第6話 火事が見える
私が小学校6年生の時、両親の知り合いの家に一緒に出掛けることになった。その家に着くまでは、お父さんの運転する車の中でうとうとと寝ていたため、私がしっかりと起きたのは、玄関の門をくぐった後だった。
我が家とは比べ物にならないくらい広い家、我が家に無い大きなソファーとサイドテーブル、窓ガラスに近い場所の壁には細長い背丈の高いからくり時計、リビングと庭を隔てているのは、外の光を全てリビングに注いでいる大きな大きなガラスの窓だった。
広い庭には大きな木があった。大きな木の側に白いガーデンテーブルと椅子があった。私がその大きな木の方を見ていると、その家の奇麗な叔母さんが、
「その梅の木はもう何十年も前からそこにあるみたいなのよ。今度は春に来てね。綺麗な梅の花が見れるからね。」そう言ってにっこりとして、カルピスとスイカを目の前においてくれた。
お母さんとお父さんが何か話していてけれど、私はスイカを食べながら、「からくり時計見たいな。あの庭のテーブルも、椅子も使ってみたいな。」と思いながら窓の外を見ていた。
だんだん緊張が解けてリラックスしていくと、私は木の側に、赤い服を着た女の子がこっちを見ていることに気が付いた。
「あれ?ここの家の子かなぁ。」と思いながら、
「おばちゃん、ここの家の子?」と言って外を指さすと、其の叔母さんは困った顔をして、「私にはもう大学生の息子がいるけど、一人暮らしをしていて一緒に住んでいないのよ。今日もいないの。子供がいる?」と言って外を覗き込んだ。
私も一緒に外に目を向けると、もうその子の姿は無かった。私はなんだかつまらないことを言ってしまったようで、「誰か入って来たかのかな~?」と言って笑いながらおどけて見せた。
お父さんとお母さんが話し込んでいる時に、その叔母さんが、
「実は今度、この家とは別に新しい土地を買って新しい家を建てようと思っていて、それを利津子ちゃんに見てほしいのよね。」と言ったのが聞こえた。
私は自分の話が出たので、お父さんとお母さんの間に座りなおした。どうして自分に見せたいというんだろうと思いながらその話を話す叔母さんを見ていると、まるで薄く映った映画のように、目の前に建物が立っていない、砂利石が引き詰められた場所が見えてきた。
そして、昼間のその土地に火事が起きていた。私は怖くなって、
「火事が見えるから。そこは怖い所みたい・・。」と言うと、お父さんもお母さんも、目を大きくして私の方を見ていた。その叔母さんは、「それならちょっと様子お見てみようかしらねぇ。」と言っていた。
叔母さんが続けて、「利津子ちゃん、この家をじっくりと見て、何か浮かぶものがある?」と私を覗き込むように見ながら聞いてきた。
私は家の中と庭をじっくりと見た。すると、大きな木の枝に、紐にぶら下がった着物を着た髪を結いあげた女の人が見えた。その女の人を見ているとゆっくりと首が持ち上がり、そのまま首が伸びてきて、恐ろしい形相で私の方に向かって来た。
目の前に来た時に、ぱっとその姿が消えた。
その人とは別に、また赤い服を着た女の子が木の側にいた。その女の子は赤い服ではなくて、赤い着物を着ていた。おかっぱ頭の女の子だった。私はなぜか、
「この女の子は火事で死んだんだ。」と思った。そうするとその女の子が庭の端の方を指さした。「あのせいで私は死ぬことになったの。」と呟いた。
そして次に、髪を結いあげ、着物を着た男の人たちが庭に大きな穴を掘り、その中にたくさんの蛇を入れ、その蛇を焼いている様子が見えた。炎の中で焼かれた蛇がうねうねと動いている。私あまりにも蛇達が可哀そうで震えてしまった。映像はそこで終わったようで、それ以上は見えなかった。
お父さんとお母さんは、小さく震えている私の肩を抱き、心配そうに戸惑った顔で私を見ていた。叔母さんが口を開く。
「何か見えたのでしょう?全部教えてくれないかしら。」と申し訳なさそうに言われた。いやとも言えず、私は見えたものを話していく。
「最初に見えたのは、砂利石が沢山置かれた場所が昼間に火事になっているところ。」
「次は、着物を着た昔の女の人があの木で首をつっているところ。その女の人は妖怪の話の、ろくろ首みたいに首をしゅーーっとのばしてこっちに飛んで来て消えちゃった。」
「その後に見えたのは赤い着物を着たおかっぱ頭の女の子。」
「そして着物を着た男の人たちが、庭の端っこに大きな穴を掘って、その穴にたくさんの蛇を入れて焼いているところ。」
「女の子は、そのせいで自分は死んだのと言ったの。見えたのはそこまで。」
叔母さんがお母さんの方を見ながら、
「この家の昔の事に詳しいのは、今京都にいる祖母だけだから聞いてみるわ。ありがとう。」
そう言うと、叔母さんは、お母さんの方を見て、「確かに、昔大きな火事があって、別棟に住んでいた女の子がその火事で死んでいるのよ。それに、ここは土地柄、蛇が多くて・・・。昔はよく集めて殺していたらしいわ。でも着物を着た女の人は何かしらねぇ。」
私の頭を優しくなでると、叔母さんは私に買っておいたと言って、綺麗なフリルのある洋服をプレゼントしてくれた。綺麗な箱に入れられており、私は首を振って
「こんな凄いの貰えません。」と言ってお母さんの後ろに隠れた。
叔母さんは、「何を言っているの、あなたの方が凄いのよ。」そう言ってお母さんに袋ごとプレゼントを渡した。
お母さんは、「家にお姉ちゃんを待たせているからそろそろ帰るね。」そう言ってお父さんと一緒に挨拶を済ませ、その大きな家を後にした。
帰りの車の中では沈黙が続いていたけれど、お父さんが口を開いた。
「利津子、あんなふうに何かが見えてくるときは、よくある事なのかい?」とても心配そうに、お父さんは私に尋ねる。
私は、「想像しているみたいに、その様子が浮かんでくるだけなんだけど・・・。よくね、学校でも、あの先生はあの先生が嫌い。あのこは本当はこの子が嫌い。とか、あの先生もうすぐ交通事故にあうとか。でも先生本当に交通事故に遭っちゃってね。車が凄く壊れたって体育の時間に話してたよ。」と言うと、お母さんが大きく溜息をついた。
「りっちゃん、そういうことが見えても、簡単に人に言うんじゃないわよ。必ず最初にお母さんに話しなさい。絶対よ。」
私は「うん。」と言って頷いた。
翌日、学校から帰って来ると、お母さんは私のところへ来て、
「さっきお母さんのお友達の叔母さんから電話があって,この前の叔母さんね。今日、昼間に家を建てる予定だった土地で不審火があって、警察から電話があったそうなの。」
「それから、また会いたいみたいなんだけど、会ってくれるかな。お母さんの高校からの親友なのね。凄く仲良しなの。今度は親戚が集まって、りっちゃんの話を聞きたいそうよ。」と申し訳なさそうに私に言う。
「お母さんの仲良しなら私、嫌じゃないよ。」お母さんに気を遣ってほしくなかったから、私はニッコリとしてそう答えた。
来週末、私はまたその家に呼ばれることになった。
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