第12話 京都でファイティマ第三の予言について聞かれる。

 堀川今出川からもっと京都の奥の方に行くと、お婆ちゃんの家に着いたようだ。とても古い門の前で降りると、女の人が二人待っていた。


「おかえりなさいませ。」


 そういうと、私の荷物を持ってくれて、お婆ちゃんたちと一緒に家に入った。玄関がとても広く、入ってすぐ目に入るのは、金色の額縁の中の、凄く大きな桜の木の絵だった。玄関の足元は薄い鼠色の大理石で、二段上に木の床があった。すごくいい香りの木の匂いがした。


 大きな畳の部屋の前を過ぎると、奥には洋風の部屋があった。お母さんのお友達の叔母さんの家のように、日差しが良く入る明るいリビングには、大人の人が何人もいて、皆がこちらを見ていた。


男の人が、「この子が利津子ちゃん?」そう言うと、私を真ん中の椅子に通して座らせた。


「皆、利津子ちゃんが来るのを今か今かと待っていたんですわ。皆、利津子ちゃんに聞きたいことがあるから、話を聞いてやってほしいんですわ。」


そういうと、女の人が言う。「ほな、私から。」


「利津子ちゃん、私は泉八貞子いずみやさだこと申します。あ。でも怖い貞子さだこと違いますえ。心優しい貞子叔母さんどすえ。」そう言うと、私に話をし始める。


「私はな、今のところ、健康なんですわ。でも、今後、どこか悪くなるところはありますか?前もって知れると、軽いうちに治療できるんやないかと思いましてな。」


 そう言われて、私は貞子叔母さんの胸元を見た。そこからお腹の方へ視線を下ろしていくと、胸のあたりに、何か違和感があった。


「まだ大丈夫だけど、胸のあたり、早めに病院に行った方がいいかも・・。」


 私がそう言うと、貞子叔母さんは、


「胸?おっぱいの事?」と聞かれたので、頷くと、


「それはあきませんなぁ。ほな明日にでも、病院に行きましょか。他には気になることはある?」と言われたので、「ううん。」と首を振ると、他の男の人が待ちきれないという感じで、近くにやって来た。


「ほな次は私が。」そう言って、女の人の写真を見せてきた。


「利津子ちゃん、僕の名前は大貫原和彦おおぬきはらかずひこ。この女の人の写真を見てどう思う?何か感じる?」私はその写真を両手で受け取る。そうすると、両手の力がさっと抜けた。


「この人は・・。」話そうとしたときに、お母さんの言葉を思い出した。


「人がもうすぐ死んじゃうとか、人の命の残りが少ないというようなことは、言ってはダメよ。」


私は言葉を選びなおしてから喋ることにした。


「この人は何日かはご飯が食べれるようになるけど、その後は、元気がなくなります。」


そう言うと、大貫原(おおぬきはら)の叔父さんは、「もう長くないのか?」と真剣な顔で聞いて来た。


 私は、嘘はつけないと思って、


「そんなに長生きはできないと思います。」


 と言うと、大貫原おおぬきはらの叔父さんの顔色が変わった。「もう、余命を言われているんですわ。」と小さく呟いた。叔父さんは少し涙ぐんでいた。


 その場の空気があっという間に暗い雰囲気いなってしまった。私は首をかしげて困っていると、泉八(いずみや)のお婆ちゃんが、


「今日は皆、割とただ事でない事を聞きたい人ばかりやから、相手は小学生ですからな。その辺、よう考えて接してえや。」


 次に、この中では比較的若い女の人が、「どうしても聞いてみたいことがあるんですわ。」と言って、私の方に近付いて来た。


「私は泉八華(いずみやはな)といいます。利津子ちゃん、ファイティマ第三の予言を知ってる?」


と、とても興味津々そうに覗き込んで来た。私は良く知らなくて、「ファティマ第三の予言?」と首を傾げた。


「利津子ちゃん、第三次世界大戦って、起きると思う?」


 首をかしげていると、私の目の前に、焚火のようなものが見えてきた。少しづつ周りの景色が見えてくると、私はとても怖くなった。


 沢山の人が木に括り付けられていて、順番にその括り付けられた人の足元に、火がつけられていく。その殆どが女の人だった。


 真っすぐ見ていられなくて、私は空を見上げた。


 空の高い所で、白い服を着た女の人が、祈りながらその光景を見ていた。顔の表情がうっすらしかわからなかったが、胸のあたりで両手を合わせて祈っていた。


 沢山の人が火で燃やされていった。そうすると、そこから薄く黒い色の雲のような、霧のような塊が、空に昇っていく。


 それは、十字架を掲げた教会に向かって流れていた。教会の中で、黒い服を着た人々が祈っていたけれど、そこにいるのは神様ではなかった。とてつもなく黒い、黒い怖い、大きな人のような人でない人がいた。頭に大きな角が二つあった。その人たちは、笑っていた。その様子が、とても不気味でぞっとした。


 次に、祈っていた女の人が、三人の子供の前で話をしていた。


「教会が沢山の罪のない人々を殺す事を止めないと、神は教会の上に大きな大きな罰を与えるでしょう。人が死ぬ時に発せられる強いエネルギーを利用する為に、罪のない人々を沢山殺すのは、もうやめなさい。イタリアはなくなり、バチカンは粉々になるでしょう。」


「ヨーロッパとアメリカの地図が変わります。ヨーロッパの地に、アメリカの地に、聖書に書かれた最後の時がやって来るでしょう。嘘で塗り固められた聖書の黙示録は、その嘘の聖書を作った人々の国に、大きな大洪水と火の天罰をもたらすこととなるでしょう。」


「でも神は、悔い改めれば、それを許すと言っています。それほど神は、人間を愛しておられます。私の名において、許しを請いなさい。ロザリオの祈りを沢山唱えなさい。」


 私は良く分からない言葉が沢山出て来て途方に暮れたけれど、できるだけ思い出して、その話をした。そうすると、華お姉さんは、もう一度、


「第三次世界大戦は無いのね?」と私に聞いた。私はこう答えた。


「ヨーロッパとアメリカだけみたいです。」


「日本は?」


「日本の事は何も言っていませんでした。」というと、華お姉さんはとてもほっとした様子だった。


私は、この時点でとても疲れてしまったけれど、あと5人、お話をしたい人がいるので、頑張ってお話を聞いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る