第13話 貴方は当分の間、ここに来ることはない。と言われる。

 沢山のお話を聞いて、沢山のお話をした。私は夕食を食べる前には疲れてしまっていて、夕食の頃にはうとうととしていた。


 お婆ちゃんが、「利津子ちゃん、お夕飯は何が食べたい?」と言うので、「ハンバーグ。」と答えると、お婆ちゃんの娘の、志都子叔母ちゃんが、手作りのハンバーグを作ってくれた。


 他の人たちは帰ろうとしなかったが、お婆ちゃんが、「皆、大分疲れたやろ。ご飯はぶぶ漬けでもよろしいやろか。」と聞くと、「お願いしますわ。」と皆が言った。


 私は、「あれ・早く帰っての意味じゃないのかな?」と思ったけれど、どうやら迷信らしい。


「なんか、関東の方では、京都の人間がぶぶ漬けを勧めると、早く帰れと言っているとか言うて、京都の人は言い回しが怖いとか、言うてはるんて。」


「なんや。おもてなしの言葉を、どうすれば帰れになるんや。」


「言う事成す事、にぎやかでいいわなぁ。東京は。」


「おお、これはやかましいの意味やで。」


「少しは言ってやりまへんとな。甘やかすさかい。」


「どにもこうにも、東京が好かんわけよ。」


「上京言うたら京都へ行く事やわなぁ。」


「東京に行くことを上京言いませんえ。誰が言わせたんや。」


 私はなんだか漫才を聞いているようで、おかしくておかしくて、口を押えて笑ってしまった。関西の人って、面白いなぁ。とつくづく思った。


 子供は誰も来ていなかったけど、そんな風に賑やかに楽しく時間は過ぎていった。


 次の日、お昼過ぎには私は京都駅に向かった。お婆ちゃんも志都子叔母ちゃんも、とてもお名残惜しそうに、


「利津子ちゃん、またおいでね。本当に素敵な時間を過ごせたわぁ。」と言って、お土産を持たせてくれた。


 京都駅の新幹線口に近づくと、人が行き交う中に、長い帽子を被った着物姿の男の人が立っていた。


 光を浴びてとても綺麗な姿は、目立つと思うけれど、周りの人は誰も気が付いていないようだった。他の人が気が付いていないのではなくて、他の誰にも見えていないようだった。


「貴方は当分の間、ここに来ることはない。」


 そう言うと、その男の人は涙を流して、こちらを見ていた。


其の人は名前を名乗らなかった。とても恐れ多いことだけれど、あのお方だと思った。ふっと姿が消えると、もうその姿を見ることは出来なかった。


 改札口に着いた。お婆ちゃんと叔母さんは、ホームまで来てくれると言って、私の手を繋いで迷子にならないようにしてくれた。


「おばあちゃん、叔母さん、なんだかね、私は当分の間、京都には来れないんだって。」と言うと、「どうしたの?」と叔母さんが言った。


「何だかね、着物を着た男の人が、駅の入口の近くにいてね、そういったの。」と言うと、


「あら。そんな人おった?」とお婆ちゃんと叔母ちゃんで不思議そうにしていた。


「もしかしたら、堀川さんが来てくれはったんかもしれませんなぁ。」とお婆ちゃんが言うと、


「皆、利津子ちゃんが好きなんやわなぁ。」と言って私の頭を撫でてくれた。


「お婆ちゃん、叔母さん、ありがとうございました。本当に、お世話になりました。」と言って、頭を下げた。


 私の席がある車両の前で、お別れをすると、私は席に座って、お婆ちゃんと叔母さんの方を見た。新幹線が動き出すと、沢山手を振って、お別れをした。



 「黒崎さん、ちょっと気になるSNSの記事があるんですが。」


総氏そううじの一人である柳誠一郎やなぎせいいちろうが私に何かコピーを持ってきた。柳は総氏そううじの中では、若手で、インターネットやパソコンについての知識がかなり高いく、インターネット上の情報収集に特化した調査を専門としていた。


 内容を読んでみると、確かに面白いことが書いてある。しかも、不思議なことが見える本人は小学生の女の子と書かれてあった。


「ちょっと調べてみる価値はありそうだな。柳。この女の子が誰なのか、何処に住んでいるのか、早急に調べられるか?」そう言うと、柳はニヤリとして、「朝飯前ですよ。」と答える。


 それから数時間後、このSNSは、泉八志都子いすみやしずこという女性が書いたものだとわかった。


泉八志都子いずみやしずこって、京都の今出川に家がある、あの泉八家いずみやけのか?」と念を押して聞くと、柳は「そうです。あの、泉八家いずみやけです。」と答えた。


「厄介だな。よりにもよって、八咫烏の元締めの娘とは。」


 これはいかん。勝手に調べると八咫烏を怒らせるぞ。八咫烏と橘流陰陽道古神道は、過去に幾度となく衝突してきた因縁の間柄だ。私では役不足だ。総宮《そうぐう)にお願いしなければ、めんどくさいことになりそうだ。


 私は総宮そうぐうに会いに行き、これらの経緯を話した。


泉八基子いずみやもとこ様の所に来た小学生の女の子がいますが、この子が、大変興味深い子でして。」と話すと、総宮そうぐうは、SNSをプリントアウトしたものにゆっくりと目を通した。


「この子の住所、名前、両親の名前、戸籍、全部知りたい。基子様に聞いた方が速そうだな。」そう言うと、総宮そうぐうは、電話をかけ始めた。

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