第42話 海の神を鎮める儀式
利律子さんと向津姫達が同化した直後に、DEWの攻撃を受けた。秘密裏にDEWの爆撃機を所有しているのは、イスラエル、米国、スイス、中国、ロシアだ。この米国とスイスの裏にはイギリスがいる。
一体どこの国が仕掛けて来たのか。
万が一という事もある。私は先にこの場から離れる事を選択した。
「急いでここを離れましょう。」取り急ぎこの場所から離れることにし、急いで車に向かう。
車で御許山を離れ街中に入った頃、柳に電話が入った。
防衛省からだったが、在日米軍第七艦隊のヘンリー・モーズ司令官からの直々の伝言だ。
「挨拶がわりだ。向津姫なら痛くも痒くもないだろう。今度の機密情報管理国際会議は楽しみにしている。」
DEWはやはり米国からだった。必ず跳ね返すことを想定して直に狙いを定めて来たということか。どうやら筒抜けらしい。何処からこの情報が漏れているのか。
その時、利津子さんが私に尋ねた。
「橘さん、
「黒崎、神楽笛はあるか?」
「はい。もちろんでございます。」
「吹いてもらえるか?」
「喜んで。」
私は軽く頷いた。
もう夕方になっていたが、埋め立てられた製鉄所の敷地の海側に近い場所を調べ、大須運動公園の芝生の広場に向かった。
黒崎が皆に説明する。
「
私は利津子さんに、
「神獣鏡で
「橘さん、ありがとうございます。お母さんの為に、私もお手伝いします!」
本来なら、
黒崎が私から教わった神楽笛を吹き、私が
総宮に教わった神楽笛を、今ここで吹く事が出来るとは、光栄なことだ。
スーツの上着を脱ぎ、ネクタイと襟元のボタンを外すと、総宮は
我々は
私が神楽笛を吹き始めると、利律子さんが神獣鏡を回し始める。利律子さんは神獣鏡を持つ右手を海の方に延ばすと、
「海の神様。どうかお母さんとお爺さんを許してください。そして、人間を許してください。海の神様が悲しく思った、製鉄所の下敷きになってしまった海の生き物が全部、綺麗な海の場所に生まれ変わって、太陽の光を少しでも浴びることが出来て、沢山の海の仲間達に囲まれて、これから幸せになりますように。」
そう声に出して、何度も祈っていた。目に見えない波動のようなものが神獣鏡から広がっていく。この波動は我々には強い。他の者も少々辛いはずだ。
榛葉と富田と吉田住職は恐らく初めてだろう。少しの間、耐えてくれ。
総宮は左ひざをついたまま、まず右腕を空に掲げた後、力強く元の位置に戻し、次に左腕を空に掲げ元の位置に戻した。次に両腕の握りこぶしを力強く同時に上にあげ、手のひらを開いた。
力強く再び拳を握り締めると、ゆっくりと腰の位置に戻した。そして右手を右後ろに回し、上に振り上げ、静かに
右手で
今度は右足を右に大きくずらし、それと同時に両手で
この両腕で
左回りに3回繰り返し、四方に対して同じよに舞った。
富田が、「何かしら。舞楽の抜頭みたいね。」と呟いた。
今度は
ここで、
光る
再び海の方を向くと、総宮は
総宮の周りが強く光り、薄く光る水滴が地面から空に向けて噴き出していった。吹き上がっていく間に、薄暗い光が強く輝いていった。
それと同時に、総宮の姿が変わった。髪は長くなり、頭に細い冠を被っていた。地面から噴き出す光の流れで、髪がなびいていた。
総宮は右膝をつき、足元に右手で円を書くと右回りに何かを描き始めた。
「ヒフミヨイ、マワリテメクル、ムナヤコト、アウノスヘシレ、カタチサキ」
総宮が声を発すると、利律子さんの祈りの声は止まった。
「我ここに馳せ参じたり。磯神のご来現を、畏み畏みもまおす。」
総宮がそれを唱えると、海の方からざわざわと音がして、波のような音になった。まるで波が近づいているようだったが、波は無く、磯の音と一緒に、地面を這うように半透明の水のような気配のゃうなものが渦を巻きながら、3メートルくらいの高さになった。渦巻の奥に、光る人の形をした何かが見えた。その渦の中から、大きな唸り声が聞こえた。
「あれは遠い遠い昔のことだ・・・・。私はお前を知っている。今の其方の名は?」
「
「橘隼日よ。幾度もこの世は滅びたが、この国の民の命の巡りと其方は何時までも残っているのだな。」
「磯の神よ。
その時、利律子さんのお母様の側に、中年を少し過ぎたような男性が現れた。両ひざをつき、胸元で手を合わせ、磯の神を見上げている。
「お父さん!」利律子さんのお母様が驚いた声で言った。
「あの男の娘か・・・。ん?その娘は誰だ?」
磯神は利津子さんをじっと見ていた。その後は特に何も言わず、ゆっくりと総宮の方を見た。
「我が海の
「必ず約束します!」
利津子さんが、そう答えてしまった。
磯の神は現れた中年の男性の方を向きながら、
「この男はかつての我が友だ。この男は自分の娘の身代わりになったのだ。今は我々と同じ海にいる。しかしそれは、ただ暗い海に閉じ込められているのではない。災いが咲子に及ぶのは今にあらず。」
と聞こえたが、”今にあらず”という言葉には何か含むことがあるように感じた。
その言葉の後、その中年の男性は涙を流していた。そして、利律子さんのお母様を優しく見つめながら、後ろへと下がっていき、姿が見えなくなった。
利律子さんのお母様は胸元に両手を握りしめたまま、今にも泣きそうな顔で、姿が見えなくなるまでその男性を見つめていた。
「娘よ。今の言葉を忘れるな。お前がそのことを忘れた時に、お前の一番望まぬことが起こるだろう。」
「はい・・・!海の神様!」
利律子さんはまたもすぐに答えてしまった。
半透明の水の渦の中の人のような光は、両手を広げた姿になり、そのまま後ろの方向にある海へと進んで行った。
「約束を果たす時・・・。、再び私は現れよう・・・。」
そう言うと、ゆっくりと消えていった。波のような音がだんだんと遠退いていき、辺りが静かになった。
総宮は立ち上がり、
「一旦、磯の神を鎮める事は出来たようですね。もう安心しても良いと思います。」
利律子さんは総宮の言葉を聞くと、ぱあっと明るい表情になり、とても嬉しそうにお母様を見て、お母様に抱き着いた。
さあ、これで遼習院付属中学への入学を待つのみとなった。
我々は、機密情報管理国際会議に挑むだけだ。
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