第28話 ルシファーとイブ
気が付くと、私はベットの上でした。頭がぼーっとしているけれど、ここが保健室だとわかりました。
「行進の練習中にクラっとなったんだったっけ・・・。」
「他の人は何をしているんだろう。はやくみんなの所に行かないと。」
そう思ったのに、また凄く眠くなってしまいました。なんだか、凄く、凄く引っ張られているように、意識が遠退いていきました。
私が気が付くと、私はどこかに浮いている様でした。そこはとても暗い場所でした。でも不思議と怖くはありませんでした。
すーっと、遠くに小さな光が見えました。
光がだんだん大きくなっていくにつれ、とても優しい声の、男の人の歌声が静かに響いてきました。
光あれ 天を照らせ
水よ降り注ぎ 川よ走れ
土は広がり 葉よ増えよ
小さな小さな囁きのような、ハミングのようなその声が歌うのをやめると、次は女の人の歌い声が聞こえました。私は何処からか降りて行っているようで、大きな木の側にいる髪の長い人の姿が、だんだん近付いてくるように見えてきました。
その人は殆ど服を着ていないのに、黒い長い髪が体を覆って服を着ているかの様でした。でも、体の形から女の人であることはわかりました。
その女の人が歌い始めました。
何処からか 聞こえる 囁きが
全てを包み込み 安らぎを下さる
慈しみの 波が 押し寄せて
目の前の全てに 幸せが溢れる
その後ですぐにまた囁く男の人の声が聞こえてきました。
光あれ 世を照らせ
水よ命の 糧となれ
愛しい人を 形どり
産めよ増えよ 地に満ちよ
幸せよ 永遠とわに
葉がゆっくりと生い茂っていきます。
木もゆっくりと成長していきました。生えて来たばかりの葉っぱは、キラキラ光って見えました。
その言葉に答えるかのように、女の人がまた歌を歌い始めます。
何処からか 聞こえる 囁きが
髪を撫でるように 頬を包むように
命を頂いて 生きている
私のそばに来て お姿を見させて
今度は歌う男の人は、とても寂しそうな声になりました。
見えもせぬ 触れもせぬ
ただ生きよ 永遠とわに
私のために
我が喜びよ 我が幸せよ
男の人はそう言うけれど、女の人にはその人が見えていないようでした。でも私には見えるんだけどなあ。
空から地上を見ているその人は、神様なんだろうか。
でも、神様って凄いおじいちゃんじゃないの?若くてまつ毛の長い、細身のきれいな男の人だけど。見た目は観音様見たいかな。髪が黒くて目が大きいけど下を向いているから、目が切れ長に見えます。
女の人の周りに、沢山の色々な動物が集まって来ました。
空も海も、気も草も花も、その空間の全てがとても綺麗でした。
動物はその女の人の側に集まり、一緒に空を見上げていました。
その目は皆んなとてもうっとりしていました。
その歌っている人は歌を歌い終えると、静かな声がまた聞こえてきました。
「光の天使ルシファーよ。私に最も似た僕よ。私の愛するイブの側に行き、私の代わりに私のイブを守れ。」
そう声が聞こえると、とてつもなく強い光が、蝶がはらはらと飛んでいるように現れ、空から地上に降りていきました。
イブと呼ばれた女の人は、黒髪がくせ毛で、肌の色は私たちと同じでした。
とても印象的なのは、ほっぺたがピンク色でとても可愛い顔立ちをしていました。
イブの側に、背中に羽の生えた天使のような人がいて、とても光っていました。
色白で黄金色の短い髪のその人は、イブから「ルシファー」と呼ばれていました。
「あ。さっきの歌の人が言っていたルシファーってこの羽の生えた人のことだ。」
何の天使だろうと思っていると、私はふと思い出しました。
「あれ?ルシファーって悪魔じゃなかったの?」
とても悪魔には見えないその天使は、歌っていた男の人の髪を黄金色にしただけと言う感じて、見た目がそっくりでした。
左の手を胸に当て、イブの前に片膝をつき、頭を下げて無言の挨拶をしていました。
戸惑っていたイブでしたが、静かな優しい風が流れて、静かになびいたイブの髪がとても綺麗でした。
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