第41話 日本人の真実 向津姫の伝言

「この黒猫ちゃん、うちで飼ってもいい?東京に行く時に私と一緒にいてもらいたいな。」利律子さんがお母様に尋ねた。利律子さんのお母様は、




「そうね。でも、利律子が住む所はペットは飼って良いのかしら。橘さん、どうなんでしょうか。」




総宮は、「もちろん、問題ございません。」




私は言う。「では利律子さんが東京に来るまでは、私の方で保護していましょうか。」




総宮が利律子さんのお母様に尋ねる。


「ご自宅で飼うのが厳しいようでしたら、黒崎に任せるのが良いかもしれませんね。」




利律子さんは少し首を傾げると、


「黒崎さんはこの猫を気に入っているみたいだから、東京に行くまで黒崎さんにお願いしてもいいですか?」




「もちろんでございます。」私は胸をなでおろした。利律子さんが来るまでに、別の黒猫を準備することが出来る。








霊山寺の吉野住職が話し始める。


「天叢雲剣あまのむらくものつるぎが関門海峡に沈んだのは、壇ノ浦の戦いやわなぁ。剣が沈められた壇ノ浦の戦いで,勝敗を決したことを悟った建礼門院や二位尼らは、幼い安徳天皇を抱き寄せ、宝剣を腰にさし、神璽を抱え海に身を投げたと伝わっちょんなぁ。」




榛葉が続ける。


「その後の源頼朝の残忍さを見ても、天叢雲剣あまのむらくものつるぎが源氏の手に渡らなかったのは、必然的のような気がしますね。草薙剣が本物でない事は、かなり昔から囁かれていたことですけど、今考えると、正しくない者が持つことを嫌った剣は、海から上がる事は無かったのかと思わせますね。」




総宮が、「自宅までお送りします。車に乗りましょう。」と言うと利律子さんが、




「私が夢の中で見たレダは、山の上に降りて来たんです。その山に似ているのが宇佐神宮の窓から見えた山なんです。行ってみたいんですけど、今日は駄目ですか?」




柳が答える。


「宇佐神宮の奥宮の御許山おもとさんの山頂は禁足地となっていますが、山頂のすぐ下まで車で行くことができます。じゃあ折角だから、少し寄ってみましょうか。」






私達は1時間程後に、宇佐神宮の奥宮で、御許山おもとさんにある大元神社の禁足地の結界となっている鳥居の前に辿り着いた。






「ここが、小さなレダが見つかった場所です。そしてこの山の上に、向津の姫が眠っているんですよね?」




総宮に向かって、利律子さんが言った。




「我々だけが、知っている事だ・・。この子には見えるんか。」


吉野住職は驚いて、目に涙を浮かべて総宮に言った。




「橘さん、長い間待って、待って、待ち続けて、やっとここまで来たんやなぁ。この場所で。でも、これからいったい何が待っているんやろうな。こんな巡り合わせが、今この時代にあるという事は。とてつもなく大きな事が、待っているんやろうか。」




その時、結界となっている鳥居の奥から、声が聞こえてきた。




「運命が巡り逢わせたこの場所で・・・・、再び出会えるのも、この場所でありますように。」




宇佐神宮のご神体の山の上から光る何かが向かって来て人の姿になり、一人の女性が現れる。穏やかな眼差しでその女性は総宮を見つめていた。




「向津の姫・・。」総宮がそう呟いた。






全員の前で、大きなビジョンが広がった。




丸い球体の周りを、2つの小さな球体が同じ距離で回り、その外側を6つの小さな球体が回っていく。




そして次に、丸い球体の周りを、一つの小さな球体が回っていった。それが二つ現れ、最初の8つの小さな丸が回る集合体と重なる。




そして、それが水の映像に変わった。その水がズームアウトしていくと、大きな海の映像になった。




柳がはっと気が付いて、


「酸素原子と水素原子か。それが水原子になったことを表しているのか。」




海の映像が薄くなり、また元素の集まりの映像がクローズアップされた。




「すべての存在は原子であり、その周りを物質の元となる電子が渦を巻き周り続けています。一つ一つの原子が電子とバランスを保ち、共有し合って物質や生物が形成されています。そのバランスは、崩れたとしても美しい周波数で最善の形となります。全ての存在に一番重要なものは、原子にとって共鳴しやすい穏やかな周波数です。」




映像がバジュラドルジェになり、大きなシンギング ボウルのような「おりん」になり、雅楽の笙になり、琴、ハープ、バイオリン、ピアノに変わった。何かの薄い色のある波が、バランスの崩れた原子の集合体に響くと、原子の集合体が明るく光を帯び、綺麗な動きに戻っていった。




「周波数は穏やかな音であったり、人間の優しい言葉であったり、優しい仕草にまで宿ります。この周波数さえ最善のものになれば、その世界の全ての物質、人間、生き物は幸せを感じ、優しくなり、健康で寿命がどんどん長くなります。思い描いた望み、夢、希望、そういったものが実現しやすくもなります。」




「そもそも癌は自然に存在する物ではありません。寿命は今のように短いものではありません。」




次に見える映像は、宇宙からの電波や、怖い顔をした人の怒鳴る様子、戦争の様子、デモの様子、うるさい音楽で踊り狂う若者、沢山の元素の集合体が、震えて少しバランスを崩していっていく様子だった。




「今、人間に関わる全ての原子のバランスが、意図的に大きく崩されています。」




次に、映像が移り変わり、地球から宇宙船のようなものが幾つか飛び立っていった。




「あなた方が教わる過去は、全てが偽りです。まず最初に、人間は遺伝子を操作されて進化したのではありません。宇宙にいる全ての人々の、生命バランスを保っているのが、この星の日本人です。遠い遠い昔、宇宙に旅立ったあなた方の先祖が、高度な文明と独自の日本人の遺伝子を全宇宙に広げました。宇宙の人々はどんどん進化していきました。」




見たことの無い景色になり、人間がその地上に降り立ち、各方向に歩いていき、どんどん人数が増えていく映像となった。




その中の人々の顔や皮膚が、ほんの僅かであるが色が変わり、表情が無くなっていった。




「様々な環境に適応する為に、宇宙に旅立った人々は、独自の進化を遂げ、見た目が大きく変化した人々もいます。表情や感情が無くなった人々もいます。それを補うことが出来た、最初の事例がレダなのです。彼女は時には龍となり、時には鳳凰と呼ばれる神鳥となり、この世界を見守っていました。でも今、レダは遠い国の地面の下に、残酷な状態で幽閉されれています。」






メタリックな鏡の空間の中、氷のようなクリスタルのような石の中に閉じ込められ、動けない龍の姿が浮かび上がった。




そこで映像が消えた。






「すべての宇宙をその生命と精神の力で支えてきたのは、外ならぬこの国の人々であること、特別な遺伝子を持ち、レダの一族と永遠の契約を交わしたこの国の人々であることを、日本の人々は知るべきです。宇宙の全てのパワーバランスを保つ、全ての宇宙の始祖であるこの国の人々を守らなければ、全宇宙が消え去ってしまいます。」




地球の映像になる。そして、日本列島を中心として、光っている部分が見える。人口密度の高い地域は光が沢山あり、世界に僅かな光があった。この光は日本人の人口密度を表しているのだろうか?




しかし、実際の人口よりかなり少ないのではないか?純粋な日本人が、こんなにも少ないと言うことか?




その光が少しづつ消えて行く。そして、地球が右側から少しずつ姿が無くなり、周りの星も同じように消えていき、真っ暗になり、映像が消えた。




「私と共に、必ずレダに辿り着き、残酷な祭りごとを繰り返す人々を、改心させなければいけません。今、日本人がどんどん減らされようとしています。でもそれが如何に世界にとって危険な事か、彼らはわかっていません。この地球と人間は、悪意のある人々に、あまりにも虐げられ、あまりにも沢山の人々が残酷に殺されてきました。」




向津の姫はゆっくりと利律子さんに近付いていった。






「彼らも含め、大きな災いから全ての存在を守らなければいけない時がやってきました。私はこの少女と一体になり、私の全てをこの娘に与え、この娘として生きていきます。やっと私の思念は消え去ることが出来ます。」




向津の姫の後ろで、日本列島の映像が再び現れた。そして四国にズームインしていく。あそこは剣山か?その少し上、あれは白峰陵か?




向津の姫から二人の男性の姿が薄いビジョンで現れた。一人はとても堀が深く、肌が浅黒く、ひげを生やし、ウエーブした髪が肩の下まで伸びていた。そしてもう一人は、烏帽子えぼしを頭にかぶり、黄櫨染こうろぜんの着物を着た日本人らしい古風な美しさの男性だ。






橘が動揺し、思わず名前を呼ぶ。




「イスキリ!崇徳上皇陛下!」そう言うと右膝をつき、左ひざに左腕を置き、真剣な眼差しで向津の姫を見ていた。




榛葉がギョッとした目で橘と向津の姫を見る。




「イ、、、イスキリ??キリストの弟か?そして崇徳上皇???えええっ?四国の剣山と、白峰陵!そういうことか!そういうことなのか!」




榛葉は動揺していた。柳と私が榛葉の腕を掴んで落ち着かせようとする。






「千年。そしてまた千年。私はこの世に生を受けました。そして今、この娘と一体になり生きていく。この時代にこそレダが解放され、全てが明らかにされるでしょう。」




そういった後、向津の姫は利律子さんの方に手を向けた。




それと同時に利律子さんが、「あれ?何も聞こえない?」と言った。




「まだ幼いこの娘は、これからこの世の裏で行われている、沢山の恐ろしい出来事を見ることになるでしょう。この娘が耐えられなくなった時に、この子を支えてあげてください。」




向津の姫は皆の顔を見ると、最後に利律子さんのお母様の顔を見た。




利律子さんのお母様が、恐る恐る震えながら言う。


「待ってください!利律子はどうなるのですか?利律子はいなくなるのですか?お願いですから、それだけは許してください・・。」




向津の姫は優しい表情で利律子さんのお母様を見ると、


「いいえ。消え去るのは私の方です。同化するだけですから、心配しないでください。」




小さく左右に首を振りながら、総宮が向津の姫に近づいていく。


「向津の姫・・・。向津の姫!」総宮が向津の姫に手を延ばす。




「共に生き、命が受け継がれて行くために・・。」




「私達は一つになる。」




3人の姿が、薄く光りながら、利律子さんに重なり、吸い込まれるように消えていった。




右膝をついたまま、下を向く総宮。




少し間を置いて、鋭い効果音のような音がした。


皆が空を見た。




大きな落雷のような音がし、太くて真っすぐ下に伸びた光線が、こちらをめがけて伸びて来た。その時、ドーム型のバリアのようなものが出現し、私たちは皆平気だった。




柳が驚いた顔で携帯を確認し、空を見ながら言った。


「今のは雷じゃないだろう?携帯がおかしいじゃないか!もしかして!?」




「DEWか?」誰もが我が目を疑うように動揺してお互いを見た。




「日本でまだ実用化されていないはずだ。なんでそれが今ここに?今、弾き飛ばしましたよね?指向性エネルギー兵器って、跳ね返せるんですか?」


榛葉が自信なさげに言う。




総宮は空を睨んでいた。




すこしぼんやりとした表情の利律子さんが、総宮の側に歩いて行き、左手を取って、優しい表情で


総宮を見ていた。




「大丈夫。でも、眠たい。」




そう言うと今度は利律子さんのお母様の所へ歩いていき、抱き着いて寄り掛かっていった。


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