第6話

「もしもし、白川審議官ですか?松田です、あれの仕掛けられたおおよその場所は分かってます今から……ええ…ええ…でですね、僕と佐原さんの部隊…隠す事もないか…カミサカ達でこれから解除に向かいます……いや…これは内密に願いたい…箝口令も出ているのが幸いだよ…僕らが解除を必ずするからさ?今回の件…無かったことにしてくれないかな?……無茶は承知してる……え?……ふーん…白川さん?君に指示出してるジジイ達に伝えて、僕を拘束したり主犯の人間を表沙汰にして逮捕なんてしてみろ!東西統一時に何をやったか全てバラすぞってね!いいね!お願いだよ!僕らが意地でも見つけるから!」

そういいカミサカが用意した車で白川審議官と話をした

「相変わらず無茶言うな、お前は」

「無茶でもなんでもやる、マキを犯罪者にしたくない、それに仕掛けられたブツをこっちが内々に処理すればどうとでも済ませさせせられる、それくらい僕は金を議員連中に払ってきたしね」

助手席から弟村が口を挟んだ

「社長?何か確証あってやってるんですよね!」

「あぁ、マキが仕掛けるとしたらそこしかない」

「なんでそんな事言えるんだよ」

カミサカが噛み付いた

「啓介は基本父親の話をすると不機嫌だったけど1回だけ父親との話をしてくれたんだ、恐らくマキにもしているよ」

そう言うとカミサカから借りたノートPCのキーボードを叩いていた

「ここってこんなに広いのか…」


木路橋

環状鉄道線の真ん中を突っ切るように千葉から東京、八百万まで伸びる電車の駅

大学やら専門学校が多く立ち並ぶ横には大きな敷地内に遊園地とショッピングモール、ホテルやドーム式野球場が並列され少し離れると植物園もある街だ


「社長?ここにあると?」

丸外ナンバーの車ゆえハンドルを握らない弟村が尋ねた

「昔に1度だけ啓介が僕に話したんだ、恨みつらみしかない父親が1度だけ母と幼い啓介を連れて野球観戦して遊園地で遊んでホテルで食事したってね、恐らくマキも聞いてるだろう、それにマキは日本名だが外国育ち、恐らく日本の地理なんてほぼほぼ知らないよ、彼女が仕掛けるなら…啓介の話で出たここしかない」

「もし…違っていたら…?」

佐原が問うた

「その時は…その時だよ、無責任と罵られそうだけどね…」

「何ぃ?コンサートだぁ?知らねーよ!誰だそれ!」

カミサカが電話に向かって叫んでいた

「例のドームでなんか日本の男アイドル?が3日続けてコンサートだとよ!封鎖は無理だ!」

「仕方ないね、佐原さん?WCSは何人くらいいるの?」

「私の本隊のみですから…10いるかいないか…保険に東京のめぼしい建物を当たらせているので」

「今ドーム、ホテル、遊園地、ショッピングモールの納入業者、出入り業者のここ3.4日間の同行をピックアップしている、でもね…あれは爆散しても意味が無いんだ、熱に弱いからね、恐らく人が集団で集まる場所で仕掛けないと大量に感染者を出せない…僕の見立てなら…ここのドームのどこかだよ」

「カミサカさん!もう着きます!」

運転手がカミサカに伝えた

「探すにしたってどう探すんだよ!俺たちの名前使えねぇぞ、パニックになる!」

「僕達と佐原さん達、カミサカで探すしかない…今ここの設計図を調べてるよ」

佐原のスマホに着信

「よし、WCSはその場で待機、我々が動いて他の人間に勘づかれるのは避けたいので装備は最低限、わかりましたね?…和平さん、WCSも現着しました」

「ありがとう、佐原さん!」


車が業者用出入口に着き佐原、カミサカ、弟村、続けて和平が降りるとカミサカが

「おま!降りんなよ!何のための丸外ナンバーだ!」

「僕だけ車でいるなんて嫌だね!」

そこにスーツ姿で小柄の足を少し引きずった男近づいた

「白川審議官…」

「社長話は後です、ウチのOBですが何人かここに連れてきました、役に立てるかどうか…」

「ありがとう白川さん、でも僕を拘束しないでいいの?」

「貴方を拘束すると後々面倒だ、議員連中の秘密や統一戦争時の暴露なんてされたら日本がまた混乱する、24時間切るまでは貴方を俺が絶対に拘束させない、さっさと探しましょう!」

そこにWCSと思われる人間が怒鳴られていた

「お前!最低限装備って言われたろ!何聞いてたんだ!」

隊員の1人を見るとガスマスクにスーツ、ブーツにリュック、スパス12を装備した隊員がいた

「だって…ウィルスだと…」

「バカかお前!解除しちまえば問題ねぇだろう!指揮車戻って着替えてこい!」

「…でも…」

「でももカカシもねぇ!命令聞けねぇ奴は辞めちまえ!」

現場指揮官らしき人間がガスマスクの隊員を叱責した

「はい…藤田さん」

「全く…佐原さん、今1人準備させて…?!」

藤田と呼ばれた隊員が和平の顔見て驚いていた

「…近…さん?え?この…!!」

「あぁ藤田くんは初めましてか、この方はピースカンパニー代表 松田さんだ」

「初めまして、松田です、WCSの…?」

「…あ…はい…初めまして、藤田五郎と言います」

藤田が和平に敬礼をした

「てめぇらお見合いしてる場合か!さっさと探せ!」

全員そんな事してる場合はないと気がついたのかスイッチが入り和平が説明しだした

「ざっとしか調べられなかったけど恐らくここ南12番ゲートのどこかにある通風口だ、その大型ダクトはドーム全体に空気の流れを送ってるからここが1番最適解だ、僕ならここに設置する、それに僕が調べたら今から4日前にいつもはここの施設が使わない運送業者がここのゲートから何かを搬入してる、十中八九間違いない…これは僕の憶測だけどみんなお願いします!この通り!」

和平は土下座をして地面にアタマを擦り付けた

「社長、やめてください!理由は違えどみんな目的は一緒です!さっ立って!」

弟村が和平を起こした

「そうだぞ、うちはおめぇに貸しを作る為だ」

「今回の代金もきちんと請求しますよ、社長」

「社長、早く片付けましょう」

「…みんな…ありがとう…本当に…」

1番最初に動いたのはWCSだった

「聞いたか!見つけたら無線で知らせろ!絶対に1人でどうこうしようと思うな!ほら!行け!」

藤田と呼ばれた男が指揮をし全員が後に続いた

「あの…藤田さん?」

小柄のカーキのカーゴパンツに軽装プレキャリ、モダナイズAKを構えたキャップにメガネを掛けた隊員が藤田を止めた

「べナさんがまだ着替え途中…」

「うるせぇな!急げって言ってんだろ!だったらお前が待ってろ!てかお前もそんな長物置いてけ!人の話聞いてんのか!…おい!いくぞ!ついてこい!」

藤田が他の隊員を連れて中へ向かった

「なんだよあの人…まだ比較的新しい奴なのに…みんなの言う通りなんであんなに偉そ…」

「実際訓練教官だから偉いんだよ、文句言わない」

「あ!佐原さん!すみません!ベナさん遅いなぁ…」


佐原がマジマジと和平を見た

「どうかしました?」

「いや、写真じゃピンとこないですけど…そうか…彼も見間違うくらいか…いや、なんでないです、我々も中へ行きましょう」


ー名城も自分と誰かが似てるような事を度々言っていた、誰なんだ…まあいいー


一瞬考えこんだがアタマを切り替え、佐原から無線を受け取り和平も中へ向かった

「社長!俺も一緒に!」

「弟村君!固まるより散らばった方がいい!君もそっち頼むよ!何かあったら無線を!」


12番ゲートしたの通用口から中に入るとさすがは球場出入口、通路が大きい

音響設備等の搬入搬出もあるの通路のなので大きい理由がよくわかる

中のコンサートの音が聞こえるが和平は日本のエンタメに疎くて何がいいのかさっぱり分からない

しかしこんな事をしてる場合ではないと頭を切り替え探し出した

そんな時無線から

ー12番と15番ゲート連絡口、ありませんー

ー12番、9番ゲート連絡口、発見できずー

ーお前!ここに本当にあんのか!ー

カミサカだけは声でわかる

「ある!怪しい所は全部探そう!」


ーあの〜これかなぁ〜なんか大きいボンベに繋がった箱とタイマーがあるんですけど…ー


「それだ!君!場所は!」


ーえっーと…ここは…12番口と6番口の別れ道のハシゴ登ったところですー


ーそのまま触るなよ!ー

ーよくやった!ー


無線でみんなが賞賛していたが見つけた隊員が不思議な事を言い出した


ーこれ…パッと見繋がっているんですけど…タイマーの表示が消えてるんです、なんでだろう…ー


「どういう事?説明して!」

和平が大きな声で返した


ーこれが例の物だとしたら…時間がくると箱の中身が割れると同時にガスボンベの弁が開いてダクトに出る仕掛けだと思うんですが…タイマー消えてるます、ボンベはしまってますし…怖くて箱を開けられませんが…


どういう事だ、マキが仕掛けた物なのに…


「とりあえず触っちゃだめだよ!詳しい人が来るまでそのまま!僕も急ぐから!」

そういい和平は走って向かった


和平が到着すると先程のガスマスクの声の主と小柄でメガネを掛けた隊員、それと佐原、白川とOBらが着いていた

「佐原さん!」

「あぁ社長…これですね」

「無線で聞いたけど…」

「今白川さんのお連れの方に見てもらってます」

専門家なのか白川が連れてきた人間が調べながら喋った

「これ、他の方の指摘通り何も脅威はないですね、外から見る限りは」

「本当に?」

「えぇ、箱の中身を見るまで確実なことは言えませんがね…」

和平が装置を見た

「さすがに僕もわからないな…白川さんこれどうやって運ぶ?」

「今やると人目につきすぎる、コンサートが終わり人の出入りが居なくなった時に運びましょう、幸いここは国防省近くだ、処理班呼んでそのままLv4の施設に送り滅菌処理させます」

「…白川さん、信用していいかい?」

「ガラムトラドの事件は知っています、こんなもん利用する気はさらさらありません」

白川が和平の目をまっすぐ見て言った

「わかった…白川さん、あと…申し訳ないけど処理班の車をなんか適当に偽装して貰えるかな?万が一…見張られてたら危ない」

「わかりました、すぐに手配します」

そういい白川は電話をかけだした

「君たち、お出柄ですよ!どちらが見つけたんです?」

佐原が2人のWCS隊員を激励した

「べナさんですよ」

「いや、タカさんが…」

「べナさんが調べようって…」

「タカさんがハシゴ…」

「わかったわかった、2人ともご苦労さま、君達は白川さんが呼んだ処理班が来るまでここで警護、藤田さん達もここに寄越すからね」

佐原が藤田の名前を出した途端に2人とも肩から力が抜けた

「えー…あの人くるのか…」

「……憂鬱だよ」


「さて社長、これでひとまず一安心ですよ…私も家族が東京にいるので…」

「へぇ…佐原さん御家族が東京に?」

「えぇ、家内と娘1人です」

「この仕事の事知ってるの?」

「言えるわけないでしょう?家族には商社マンと言ってます」

クスッと和平が笑った

「そりゃ言えないよね…でも世界最高の傭兵部隊のCEOが商社マンか、少し笑えるよ」

そんな話をしていたらカミサカも走ってきた

「おい!見つけたってマジか!」

「君遅いね、タバコでも吸ってたの?」

カミサカが和平に蹴りを入れた

「うるせぇ!この状況でそんなことできるか!」

「イタ!君はいつも乱暴だなぁ…」

「んで!どうすんだよ!」

「もちろんちゃんとケジメをつけるさ」

「どこにいるか分かってんのか?」

「おおよそはね」

「社長、我々も行きますか?別料金ですが…」

「いや、これ以上迷惑かけられないよ、気持ちだけ頂いておく、みんな本当にありがとう…でもこれは僕が1人でやらなきゃいけない事なんだ」

カミサカが軽く和平の肩を叩いた

「ちゃんとケジメつけてこい、今度こそケリつけろよ」

「WCS全員、この地点を警戒、白川さん達の運び出し後に研究所までも万全で警護しブツが処理されるのを確認後私に連絡!よしかかれ!」

各々が行動に移った

「あれ?弟村君は?」

「見ませんでしたよ」

「無線も応答ないんだよな…見つけたら僕に連絡するようにいってくれる?」

「あいよ」


そう言い和平もその場から去った


…君の事だ、ここが見える所のどこかに絶対いるはず…タイマーの件…やはり君は変わってないね…


「ここからだと…ここが全部見渡せる所は…あそこか」


和平は目的地を見つけスマホで電話をしながら足を進めた

「もしもし…松田です、社長、お久しぶりです…このような時間に申し訳ないです…可及的速やかな事案のお願いでして…」



啓介…君の思い出の場所


マキは壊さなかったよ


僕ら3人は間違え過ぎた


でもマキは…


まだいくらでもやり直せる


僕はどうなっても


陽の当たる場所にマキを引き戻すよ


そしたら君は……




プレイタウンドームホテル

遊園地、ドーム式野球場とならぶ高層43階立ホテルで有名建築家がデザインしたという事もありオープン時は盛況だったが今でもドーム式野球場での催しの時はこぞって利用客が増えるホテルで1Fはロビー、2Fー7Fと43Fがレストランエリア8Fー11Fがプール等の館内施設で他が客室だ



1Fロビーを入りフロントへ

「いらっしゃいませ、ご予約のお客様でいらっしゃいますか?」

「こんばんは、僕は松田啓介と申します、お忙しい所大変申し訳ございません、こちらのホテルに「水流木 マキ」という女性が宿泊しておられますか?」

「お客様…申し訳ございません…そういった事はお答えできかね…」

フロント係が答え終わる前に和平はスマホを操作し電話をした

「あ、もしもし松田です、先程のお願いなのですが…はい…はい…これ君に電話だって」

そういいフロント係にスマホを渡した

「君に話があるって、話をした方がいいよ」

恐る恐るフロント係が和平のスマホを手に取り電話を受けた

「…はい…もしも…え?!えぇ?!はい!はい!…はい!仰せのままに!はい!失礼致します…松田様!何をお調べすれば…」

「急ぎなんだ…今水流木マキは部屋にいるのかい?」

「ご宿泊はされていますが…お部屋にいるかどうか…」

「そこは…まぁクリーニングのフリして電話して間違えましたーとかで大丈夫、とにかくやってみてください」

「はい、ただいま!」

そう言うとフロント係は裏に行こうとした

「嘘はやめてね」

「承知しております!」

数分後係が戻ってきた

「今お部屋にいるそうです」

「ここのラウンジを今から貸し切れない?」

「は?」

フロント係の目が飛び落ちそうだった

和平が小切手を出し渡した

「好きな金額書いていいよ、とにかく時間は何時でもいいから今日中に貸し切りにしてくれ、それともさっきの方にもう1回連絡しようか?」

「いや!…少々お待ちを…!」

フロント係がまた裏へ引っ込み電話をしたのか息を切らせて戻ってきた

「21時からでしたら可能との事です」

「ありがとうございます、金額は書いて頂けましたか?」

「いえいえいえ!お代なんて…」

「そうはいかないよ今決められないなら後日ここに請求書送ってください、僕はお店で飲みながら待たせてもらうからそれで21時に水流木さんをバーに呼んでくれる?ハッキリ僕がいるって言っていいから」

「承知しました」

「で?バーって何階なの?」

「43Fでございます」

「わかった、無理言って申し訳ないね」

そう言い和平はエレベーター乗り43階へ

高層階行き専用のエレベーターだがなぜが遅い気がした

高速エレベーターなので階数表示がはやい


33.34.35.36.37…


もしマキが来なかったら…


いや、必ず来る


マキがどんな決断しても


もう逃げない…


ポーン


43階に着きエレベーターが開くとフロア担当者なのか和平の到着を待っていた


「松田様いらっしゃいませ、フロントからお話を伺っております、お時間までどうぞこちらへ」


金曜日とはいえバーの客はまばらだった

昨今の不況でなかなか宿泊客以外ではこういったBARは敷居が高い

壁側が大きなガラス張りフロアのバーカウンターに案内された

「いらっしゃいませ、お飲み物はお決まりでしょうか?」

「ニコラシカをお願い」

「かしこまりました」

ニコラシカはシェイカーを使わないカクテルブランデーをグラスに注ぎ、上にレモンスライスと砂糖をのせたカクテル

和平は砂糖をのせたレモンスライス口に運び、一気にブランデーを口に流し込み一息つき和平バーテンダーに尋ねた

「決心をつけたら夜景が見たくてね、席を変わっていいかい?」

「かしこまりました、お待ち合わせですよね?でしたらあちらの窓側の席をはいかがでしょう?」

「うん、あそこがいいな、ついでにダイキリを頼むよ」

「承知しました」

ダイキリはホワイトラムにキューバの特産物であるライム、砂糖をシェイクしたカクテル、和平が窓側の席に座るとバーテンダーがシェイカーをリズミカルに振りグラスに注ぎ和平のテーブルへ持ってきた

「ありがとう」

「ごゆっくり…」

カクテルグラスには半透明のカクテルの色のカクテルが注がれていた

…ここのはライムベースじゃなくてレモンベースか…

和平は1口飲み窓の夜景を見た

あのタイマーとボンベ…あの惨劇を見たマキがこんな綺麗な夜景の町でガラムトラドの惨劇を引き起こすとは思えなかった、いや、思いとどまったと言うべきか…

願掛けだが「決意」と「希望」は自分の中に入れた

夜景に吸い込まれていた時、フロアスタッフに声をかけられた

「失礼致します、松田様、丁度最後のお客様が帰られました、少し早いですが閉店まで松田様の貸切でございます、お待ち合わせの方をお呼び致しますか?」

「あぁ、ありがとう、では呼んでくれるかな…あ、あと…これを」

和平は金額の書いた小切手をスタッフに渡した

「?!松田様!これはどういう…」

「もしかしたらここの綺麗なお店を汚す事があるかもしれない、だからその先払いだよ、もちろん足りなかったらここに請求書を送って欲しい、面倒かけて申し訳ない」

そう言い自分の名刺を渡した

「汚すとは…?」

「何もなかったらいいけどね…念の為だよ、いいかい?僕の連れが来たら君たちは僕達が見えるギリギリの所まで離れているんだ、いいね?」

聞き終わるとフロアスタッフが下がりしばらくすると人の気配がした

「失礼致します、松田様、お連れの方がお見えになりました」

振り返るとワンピースで左足部と胸元がスリット、肩から腕にかけてはシースルードレスを着たマキが立っていた

「お待たせ、まさか貴方からのお誘いとは意外ね」

「待つのは得意さ、良ければどうだい?」

「えぇ頂くわ…キールロワイヤルを」

「僕はカミカゼをお願い」

「承知しました」

フロアスタッフが椅子を引きマキが腰掛けた

「ここがわかったの…まぁわかりやすいわよね?ここに来たってことはあれも?」

「あぁ…あれやっぱり君はひとりじゃないのかい?」

和平が見渡すと数名の男が少し離れた所からこちらを見ていた

「えぇ貴方を殺すのは私1人じゃ無理だから」

一瞬の間が空いた

「そんなに僕が憎いかい?」

「何度も言わせないで…」

「…そうだ、君はいつ記憶が戻ったんだい?」

マキが答えようとした時カクテルが運ばれた

「お待たせしました、カミカゼとキールロワイヤルでございます」

テーブルにカクテルが並んだ

「乾杯するかい?」

「よしてよ…殺したい相手と乾杯なんて、記憶が戻ったの2年前くらいよ」

「そうか…きっかけはなんだったんだい?」

「片付けをしていたらあの写真が出てきたの、見たら直ぐに思い出したわ、それから徹底的に貴方を調べた」

和平がグラスに口をつけ飲みながら黙って聞いていた

「貴方こそ、私や啓介の事を思い出さなかったの?」

「思い出さない日は無かったよ、君がいつか僕の目の前に現れないかとずっとビクビクしてた」

「私が1番許せなかった事わかる?」

「僕が君を撃った事かい?」

「違うわ…貴方は何もわかってない」

和平の視線を察したのかマキは顔を背けた

「啓介は遅かれ早かれああなる運命だったわ、あの時の啓介は妄想に取り憑かれていたしヘリで逃げた時も私に言えない事を理解できた、暴発もいいの…私は殺す気で貴方に向けた、私も心のどこかで貴方なら…と思っていたわ、それに実はね薄々気がついてたのよ…貴方は啓介じゃないかもって…分かってたのに惹かれてる自分がいた」

マキはサングラスの奥の涙を拭いながら話を続け、和平は黙って聞いてた

「でも…認めたくなかったの…確証を得た時私は混乱して銃を貴方に向けた、その後よ…貴方が前に進んでいた事」

「前に進む?」

「そう、私達が過ごしたあの時間をまるで無かったかのように平然と貴方は乗り越えていた、それも啓介として、それが一番許せなかった」

マキが怒りからなのか拳に力が入った

「乗り越えてなんかいないよ、啓介を失った日の夢を今でも見る…君を撃った時の事も…でもねマキ?それでも…僕達生き残った人間は不条理な運命だった人達の思いを背負ってでも生きなきゃならない、過去に縛られるという事は…死んでいった人を縛りつける事になるんだ、僕らが知っている啓介が僕とマキが憎みあう所なんて見たらどう思う?」

「……」

「そんな事望んでいないよ、きっと「いい加減にしろよ」って言うさ、僕がした事を許してくれなんて言わないし理解しろとも言わない、でもマキね?君は過去に縛られるな。自分の足で自分ペースでいいからゆっくり歩こう」

「縛れるななんて簡単言わないで!私は…あんなモノまで…貴方を壊す為に仕掛けたのよ!…それに1人を感染させた…私が知らないと思った?!」

「大丈夫、その方は無事だ、それに今回の君がした事は僕の信頼している人達が全てを処理して無かった事にする」

「……」

「啓介の思い出の場所を…壊さないでくれてありがとう」

「私は…結局貴方に助けられたって事ね」

「違うよ、マキ?啓介が君を助けたんだ、啓介が僕にここの場所を話さなかったら僕らは見つける事が出来なかったよ、それに啓介の思い出の場所だったからこそ君は思い留まってくれたんだ」

「グスッ…もういいわ…こんな話をされて…私はもう…」

マキが手を挙げて連れていた男達を呼び男達が近くに来た時

「もういい、契約は解除…お金は契約通り払うわ、それと捕まえてた男を逃がして」

「捕まえてた?」

「貴方の運転手よ…あれの近くにいたから彼らが偶然捕まえたの、安心して、少し手荒な事をしたけど無事よ」

マキが喋り終わると男達はニヤニヤして話しだした

「おいおいおい、勝手言うなよ」

「お金は払うわ、それでいいでしょう?」

「金は頂く、聞けばそいつ結構な有名人じゃん、こいつを殺せば俺らもハクがつくってもんだ」

男達がジャケット裏側に手を入れた瞬間、和平がテーブルをそいつらに向けてひっくり返しマキの手を引いて走り近くのバーカウンターに身を隠した

「クソ!構うことねぇ!バラしちまえ!」


パァン!パァン!パァン!パァン!


「うわぁ!なんだ!警察!警察に電話!」

「に、逃げろ!」

フロアに居たスタッフ達がBARから逃げ男達はバーカウンターに向けて発砲した


「マキ!無事か?!被弾してないか!」

「自分の身ぐらい自分で守れる!ほっといてよ!」

ガシャンッ! ガッシャン!

酒瓶に弾があたりガラスと酒が降ってきた

「この状況で放っておけるか!これから付き合う連中はちゃんと見極めないとね!いいかい?僕が囮になるからその隙に君は反対から逃げるんだ、どうせ素人だ、人数と火力でしか物を考えられない奴に急所は当てられないから!タイミング…」

「貴方に助けてもら…」

「いいから!そんな事言ってる場合じゃない!君は絶対に生きなきゃいけない!いいね!」



「そんな所に隠れても…おい!捕まえ奴ここに連れてこい!」

男が指示を出した

「さっきから繋がらねぇ」

「あぁん?まぁいいこのまま…」


パァン!パァン!


「うゎ!なんだ!お…!」

「こんの野郎ぉぉぉ!」

男達の後ろからジャケットスタイルの男とチャイナドレスの女が入ってきた、女の方が1人を戦闘不能にしてバーカウンターに発砲していた男達に瞬時に近づきあっという間に2人の武器をもつ利き手をナイフで切りつけもう1人の男は走って力任せに拳を降った

「好き勝手やりやがって!いてぇな!クソ!俺のグロック勝手に使ってんじゃねぇよ!返せ!…社長無事ですか?!」

入ってきたのは弟村と名城だった

「名城君、弟村君!」

弟村は急いで和平に駆け寄った

「すみません…後ろからぶん殴られて…」

「君が謝ることない、君が無事で良かった…それに…どうして…君が?」

名城が近づきながら

「なんでも忘れるんですね、貴方は?GPSですよ、弟村さんも捕まってるの分かったので」

「あ…でもそれと…」

和平が何かを言いかけたのを無視して名城は話を続けた

「私新しいドレス買ったのまだ…社長にお見せしてなかったのを思い出して、どうです?変ですか?」

太もものホルダーにナイフをしまいながら淡々と話していた

「あぁ、とても似合ってるよ…ありがとう、でもどうして?」

名城が背中を和平の方に向けて口を開いた

「…私にとって貴方は漆原様のご遺児「松田 啓介」様です、貴方が啓介様であれば私は貴方にお仕えします、それだけではご不満ですか?」

「ありがとう…名城君」

「その呼び方やめてください、なんか…こう…凄く気持ち悪いです」

「!……あぁ!ありがとう椿ちゃん」

「それに…弟村さんだけでは色々無理です!今回の事でよーくわかりました」

軽く顔を腫らせ鼻血がそのままの弟村が口を挟んだ

「はぁ?どういう意味ですか?!それ!」

「偉そうに説教して勝手に大見得切って捕まって…はぁ…」

「あれは!…その」


「貴方はいい仲間に恵まれたわね…」

マキが言った

「どういう事?」

「どんな困難でもどんな状況でも貴方は…間違いを犯しても自分を信じ、人を信じ続けた、決して諦めなかった、そんな貴方だから彼は貴方に嫉妬したんでしょうね、昔の…何も無かった時の彼の生き方に良く似てる…あの人以上に貴方はあの人の生き方をしてるわ、私の負けよ…好きにすると…」


「ハァハァ…何勝手に締めようしてんだ!散々身体使わせて!このクソアマ!てめぇだけでも!」

名城に腕を切られた男が逆の手で拳銃を握り構えて発砲した

「マキさん!」


パァン!

パァン!


「うっ…」


弟村も男に発砲し名城も投げたナイフが刺さり男が倒れた


「マキさんと社長は?!」

マキを抱きしめるように庇った和平が背骨付近に被弾していた

「…そんな…どうして?!」

「言ったろ…君を…死なせ…」


バタン!


「和平!しっか…」

「社長!そんな…」

「おい!誰か救急車!…」


マキや弟村、名城が何かを言っていたが和平にはもうあまり聞こえて無かった



…啓介…もう疲れたよ…どうやら俺もそっちに…


…でもマキを守った…


…俺は間違え続けたがそれくらいは何とかできたよ…



和平の意識が薄れていった









ザザーン…ザザーン…


気がつくと白い砂浜の海にいた


見ると正面に啓介が海を見ながら座っていた


「啓介、こんなとこにいたのかい?」


「ん?あぁなんとなく君が来そうだったからここで待ってたんだよ」


「待たせてごめんよ、君に沢山話したい事があるんだ」


「楽しい話?」


「楽しいかどうかわからない、でも時間なら沢山あるからゆっくり話そうよ」

そういい和平が隣に腰掛けた


「君の話の前に1ついいかい?」


「なんだい?」


「ごめんね、君に全部押し付けて」


「俺は別に気にしてないよ」


「あと、マキの事ありがとう、あ、2つだったね」


「どっちもいいって、気にしてないから」


「ついでにもう一個、君から貰ったもの返すよ」


「ん?貰った物を返すなんて啓介らしくないね」


「そうかな?でもこれが言いたくて待ってたんだ、さて君の話は長そうだから僕は失礼するよ」


「なんで?せっかく会えたのに?」


「僕が長い話は苦手なのは知ってるだろ?」


「いいじゃないか、つれないこと言うなよ」


「それに君がいるべき所はここじゃないよ?耳を済ませてごらん?君を待ってる人がいるじゃないか」


「もう疲れたよ…何もかも…」


「ん?君らしくないね」


「…もういい…もういいよ…」


「君はそう言ってもなんだかんだ立ち上がるさ」


「俺はそんなに強くないよ」


「そうだね、君は強くない、でも弱くもないけどその諦めない気持ちがあるから君を支えてくれる人がいるんだ、僕はそれに気がつけなかった愚か者さ」


「なんだよそれ…?おい、啓介?どこだい?」


横に居たはずの啓介が遠くにいた


「君の話はまたの機会だ…焦ってこっちに来るなよ、じゃあまたね」


「なんだよそれ!おい!俺も行くよ…」


「ほら…よく耳を澄ませろよ…君を呼んでるだろう?答えてやれよ…………兄弟…………」












「…長…社長!社長!意識が戻った!誰か!」

「心配させやがって…くたばっとけ!」

「やはり貴方はしぶとい…さすがですよ」

「私誰か呼んできます!」


和平が目を開けると弟村とカミサカ、佐原がいて誰かが部屋から出ていった


「ん…啓介は…」

喋りづらさを感じると口に酸素吸入マスクがされていた

それを外し

「ダメだよ、社長それとったら」

弟村がマスクを掛けた

「啓介は…?…兄…弟って……どっちが上…?」

「こいつボケてんのか?」

「啓介がいたんだ…」

「社長…今度こそダメかと…」

弟村が泣きそうな顔をしていた

「意識も戻ったから俺は帰るぞ!…あぁ、てめぇに貸の報告だけしてやる、あの女は日本にはいられない、だからウチが保護した、当分ウチの監視付きだがそれなりに自由だ、あと女が雇ってた男どももウチが捕まえて白川に引き渡したぞ、それとこれ」

カミサカが手紙を渡した

「これは?」

「お前宛だ、じゃあな」

「白川さんは例の物をきちんと焼却処理しました、うちの隊員が確認して動画もあります、ご要望であれば後で動画を名城さんに送りますよ、それでは私もこれで、お大事に…」

カミサカと佐原が部屋を後にした

「なし…椿ちゃんは?」

「今先生呼びに行ってます、良かった…本当に」


「意識戻ったんなら平気や、てかこんな事の為にわざわざ呼ぶなや、気軽に来られる距離ちゃうで!」

「島田さんいつもありがとうございます」

名城が深々と頭にを下げた

「まぁええよ別に、でも3億分には遠いな…しっかしまぁ人を庇って撃たれるとか…なんか懐かしいわ、ホナの、あー忙しい忙しい」

そういい島田と呼ばれた医者はそそくさと帰っていった


「社長…」

「椿ちゃん…ありがとうね」

「あと少しズレていたら動脈でこんなんじゃ済まなかったと…悪運が強いらしいですよ、社長は」

「そっか…また俺は助かっちゃったのか…椿ちゃん、お願いがあるんだ」

「なんです?」

「もし僕が…変わってしまったら…君が僕の始末をつけてくれるかな…」

「はぁ?助かった傍から何言ってるんですか?!」

「弟村君、君もだ、僕が変わったら…」

「貴方は変わらない、「松田啓介」です、だって元々変わった人ですから、人を怒らせ困らせ、こんな変わった人居ませんよ、もし…変わってくれるなら人をイライラさせないで仕事もちゃんとするまともな人に変わって頂けたら大変嬉しいです、ですよね?弟村さん?」

「…!え!えぇ!社長は少し頭診てもらった方がいいですよ!」

「…ありがとう…」

「はい!もう済んだ話!私こういう話嫌いですから!」

「俺も辞めるつもりとかないですからね!当分厄介になりますよ!」

「ハハッ、ありがとう…2人とも」


その日は久しぶりに和平が笑えた日だった


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


〜松戸 和平 様へ〜


何度も私を助けてくれてありがとうございました

カミサカさんのご好意で私はアメリカで暮らす事になります、監視はしばらくつきますがそれでも自分がした事を考えたら本当に感謝しきれません

和平さんには啓介の分も含めてもいくら謝っても足りないのはわかっていますがそれでも謝らせてください

「生きなきゃいけない」その理由と私も啓介が言った「平和に生きる」の意味を私なりに探してみます、その答えが見つかりいつかどこかでまた貴方と出会えたら啓介を一緒に弔ってください

それではお元気で


水流木 マキ


マキからの手紙を船の上で和平は読んでいた

「…むしろ謝らなきゃダメなのは僕だよ…」

「社長ー!ここから先は進めませんよ!」

弟村が船を操舵してきたのは旧ガラムトラド近海


和平は海に花束を投げた


…啓介…


来るのが遅くなってごめん


君の言う平和がなんなのかまだ分からない


君は返してくれたけど


君からもらった名前で僕は前に進むよ


いつかそっちに行ったら今度は僕の話に付き合ってね





……………………兄さん……………………






「さ、社長!仕事がたんまり溜まってますよ!帰ってお仕事です!」

「船出しますよ〜いいですね?」

「君達ね…人がセンチな時に…」

和平が言い返そうとしたら名城が和平の腕をみて


「社長?左腕の噛み傷…少し薄くなってきてません?」


そう指摘した時


ーあの時噛んでごめんね!和平!ー


そう啓介が言った気がしたんだ










ーーーーーーーー完ーーーーーーーー





















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月詠の泪 乾杯野郎 @km0629

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