第4話


完璧な人間なんているのかい?


みんな歪だろ?


パズルのピースがちがうだけ


僕はそれだけで…


世界に僕の居場所なんてなかった


異国でも日本でも


こんな世界無くなってしまえと何度も望んだ


理由なんて何でも良かった


己の不条理を飲み込む程大人でなかった


まだ僕は子供だった


人は殺せても己は殺せない


否、思考しなかったのだ


恨みという簡単な感情に飲まれていた


それをわかっていたのかな?


あの時の…君は…


教えてくれよ…なぁ?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

置時計の振り子が規則的に左右に動き時を刻む音が響いた

時が解決するという言葉はあるがその部屋の中は全く解決する兆しがない

誰も何も口にできないがその静寂を破ったのは弟村だった

「「人生をくれよ?」ってどういう意味だったんですか?」

「ホントなんだったんだろうね…」

「意味わかんないですよ、社長?」


パチン!

佐原が両手を叩き口を開いた

「カズヒラ・マツド!思い出しましたよ!今から28年前の過激派ハイジャック事件!まさか…」

「佐原さんは知ってたか…日本でも報道された?」

「私もまだ小学生でしたが覚えていますよ」

「ハイジャック事件だぁ?日本でか?」

「えぇ、当時幕府の腐敗を正すという理由で過激派が中東行きの飛行機と200人の乗客ごとハイジャックしたんです、幕府は要求を飲むふりをして突入させると判断したのですが作戦は失敗、乗客ごと飛行機は飛び立ち着陸後人質のほとんどが殺されその動画が一時ネットに拡散されたんですよ、幕府は乗客にも過激派がまぎれてたと発表、マスメディアを使い世論誘導させて火消しをしたんです。たしか…その後1人の少年が外務省の裏ルートで国内に帰国したのが…」

「カズヒラ・マツドだよ、佐原さん」

カミサカが小型端末を使って何かを調べた

「こいつか?」

カミサカの端末には公安のデータが映し出されていて少年が映っていた

「これって…?」

名城は目を凝らして画面を見た

「カズヒラ・マツド、帰国当時15歳、ハイジャック事件の時乗客の中で唯一の子供で殺されず現地で少年兵として教育された。そのためか日本に帰国後は公安の観察対象とある、18歳の時に日本を出国後、27歳の時にガラムトラドで死亡とあるが…」

カミサカがざっと読み上げた

「なんでこんな事を傭兵屋の社長が知ってんだよ?あんたまだこん時まだカタギだろう?」

「カミサカさんはカタギとか日本人みたいな言葉を使いますね、それに有能な方をスカウトする為に情報のアンテナは常に張っていますよ」

水を飲み干した松田が口を開いた

「もうみんなわかってるよ…ね?」

「貴方が…カズヒラ・マツド…?では本物の松田啓介は…」

名城が必死で何かを耐えながら尋ねた

「………」

「って事は27歳で死んだのが本物の…」

弟村は幽霊を見たような目をして言った

「そうだよ…ガラムトラドで死んだのが松田啓介だよ」

一同は絶句した


「パブリックドメインか?」

カミサカが口を開いた

「…そうだよ」

「パブリックドメイン?」

弟村は何が何だかわからないようだ

「パブリックドメイン、こっちの人間が万が一死んでも見た目の同じ人間がいてまだ生きてるという思わせる、北の将軍さんや東の元連邦大国の大統領がやってるって噂だ、お前ら日本人的な事で表すなら…」

「影武者ですよ、私も作ろうかな」

佐原が言った

「オススメはしないよ、食事の好み、所作、喋り方、全てを真似るんだ。それに…」

「失敬…不謹慎でした、申し訳ない…」

「いや、いいよ…本当のこと言うと人に話せて少しホッとしてるんだ、それにこれにはもっと単純な理由があったんだよ」

「1個聞いていいですか?社長?」

「何?弟村君?」

「姿が似てるってだけで引き受けたんですか?」

「…当時の僕は荒んでてね、もうどうとでもなれって思ってた、人と違うというだけで人に疎まれ憎まれ…名城君…境遇は違うが君も何度かそう考えた事はあるだろう?」

名城は黙ったまま視線を逸らした、名城もまた人に理解されない境遇にいた事があったからだ

松田が話を続け

「それにね?僕は僕という人間をリセット出来るとチャンスかもと踏んだんだ、そういう意味では僕も利用させてもらったんだよ、おそらくそれも啓介はお見通しだったと思う、彼は人が何を望んでるか?を理解するのが早かったからね。狙ってやってたのかは不明だけど」

「なら本物の松田さんが死んだ時どうして本名に戻さかなったんです?」

弟村が尋ねた

「弟村君、いいかい?僕は公安の監視対象者で18の時に出国する際、外務省から通達がきたよ「帰ってくるな」って…それにね僕の親父が手引きをしたんだ、ハイジャックの。当時幕府の世論誘導もあって凄まじい勢いで虐めれたよ、10年日本を留守にして言葉もたどたどしいかった僕に「人殺しの忌み子」ってね、だから僕はこの名前を捨てたかった…と同時に何年も「松田啓介」として振舞っていたからね、正直自分が何なのかわからなかったんだ…それに…」

「辛気臭ぇなぁ!なんも現状の話しに繋がってねぇじゃねぇか!まだ続きがあんだろ?」

カミサカがタバコに火をつけながら言った

「禁煙でしょう?カミサカさん?」

佐原が言った

「うっせー、ここはアメリカで俺の喫煙室だ、さっさと続きを話せ」

「僕が啓介の影武者になる事を決めた後から1年後、僕達はその傭兵部隊を辞めて独立したんだ…あの写真は辞める時の最後の仕事で無理やり啓介が一緒にやらせろとねじ込んだっけな…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「いやー独立って厳しいねぇ…仕事が全然ないや」

啓介がオフィスでコーラを飲みながらシャツの首元をもって仰いでいた

「心配しなくても大丈夫よ、そのうちすぐ仕事は来るわ、ねぇ?カズヒラ?」

マキは医療品のチェック

「マキもケイスケも楽観的過ぎるよ、もう少し営業かけたりしねぇと、それに実績の少ない社員数名の僕達に依頼する人なんて物好きぐらいさ、こんなんじゃ僕がいくら稼いでもたりねぇよ」

カズヒラがPCでキーボード叩きながら応えた

「僕のパブリックドメインをやってもう1年だけどまだまだだねぇ、カズヒラ」

「でもよく似てるわ!リュックやラモンも見間違えてるわよ」

「そりゃそうだ、少し顔もいじったんだからなぁ」

「でも私は間違わないわ、ケイスケ」

「恋人の君に間違われたら僕泣いちゃうよ」

「はーいストップ!イチャイチャするなら他所でやれ!にしてもやばいよ?会社の金が」

「うーん…どうしようか?」

「傭兵家業と並行して…違うもので勝負する…か?」

「そうだ!ねー!カズヒラ!僕らも武器売ろうよ!」

「はぁー?」

「僕らは元々傭兵じゃん!買いたい奴、売りたりやつ大勢いたの知ってるじゃん!当分の間はカズヒラ様に稼いで頂いて…」

「はいはい、僕が情報抜いて売ればいいんでしょ?」

「いやーー!助かるよ!カズヒラ君!よーし!今日からウチは武器を売り買いで生計を立てるぞ!」

「ケイスケ名前は?」

「名前?」

「新しく事業を開始するなら会社の名前も変えようよ」

「そうだねぇ…カズヒラ君、なんかある?」

カズヒラがパソコン叩きをやめ考えた

「Hermes Ltd.はどうかな?」

「ヘルメース?どういう意味?」

「君は学がないなぁ…ヘルメスはギリシャ神話のオリュンポス十二神の商売や旅人を守護する神だよ Ltdは株式会社ってこと、うちはまだ登記してないから表向きは商社で登記手続きしてもう少しお金が溜まったら株式を発行するよ、同時に合法的な物も売買するんだ、租税対策に丁度いいし金も洗える」

「ヘルメース…素敵な名前ね!カズヒラ!それでいきましょうよ!ケイスケ!」

マキは笑顔でケイスケに提案した

「ヘルメースか…いいね!それ決定!そしたら僕は武器を売りたいやつを昔のつてで探してみるよ!マキも手伝って!」

「はい!CEO!」

「いい響きだねぇ〜マキは…秘書かな〜カズヒラ君は…」

「カズヒラは財務担当!」

「CFOっていいたいの?そんな立派なもんじゃねぇよ、それに僕はケイスケの傍に居なきゃならねぇん…」

「はい!ストっーープ君の話は長い!それに僕の目標は親父を潰すことだ!僕らの名前が知れ渡れば向こうからやってくるかもしれない、その時にギャフンと言わせてやろうよ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それから武器の売買を?」

「あぁ、他のメンバーもいたから初めは傭兵の仕事…まぁ個人警護みたいな仕事は彼らに任せて武器取引は啓介、僕、マキで担当していたんだ、実績作りの為に傭兵時代のネットワークを使って始めはテロリストや海賊、ギャングや小国のレジスタンスみたいや小さな取引をこなしていったよ、始めは門前払いはザラだったし、もちろん代金を踏み倒そうとする奴や啓介を狙う奴もいたんだ」

「だろうな、新興勢力みたいな物は好まれねぇよ」

カミサカが言った

「確かにウチも社長のような実績がある所から買わせてもらうので新しい所から仕入れようと思わないですしね 」

佐原も賛同

「それで?そのガラムトラドにどう繋がるんですか?」

名城が黙ったままだったので弟村が聞き役に


「…武器取引が軌道に乗ってきた時、僕らはガラムトラドに拠点を移したんだ、あそこは当時、国連加盟はしていたけど情勢的に経済特区の扱いみたくなっていたし宗教原理主義者の王族や金持ちだらけの国家だったからね、西にも東にも干渉されづらかったんだ、でも西側のスパイが何人か来たけど…その辺はカミサカの方が詳しいんじゃないかな?」

「耳がいてぇよ、やっぱりな、あそこに行って帰ってくるのは体の一部がざらだった」

カミサカが頭を掻きむしって喋った

「僕らももちろん王族達に利益供与…彼らは金は持っていたかから主に世界情勢の情報と最新武器を渡していたんだ、おかげで啓介の部下がヘマした時の引渡し命令とか突っぱねて貰ってたよ」

「カズヒラさん?と呼んだほう…」

弟村が言葉を詰まらせた

「好きな方で呼ぶといいよ、僕は気にしてないから」

「ゴホンッ!当時から社長は商才はあったんですね」

「あぁHermes Ltd.を立ち上げた頃の利益はほぼほぼ僕が出してたんだ、軌道にのった頃は金洗いや租税対策の関係で貿易業もやっていていたよ、関連会社のPeace Cpの代表として。本業はもう啓介とマキが仕切っていたんだ、その頃からなあ…僕を意図的に啓介は自分から離すようにしてったんだ」

「Peace…」

弟村はハッとした

「マキなんだよ、その名前を考えたのは、名前の訳を知ったのはもっと後なんだけどね。その頃から啓介は変わっていったんだ、父親を潰す目的が別のことに変わっていったんだよ」

「そもそも啓介さんはなんでそんなにお父さんを嫌っていたというか…」

名城は黙って聞いていたが拳に力が入った

「弟村君?漆原コンツェルンって知ってる?」

「…あ!何年か前に解体された…とんでもない大企業だ!」

「漆原コンツェルンの会長、漆原 泰介 その人が啓介の父親だったんだ」

「マジかよ…」

「これはまた…今日はトンチキな話が尽きないですね」

佐原、カミサカは驚きを隠せない

「漆原は表向きは日本の優良企業だったが実際は武器取引や違法薬物取引を裏の世界で仕切っていて知り合った女と子供作ったんだよ、それが啓介でね、幼い啓介と母親を捨てたんだ、その事を啓介はずっと恨んでたね」

「だからですか?躍起になっていたのは」

弟村が考えながら尋ねた

喉が乾いたのかペットボトルをとったが空っぽだったので戻しながらカズヒラが口を開いた

「だよ、父親の話を振ると途端に不機嫌になるのは珍しく無かったんだ、よく「僕と母親を捨てた男だ」と言っていたよ」

「聞いといてあれですけど…啓介さんが社長をわざと離すようにしたとはなんです?」

「あぁ、僕は表向きは松田啓介として顔を売るためにチャリティーイベントや寄付イベントに出席したりしていたんだ、啓介の命令でね…何度かカラムトラドの拠点に戻る時もあったけどその度マキに相談されていたよ。…啓介もだいぶ顔つきというか…雰囲気が変わっていったんだ、僕が啓介に直に報告する事があったりガラムトラドの王族に呼びたされてね拠点に戻ったんだ…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「カズヒラ!直ぐに来て!早く!」

マキは息を切らして走ってきてカズヒラの手を取った

「そんなに慌ててどうしたの?帰ってきたばかりなんだから…まずは啓介に報告を…」

「一昨日のチリでの取引がどこからか情報が漏れて、CIAに囲まれたの!仕切っていたラモンは無事に逃げたんだけど…物は全部押収されて!それを啓介が聞きつけてラモンに拘束命令を!」

「拘束?!急ごう!」

2人で走ってラモンのいる部屋に向かいドアを開けようとしたら啓介が反対側からやってきた

「なになに〜君帰ってきたの?別にメールでいいのに、マメだなぁ」

カズヒラが詰め寄った

「啓介!ラモンをどうするつもりだ!」

「うるさいなぁ!そんなに大きな声出さないでよ、とりあえず言い訳は聞くけどね、今回の損害は大きいなぁ…とりあえず君が尋問仕切ってよ、僕は見てるからさ、さっ中に入ろうか」

そういい扉を開けると椅子に拘束されたラモンが啓介の部下に殴られていた

「本当に知らねぇよ!チクってなんかねぇ!信じてくれよ!」

ラモンの顔は腫れ上がり床には血が飛んでいた

「何やってんだ!やめるんだ!君たち!」

カズヒラが制止をすると拷問をやめた

「ケイスケさん…だって…」

「ケイスケさん!ケイスケさん!信じてください!なんでCIAが踏み込んできたのか…」

「わかった、わかったから落ち着け、僕はカ…」

ラモンが弁明をしようとした時啓介が急ぎ足で間に入り


パァン!パァン!パァン!パァン!


ラモンに向けて発砲し眉間と心臓、肺を撃たれて絶命した


「啓介!何故撃った!」

「今回の損害がわかってないね、誰か〜ラモンの恋人とか友達とかもちゃんと処理しておくんだよ」

「啓介!」

カズヒラが胸ぐらを掴んだ

「なんだよ〜痛い痛い!」

「お前何考えてんだ!え?」

「何って…じゃあ誰が漏らしたってぇの?こいつに仕切りを任せたんだ、こいつしか…」

「そんなもんお前の憶測だろうよ!マキの前で憶測で殺しなんか…やってんじゃねぇ!」

カズヒラの右手拳が啓介の顔を振り抜いた

「いったいなぁ…何すんのよ…あぁめんどくさい」

そう言って今度はカズヒラにも銃を向けた

「俺も殺すのか…?」

「君には別の役目があるから許してあげるよ、良かったね、僕が寛容な男で…ラモンを撃ったのはね…僕と君を間違えたからだよ」

「そんな理由かよ!見間違える事なんて珍しく…」


パァン!


「選択を誤ると…死ぬんだ…人は…ねぇマキ?そんなに似てるかい?僕とカズヒラは?」

マキは事態が飲み込めてなく怯えていた

「どうしたんだい?答えてよ〜マキ?」

「…似てない…似てないよ…だから」

「ほら!お前たちも見間違うか?見間違えないだろう?僕とこいつ、何が同じだ!今の僕にはガラムトラドの王室連中ですら頭を下げるんだ!こいつはただのモッキンバード!ただのモノマネ野郎だ!わかったか!さっマキ、ご飯にしよう?何食べようか今日は…ワインでも飲んでたまにはゆっくりしようね、マキ行くよ」

そういいマキの手を無理やり引いて部屋を出る時

「あ、カズヒラ〜今度仕入れたブツは今までとは違うモンだから君が仕切ってね、ブツが届くのは明日だからさ、武器倉庫じゃなくてこっちに持ってきてね。なーにトランク1つだからさ、先方には君に連絡するよう伝えておくら、それが終わったらさっさとヨーロッパにさっさと戻っていいよ、じゃあねぇ〜」


「ラモンの遺体を埋葬するぞ…」

「しかしカズヒラさん」

「いいから!それとラモンの周囲に手なんか出すなよ!わかったな!それを破ったら俺が殺すぞ!」

カズヒラも部屋を後にした


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「小さな失敗すらも許さない男になっていたよ、もう仲間の遺体を綺麗にしていた啓介はそこには居なかったんだ、カミサカくん、僕もタバコ吸っていいかい?」

「なんだお前、タバコ吸うのか?」

「啓介はタバコ嫌いだったから僕も辞めたんだ、この話をしていたら吸いたくなってね、いいかい?」

「特別だぞ…」

そういいカミサカがタバコを渡した

ゆっくり火をつけ吸い込むとむせたみたいで咳をした

「ゴホッ…久しぶりだからむせちゃったよ」

「ガラムトラドの王室も屈したんですか?」

弟村が尋ねた

「いや、違うな…正確には啓介が使ってると言うより利用されていたんだよ、僕達は」

「利用?」

「まだ若いその辺のチンピラみたいな奴には頭下げておだてた方が良いように使える、そう考えたんだろう、その証拠にガラムトラドの王室に言われた物は全部仕入れていたよ、啓介は…恩を売るつもりが逆だった」

「その変わったブツってのは社長もしかして…」

「そう…啓介はとんでもない物をガラムトラドに持ち込んだんだ…」

吐いた煙が宙を漂う

「まさか…核?」

「弟村君、いい線イッてる、啓介の最終目的は核兵器だったんだ」

「その男、頭湧いてんな」

「だね…僕は…啓介が奈落に落ちていくのを止められなかった…違うな…分かってたけど何もしなかったんだ、マキからも連絡は受けてたが…あの時に戻れたらと何度も願った…」

カズヒラの手は震えていた

「社長…大丈夫ですか?」

弟村が声をかけたが名城は見ない振りをしていた

「大丈夫…君達は本物地獄を見たことあるかい?目に生気がない人間が人に噛みつき、貪りつく、噛まれた人間がまた人を噛み付く…」

何を言ってるかわからない

一同は黙ったままだったがカミサカはカズヒラを睨んだ

「あの話は本当だったんですね、しかしどこから流出したんです?」

「あれは啓介がやったんだ…意図的に」

「啓介さんは何をやったんです?!」

弟村が詰寄ると


「ウィルス兵器の散布…恐ろしい話ですね」

佐原が答えた

「正解だよ、さすがだね、やっぱり例のカミサカの国の片田舎で起きた事件で知ったのかな?」

「そうです、しかしその後その製薬会社は…」

「当時その残党がいてね金が喉から手が出る程欲しかった、啓介はそこに目をつけたんだよ、大金を払ってそれを購入しカラムトラドの王室に抗ウイルス薬と一緒に渡してアメリカの例の片田舎の事件を暴露させる取引材料にさせようとしたんだ、アメリカは滅菌させるために核ミサイルを使ったが原発のメルトダウンと発表してたからね」

「で、その見返りが?」

「核兵器の輸入」

「イカれてる」

「あの時もう啓介はまともじゃなかった…父親への復讐じゃなく父親を乗り越えたと妄想しだして世界を獲ろうと妄信してたよ」

「それがガラムトラド事件に繋がっていくのか?」

「あれは…本当に地獄だったよ…」


ーーーーーーーーーーーーーーーー

「最近おかしいの何か聞いてない?」


「もう僕にはどうもできないよ…」


「どうして?!彼は貴方を1番信用してるわ!」


「僕にだってわからないよ…そんなに心配なら君が聞きなよ」


「私じゃ無理なのよ…だから貴方に…」


「僕はただの作り物さ、それ以上でもそれ以下でもない」


「カズヒラ…」


「もう止められないよ…サイは振られたんだ…マキ…僕は地獄だろうがトコトンついて行くさ、僕はその為の存在だから…」


「お願い…あの人…啓介を…」


「やるだけやってみる」

そういい薬入った注射器を渡した

「マキこれは抗ウイルス薬、万が一の時用に持っていて、人数分はない…絶対に人にバレるなよ。ヘリも用意させた、ヘリから離れるなよ!」

「貴方は?!」

「僕はどうとでもなる、大丈夫だ」

そういいマキの元を離れた


「ねぇ!私もう会社なんてどうでもいい、3人でやり直そう…あの頃に戻りたい…カズヒラ!」

マキは涙声で叫んだ

カズヒラは一瞬立ち止まったが足を進めその時携帯がなった

「はい、もしもし…は?それはどういう?引き渡す?馬鹿な事を…は?どうしました?噛み付く…?どういう…?もしもし!もしもし!」


カズヒラが拠点の啓介がいるであろう部屋のドアを開けるとアタッシュケースを持った啓介がパソコンの画面を見ていた

「啓介!早く逃げよう、ガラムトラドは君をアメリカに引き渡すぞ!だから言ったんだ!核兵器なんて正気じゃないと!」

「引き渡す?そんなこととっくにわかってたさ…どいつもこいつも…僕を散々利用して…このザマかよ!僕を利用したバツだ…これを見ろよカズヒラ」

そういい啓介が画面を見せた

画面には人が人を襲い噛み付く所が映されていた

「啓介…これは…まさか!」

「さすがカズヒラ、そうだよ。僕があれを…ウィルスを下水に撒いた」

カズヒラが啓介の胸ぐらを掴んだ

「お前とんでもない事を…!まともじゃない!」

「この世界にまともじゃない奴がいるのか?居るなら紹介してくれよ!みんな…みんな死んじまえ…アハ、アハハ、アハハハハ!」

啓介は笑いだしカズヒラに銃を向けた


パァン!


「でもね…マキだけは…マキだけは渡さないよ、やっぱり君を選んだのは間違えだったよ…」

「何言ってる!撃ちたきゃ撃て!でもこれを…現実を見ろ!」

カズヒラは啓介に画面を見せた

「よく見ろ!君が望んだのはこんな事か!」

画面にはガラムトラド至る所で人が人を襲う映像が映し出されていた

襲っている人はウィルスに感染したのか足が内股で千鳥足、目の瞳孔部分は青白く変色、顔や腕の皮膚は腐り口の周りは人を齧った跡なのか血だらけだ

画面を切り替えると拠点入口に感染者と思わしき人間が大勢押し寄せていた


「なんだこれは…こんなスピードで…どうして…なんで…こんな…」


「だからいったじゃないか!こんなもん僕らが扱っていい代物じゃなかったんだよ!」


「僕は…計画…完璧のは…」


「現実を見ろよ!これのどこか完璧なんだ!」


「……」


「ヘリを用意してる!早く逃げよう!」


「マキは…マキは…」


「もう避難しろと伝えてある!ヘリにいるハズだ!」


「僕は…何を…」


バァン!ガシャーーン!


「啓介!感染者だ!もう持たない!モタモタすんな!」


啓介を無理やり連れカズヒラは部屋を出た


「ゴホッゴホッ…ゲハっ」

啓介が血を吐いた

「啓介!まさか?!」

「まさか…僕も…?」

「ワクチン持ってんだろ?早く打てよ!」

「…う…るさい!離せ!」

啓介がカズヒラをおしのいた

「何してんだ!」

「そうだ…ゴホッゴホッ…お前だよ…これをやったのは…マツドカズヒラぁ!」

「何を…?!」

「君がずっと気に入らなかった!独立した時も!全部…ゴホッゴホッ…全部君のおかげだ…みんなお前が段取った…ゴホゲホッ…マキも…今は君に…マキだけは…お前の人生!今僕によこせぇぇぇ!このためのお前だ!お前の…ゴホッゴホッ役目だぁ!」

パァンパァンパァンパァン!

「ウグゥッ」

啓介が銃を乱射し1発食らった

「啓介…やめよう…もう…早く逃げよう…」

「もう戻れないんだよ!遅いんだよ!カズヒラ!」

そう言う啓介の目は涙と血が溢れていた

「遅くなんかない!銃を渡せ!」

カズヒラが手を伸ばすと

「ガルゥゥゥゥアア!」

啓介がカズヒラの左腕に噛みついた

「離せよ!啓介!啓介!啓介ぇぇ!」

カズヒラが啓介を殴って引き剥がした

「…ハァハァ…カズヒラ…僕はもうダメだ…進行が…聞…いて…いた…早…い…ゲホっ!」

「諦めんなよ!早くワクチンを…」

「もう…無理……だ…プラ…プライドを捨…捨てられず…ゴホッゴホッ…ごめんね…カズヒラ…君に…嫉妬…ゲボゥ…してたんだ…」

「何言ってんだよ!すぐそこだ!マキも待ってる!早く」

カズヒラも目に涙が溢れていた

「そう…だ…ね…ゴホッゴホッ…で…ゴホッ…も僕…ガハァッ…はダ…カズヒラ…君の名前…ゲホ!ゲホ!名前……逆…ガァァァァ!」

啓介がカズヒラに襲いかかった

「啓介!啓介!わかった!わかったから!頼むから!頼むから俺を…俺をもう1人に…1人にしないでくれ!一緒に地獄に行こう…君を止められなかった僕の罪…だから2人で…だから…な?」

そう言うと啓介がカズヒラの腰に装備していた銃を抜きカズヒラの手を取って自分の頭に当てた

「何やってんだよ…お前…こんな事」


「カズヒラ……あ…あり…がとう…だ…だか…ら…僕の全部を君に…だから…マキ…のハァ…事も…ゲホッゴホッゴホッ最後の…僕…わがま……」

そういい啓介は血まみれの手でカズヒラの手を銃にそえ引き金を弾いた


パァン!


「啓介!啓介!啓介!なんで!なんでなんだよーーーーーーー!」


カズヒラは啓介の遺体からワクチンを抜き取り自分に打ってヘリまで逃げた



後ろを見ると感染者が啓介の遺体を貪っていた

出口に向かうとマキが待たせていたのだろう、ヘリはエンジンをかけ飛び立つ準備をして待っていた


「啓介!乗って!早く!」

腕を抑えながらカズヒラはヘリに乗り込んだ

「乗ったわ!早く飛んで!早く!」


カズヒラがヘリに乗り込むと同時にヘリが飛び立ち出口には感染者が溢れていた


「啓介!カズヒラは!」


マキは俺が啓介だと思っていたが俺は何も答えれなかった




最後、啓介は自分で撃つ時笑っていた


笑って逝ったのだ


…生きろ…カズヒラ…ありがとう…

と聞こえた気がしたんだ…



その少し後に物凄い光がガラムトラドをつつみ大きなキノコ雲がそびえ立っていた








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