第29話 私は妬む者

 光輝くその人は、白い大きな羽が背中から上に伸び、背丈よりも高い位置から緩やかに下に伸びていました。


 


 光の中から、少しずつ男の人の姿が見えてきました。少し時間が経つと、空から見ていた男の人の髪を金髪にしただけの姿が現れました。




 緩やかやに立ち上がり、イブを見つめると、やはりあの男の人にとても似た声で、穏やかにイブに語りかけました。




「あなたを創造したお方は、全てをあなたのために作り上げました。あなたがいつまでも幸せでいられるように、全てを取り計らって下さるでしょう。私はあのお方の代わりに、あなたを守る者です。」




 イブは戸惑っていました。何をすれば良いかわからないようでした。


 


「この木の側で、穏やかに、のんびりと過ごしなさい。あなたが寂しさを感じる時、あのお方は空の色で、木や草や花の色で、あなたの目を楽しませるでしょう。あなたの周りには、寂しくないように動物達が集まり、あなたに可愛らしさを見せてくれるでしょう。あなたの幸せこそがあのお方の喜びであり幸せです。何かあったら私を呼んで下さい。」




「あなたは、あのお方の姿にそっくりなんですね?」




イブは嬉しそうにそう尋ねます。




その羽を持つ人は優しく微笑んで頷くと、




「私は光を預かる者、あのお方の姿を頂くことを許された者です。私ををルシファーと読んで下さい。」




そう言いました。   






 私は少し上の位置から見ていたけれど、恥ずかしくなってきて、




「ぜんっぜん悪魔じゃないよ。まるで王子だよ!こっちまでウットリしてくるよ!」




とバタバタ手足を動かしていました。








 イブの周りにはリスや鹿や猫や犬や、馬や色鮮やかな鳥達がいました。イブは動物達と一緒に楽しそうに過ごしていました。




 イブを中心にして、草から花が咲き始めました。それがどんどん広がっていきます。花にはミツバチや蝶が集まってきました。




「花って、こんなに綺麗に色が混ざるの?」




と思うくらいに、色々な色が目に優しい色合いで咲いています。それは見ているだけで、心が和む様子でしした。




 おそらく、夕方になって来たんだと思います。空の色が綺麗なオレンジ色になってきました。薄い雲が所々に散らばって、太陽の光を反射して白く光っているので、とても神々しい空でした。




イブが空を見上げ、うっとりとしています。そして流れるように、何かを歌い始めました。




 


どこからか聞こえる 囁きが




全てを包み込み 安らぎを下さる




慈しみの波が 押し寄せて




目の前の全てに 幸せが溢れる






どこからか聞こえる 囁きが




髪を撫でるように 頬を包むように




命を頂いて 生きている




私の側に来て お姿を見させて






 でも、もうあの人の歌声は聞こえませんでした。でも、私にはイブを空から見つめる人が見えました。




その目はとても優しく、とても包み込みように、イブを見ていました。




「なんで、自分が側に行かないの?」それがとても不思議でした。






 すると私は、意識が遠くなりかけました。




 時間が経ったのか、景色が変わって雪が降る冬でした。イブが見えますが、格好が全く変わっていませんでした。




「寒くないのかな?風邪引かないのかな?」




私はイブが心配になりましたが、イブは全く寒くない様子でした。そして気がついたのですが、イブは一度も水を飲んだり何か食べたりしていませんでした。




「あれ?なんで何も食べないんだろう?」私ならすぐ何か食べたくなるよ!




強い光が空に光りました。


はらはらと蝶のように光が地上に降りていきます。




その光はイブの側に降りていきます。




下にいるイブは光に気がつきました。上を見上げるイブはとても嬉しそうでした。




私みたいな子供でも、わかるよ。


イブはルシファーが好きになったのね。




イブの側にルシファーが降り立つと、ルシファーは一輪の白いバラをイブに渡しました。




それを受け取ると、イブはルシファーにこう言いました。




「いつまでも、私の側にいてくれませんか?」




ルシファーはイブをじっと見つめていました。ルシファーは嬉しそうでした。 




その時でした。




晴れていた空が急に曇り始め、大きな雷が鳴り響きました。




「私は妬む。イブよ。ルシファーよ。」




あの人の声が、悲しそうに響いてきました。




イブが眠るように横になりました。そして、動かなくなりました。 




私はさーっと血の気が引きました。


「息を、、、していないの?」




ルシファーがイブに駆け寄ります。ルシファーは空を見上げ、悲しそうに言いました。




「何故、、、。」




私は物凄く驚きました。何が起こっているのか分かりませんでした。




イブは、死んでいました。


そして死んでいても、とても美しいイブの体が草や花と同化していきました。


ゆっくりと、ゆっくりと、同化していって姿がなくなりました。




「人間はこんなに綺麗な死に方をしないんじゃないかな?腐っていくんじゃないの?」




そう思っていた時に、あの人の声が悲しそうに、苛立つように、話しだします。




「ルシファーよ、お前の羽を奪い、私に似た姿を奪おう。地に落ちるが良い。」




そう声が響くと、ルシファーは一度空高く舞い上がりました。




その後で、空から男の人の大きな叫び声が聞こえました。そして、空から落ちていくルシファーの姿が見えました。






その背中にはもう羽が無く、落ちていく中でルシファーの頭に大きな角が生えていき、肌の色がくすんだ灰色に変わっていきました。細身だった体に、筋肉がどんどん盛り上っていきました。




地面に真っ黒い大きな穴が広がり、その穴の中にルシファーは落ちていきました。








私は飛び起きるように目が覚めました。私は自分の家の自分の部屋にいました。学校にいたと思うんだけど、お母さんがまた迎えに来てくれたのかな。






ぼーっとしていると、誰かが私に話しかけます。






「今の時代の聖書と呼ばれるものにある全ての最初の出来事は、これが真実である。」






私は「聖書に詳しくないから読まないとなぁ。でも日本の神道をこれから勉強しないといけない私が何で聖書?」と思いながら、起き上がりました。




寝起きが重い感じで暗い気分になってしまったので、この話を基子おばあちゃんに電話で話しました。基子おばあちゃんは、橘さんにすぐに伝えてくれると言ってくれました。


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