要するに・・。


丁寧に、


「先代も連れて来い。」・・・と言っておられるのでしょう。


この後も和やかに歓談がすすみ、新入生の学園生活を皆で応援しようという話で纏めることが出来ました。ホッとしたのは言うまでもございません。


皆様に日々良い影響を頂き、私自身、まだまだ成長していきたいものです。


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