第3話
〜首相官邸〜
この国はの議会政治は「責任の取らない責任のなすりつけあい」だ
東西統一戦争、西郷内乱時の有能な人材は引退か死亡してしまい第一線より2枚3枚後ろにいて机上の空論を論ずる連中ばかりが序列で繰り上がった成れの果てだ
「こんな出処不明な情報であるかないかわからん物を発表なんぞできるか!」
「まだ薩摩の内乱の傷跡が残るってのに…そもそも国防省は何をやっていた!」
「我々より外務省はどうなんだ!え?こんな危険分子と危険物をどうやって国内に運んだんだ!」
「外交ルートでこんなもん調べられる訳ないでしょう?!そういうのは総理直轄情報室や公安部、国防陸軍調査室の役目じゃないか!」
「とにかく!戒厳令だ!この会話を絶対外に出すなよ!こんなこと都民に聞かれたらパニックは必須だ!それに…こんなウィルスだがなんだか知らんがハッタリかもしれんしな」
円卓を囲んだ老人達の後ろで下唇を噛み締めグッとこらえていた細め小柄の男
「国防省白川審議官」
彼は元国防陸軍特殊部隊に所属していた統一戦争、西郷内乱を経験している叩き上げエリート。しかし西郷内乱時に足を負傷し現役を引退、除隊したが現場経験者のプロバガンダとして国防省の官僚に抜擢された
…どうせ軍は動かさない、何のための会議なんだ…
「これはハッタリなんかではありません、このデータを、おい画面に出してくれ」
白川審議官が指示を出し画面が切り替わった
「なんだこれは?ガラムトラドの消失事故?」
ガラムトラドは中東の石油産油国の小国だが宗教的観念の違いから当時西側諸国に不満を持つテロリストやそれを支援している国に武器を売りつけていたが核兵器を密輸していたと当時のアメリカ大統領が判断、大量破壊兵器根絶を理由にガラムトラドに兵隊を派遣、ガラムトラドに協力する国はなく圧倒的物量を前に瞬く間に壊滅に追い込まれ最後は密輸した核兵器を自爆、人が住めなくなる環境になり事実上ガラムトラドは地図から消滅した。
「これがなんだと言うんだね!白川君!」
「これは表向きはガラムトラドの自爆とされていますがアメリカがやったというのは皆さんもご承知でしょう?実はこれには他にも理由があったのをご存知ですか?」
円卓の老人達がザワついた
「それが今回とどう繋がるんだね!」
…人の話を最後まで聞けんのか…この老人共は…
「テロリスト達がこのガラムトラドである違法な取引をした結果、ガラムトラドが消滅したんです、次の画像を」
画面が変わると円卓から声が消えた
それもそのはず画面には顔が腐りかけ口の周りが血まみれの人間の集団が映されたのだ
「これ…は…あの…昔に壊滅した例の会社が引き起こした…」
円卓の1人が気がついた
「そうです、例のウィルス兵器ですよ、表向きは自爆となっていますが、実の所これをばら蒔いて感染が爆発的に広がり「滅菌」されたのがガラムトラド消失の真実です、我々が掴んだ情報からですとこのウィルス兵器がここ日本に持ち込まれました、これはもう確かな事です」
円卓の老人が立ち上がり白川審議官に詰め寄った
「お前らが掴んだ情報?出処は?!」
「…大善寺の宗家からです…」
「大善寺だと?!」
「大善寺」
その名前は日本のどこかにある寺でその実情を知る者はごく少数人、場所がどこにあるかは不明。
表向きは普通の寺なのだが代々住職は時の幕府が表に出せない汚れ仕事や外交交渉を担う完全独立した裏の情報組織、大善寺側からしかコンタクトがなく自国のリーダーですら依頼などはできない、それは大善寺側が管理や介入されるの拒む為である
「宗家からの情報ですとここ4.5日の間に国籍不明の船舶が発見され調査した時に1人が感染しました、もちろん即隔離しワクチンで感染も防げました」
「このケイスケ・マツダというのは日本にいるのか!」
「…はい…」
「なら今すぐ拘束して差し出してしまえ!」
「それができないことは皆様ご存知でしょう?彼から…袖の下や情報を得て出世や他国を出し抜いた事ある事はお忘れかな?」
円卓の老人達はお互い顔を見合わせた
「今回の件、彼が何かを握っているのは間違いありません、東京をしらみ潰しに探索すると同時に彼の協力を得るしか解決策はありませんよ!」
「そんな悠長な事…」
バァン!
白川審議官が机を叩いた音が響いた
「どのみち、これがばら撒かれれば責任なんて誰も取れませんよ、我々みんな感染しますしワクチンも数はありませんから、今から作るのも不可能なのでね。私はこれより事態収拾なあたります!それでは!」
そういい会議室から白川は出て電話をかけた
「もしもし、佐原CEOですか…」
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「どうして…なんで…こんな…」
「だからいったじゃないか!こんなもん僕らが扱っていい代物じゃなかったんだよ!」
「僕は…計画…完璧のは…」
「現実を見ろよ!これのどこか完璧なんだ!」
「……」
「ヘリを用意してる!早く逃げよう!」
「マキは…マキは…」
「もう避難しろと伝えてある!ヘリに向かってるハズだ!」
「僕は…何を…」
バァン!ガシャーーン!
「啓介!感染者だ!もう持たない!モタモタすんな!」
いい気になってたのは君だけじゃなかった
僕も同じだ
でも君と僕は見ている物が違ったね
君の苦悩や絶望、僕は気づかなかった
否、気付かないフリをしていた
僕は君と向き合ってなかった
僕は君から逃げたんだ
結果…僕は一体何になったんだろうね
「自分が知らない事を僕が分かるかい?」
そう言うんだろう…なぁ?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
弟村は直ぐにホテルに帰らず都内環状道路を流していた
松田は俯きながら車の窓から東京を眺めていたが何も喋らない
名城はわざと誰とも目を合わさないよう髪の毛の毛先を指で巻いたりネイルを気にしていた
「なんの価値もない偽物」
あの言葉はなんだったのか…
本人に聞きたいがとてもじゃないが尋ねられる雰囲気ではない
そんな時名城のスマホが鳴った
「はいもしもし…あ、白川審議官、どう…え?!どういう事です?!……はい!直ぐに!」
「名城さん、どうしました?」
名城は目を見開きスマホを操作して絶句していた
「これ…何…?」
「なんですか?!名城さん」
名城がスマホの画面を呼び上げた
「ケイスケ・マツダノスベテヲハクジツノモトニサラセ、サモナクバ48ジカンゴトウキョウヲジゴクカエル」
「マキの仕業か…」
「なんですか?!それ!どういう?!」
「私だってわかりませんよ!白川審議官から送られて…白川審議官から電話です!もしもし…え?…はい、はい…わかりました、向かいます…ご迷惑お掛けして…はい…。弟村さん!アメリカ大使公邸に向かってください!」
名城が後部座席から身を乗り出して弟村に伝えた
「大使公邸に?!なんで?!」
「あと少ししたら日本政府は社長を拘束します、その前に公邸に入れと。入ったら政府もそうそうに手が出せなくなるので」
「わかりました!直ぐに向かいます!ちょうど出口が近くて良かった」
弟村はウィンカーを出して左車線に入り六松原出口に車を向けた
六松原出口から青田方面に、有名な交差点の手前を右折するとそこはもうアメリカ大使公邸、車の出入をチェックする為のバーが降りており手前で車を停めると詰め所から警備員が出てきた
運転席の窓を開け弟村が説明する前に
「Mr.マツダの事は伺っています、どうぞ中へ!」
車止めのバーが上がり弟村は車を進めると公邸入口の大きな噴水広場に車を停め運転席から後部座席に周り松田を降ろすと同時に名城も降りると大使公邸から意外な人間が松田達を出迎えた
「佐原さん?…あ!タツオ・カミサカ!」
「てめぇ!運転手の癖に呼び捨てにしてんじゃねぇよ!」
「社長、早く中へ!」
「ったく!お前が動くとこれだ!大人しくできねぇのか?」
松田は誰とも話さずに公邸内へ入っていった
「…なんだよ…調子狂うな…」
公邸内は静かで警備の人間が松田達を来賓用の客室に案内し部屋に入った
「すみません、大変厚かましいお願いなのですが何か飲み物を社長に…社長、座りましょう…大丈夫、私達は社長を日本政府に渡さないから…安心してください」
名城は松田の肩支え椅子に促した
「椿ちゃん…ありがとう…」
「しかし社長、とんでもない事に巻き込まれてますね」
ソフトモヒカンでスーツスタイルの男が言った
名前は「佐原 」傭兵部隊WCSの最高責任者
「お前らしくねぇな、しかしこっちまで巻き込みやがって」
大きな声で挑発する男は
「タツオ・カミサカ」
CIAだ
「白川審議官から連絡を受けましてね、だいたいの事情は伺っています、単刀直入にいいますね、日本政府はあの脅迫文に従い貴方を差し出すつもりです、仕掛けられたのが東京だと言ってますが鵜呑みにできません、日本政府は戒厳令を発令しました、なので人を割かないから我々に依頼がきました、できる限り我々も探す努力をしますが…」
「あんたの話は長ぇよ!相変わらず!こいつから聞けばなんか分かるかも知れねぇって考えてお前をここに呼んだんだ、つまらねぇ話しかしねぇなら身ぐるみはいで総理官邸に放り出すからな」
佐原とタツオが松田に話をしたが松田は黙って項垂れたままだった
「社長…知っていることを全部我々に話してください、じゃないと事態収拾に進まない」
名城も弟村も何も言えなかった、佐原の言い分が最もだからだ
その時松田が重い口を開き出した
「主犯は…マキ…水流木(みずるぎ)マキだ、目的は僕への復讐だよ」
「その女が仕掛けた物はなんですか?」
「ガラムトラドの事件…真相知ってる?」
「え?!まさか?!」
佐原は何かを知ってるようだった
「そのまさかだよ…爆弾なんかより二次被害が酷いからね」
カミサカが佐原を押しのけ松田の胸ぐらを掴んだ
「お前!何を知ってる!まさかてめぇがあんなもん日本に入れた訳じゃねぇだろうな!答えろ!」
「カミサカさん!乱暴するのはやめてください!」
「そうですよ!離せよ!」
名城と弟村はカミサカを引き剥がそうした
「てめぇら!アレを知らねぇからそんな悠長な事言えんだよ!」
「ガラムトラドって…核で自爆した国ですよね?確か、それがどういう…?」
名城が松田の隣に座り手を握った
「私達は社長の味方です、お辛いかも知れませんが社長がお話してくれないと私達は何もできません、焦らないでいいのでお話してくれませんか?」
「この話をするには今じゃないかもしれないけど…」
「てめぇ!この後に及んで!」
「違うよ、カミサカ、少し長くなるって言いたかったんだ、この話は誰にもした事ない…この世界で僕とマキしか知らない話なんだ…12年前の南米……僕が傭兵部隊で配属された時に初めて彼に会ったんだ」
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「おい!ケイスケ!」
「んーー?なんだい、アレックス、そんなに慌てて」
「お前、兄弟でもいたのか?」
「いや、僕に兄弟は居ないよ、確証は無いけどね」
「さっき来た新人がお前そっくりなんだよ!ほら行くぞ!」
「んな馬鹿な〜」
2人して司令テントに走っていくとそこには自分の荷物を確認している男がいた
「よう新人!俺たちにも自己紹介しろよ」
アレックスが声をかけたら新人がこちらを振り向いた
「おいおい鏡でも見てるみたいだなぁ、ケイスケ」
お互い驚いている様子
「君…名前は?」
「初めまして…カズヒラ・マツドです、本日より配属されました」
「んじゃケイスケ、色々教えてやってやれ」
そういいアレックスは2人を放って行ってしまった
「おい、アレックス!勝手に決めるなよ!おい!…ったく…まぁいいや、よろしくね、僕はケイスケ・マツダ。さっきのはアレックス、そんなに堅くならないでいいよ」
「よろしくお願いします」
「君は日本人かい?こんな仕事しているとなかなか日本人に会わないからなんか嬉しいよ、仲良くしてね、ここの連中は粗暴だから疲れるんだよ〜、一通り陣営地を案内するから着いてきてね」
そういいケイスケを先頭にカズヒラが後に続いた
「君はどの部隊に配属されたの?」
「俺は戦闘訓練教官と兼任でデルタ部隊に配属されました」
「えぇ!僕と歳変わらなそうなのに?!教官なの?!」
「はい…」
「試しに僕とやってみない?」
「それは先輩としての命令ですか?」
「うーん…興味があるからかなぁ〜」
「なら遠慮させてもらいます」
「なんでよ!」
「俺手加減出来そうにないので」
「え?なに?もう僕に勝つ気でいるの?君がどんな経歴か知らんけど…油断し過ぎ…」
ケイスケがいきなりカズヒラの顔めがけて右ストレートを
しかし瞬時に避けられ後ろに回られ首を取られた
「ギブ!ギブ!ストップストップ!…ちょっ…くる…」
「これでご理解頂けました?」
「ゲホゲホ!強いねー、君」
「お言葉ですがそちらが思いのほか弱かっただけです」
「何それ?格闘は君の方が強いけど他は…」
「勝負するとかやめてくださいね、俺にメリットないんで」
カズヒラはやれやれと言った感じで応えた
「あー!何それ!もう今から勝った気でいるの?アッタマくるなぁ!じゃあ僕と勝負して僕が勝ったら僕の言うこと聞いてよ!」
「はぁ…俺に勝てるとお思いですか?まぁいいですけど、俺が勝ったらどうします?」
「君が勝ったら友達になってあげるよ!」
「なんですかそれ…メリットあります?俺に?」
「僕は女の子にモテるからさ、女のコ紹介してあげられるよ!それに…」
「それに?」
「僕といたらたぶん楽しいよ!君友達いなそうだしね」
「はぁ……何かお忘れですが…俺、ケイスケさんより階級上ですよ?」
「知るか!そんなもん!男と男の勝負に階級なんて関係ないね!」
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「カズヒラ・マツド…」
佐原はその名前を聞いて何やら考え込んだ
名城と弟村は黙って聞いていた
正確には何も言えなかったが正解なのだろう
「とにかく彼は弱くてね、事あるごとに勝負をしかけてきたんだ、格闘、射撃、ナイフ戦闘…基地内でのレース、はたまた酒の飲み比べとかね、もういい加減うんざりするくらいだったよ」
警備の人間がペットボトルの水を人数分運んできたので松田は手に取り水を飲んだ
「お前傭兵やってたのか?」
「カミサカさん、今は社長のお話を…」
カミサカを名城が制した
「あぁ、すまん、お前のその咄嗟の状況判断や危機察知ってそのせいかと思ってさ」
「…イエスでもありノーでもあるかな…続けるね、彼は実戦でも部隊の足を引っ張ってたんだ、でも何故かな…?彼の周りにはいつも人がいたんだ。男女問わずいつも誰かに囲まれていた、当時の僕にはそれが全然理解できなくてね…南アフリカでの撤退戦でその理由が分かったんだ」
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ー…ちら…チャー…だ!聞こえるか!…正規の軍隊は…もう……俺達も撤退したいが…弾薬が足らん!デルタ隊に応援を!…拾いに来てくれ!座標…うわーーー…ー
「ここはもうダメだ!撤退するぞ!ケイスケ!」
カズヒラは無線機を切り装備していたAKMの弾倉の数を確認して撤退の準備をしだした
「おい!カズヒラ!救援に行かないの!ダメダメ!置いてけぼりはダメだよ!」
「バカ!人の心配してる場合か!俺達やべぇぞ!これは遊びじゃねぇ!こんな商売だ!いちいち構ってられねぇぞ!」
「君教官のクセに教え子見捨てるのかい?!いつも一緒に飯食ってた仲間を捨てて後悔しないのかい?!」
ケイスケが食ってかかった
「デルタ隊も俺たちだけじゃねぇか!だいたいてめぇみてぇな弱い奴が助けられねぇよ!」
「君はそうやっていつも諦めるよね?!自分には可能性があるのに!くだらない!そうやって諦めてろ!この非情男!」
そう言うとケイスケは落ちてた弾倉を全て拾い車に乗り込みエンジンをかけた時に助手席のドアが開いた
「お前場所知らねーだろ!案内するからさっさと車出せ!」
「やっぱり僕と離れたら寂しいかい?」
「くだらねぇ事言ってんな!さっさと出せ!」
「そう来なくっちゃ!」
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「その後逃げてきた人間を拾えてねその中に衛生兵として配属されていたマキもいたんだ」
「さっき…社長が会っていた?」
「そう…君が銃を向けた相手だ」
そう言うと松田がさっきの写真をテーブルに出した
「当時衛生兵に日本人のしかも女の衛生兵って事で部隊の野郎たちは我よ我よとアタックしていたんだ、みんな振られてたけどね、その中にケイスケもいたんだ、始めはマキがいたから救援に行ったのだとばかり思ってたけど全然ちがったんだ。ケイスケはマキだろうが誰だろうが仲間は絶対見捨てないって信念だったんだよ、自分は弱くて何もできないのにかなりのポジティブ男で自分にできるかも?って思ったら猪突猛進で信じていたよ、可能性ってモノをね」
名城と弟村が写真を見た
「これ…1人の顔が焼けて…」
「僕と彼、それとマキの3人がこの写真を持っていた、僕はとっくの昔に捨てたけどね、その頃にはマキの方が彼に熱心だった。マキにとってケイスケはヒーローだったんだ、おそらくその時の撤退戦の時だよ、マキが彼に惹かれたのは…座標ポイントに着いたらマキと2人の男がいて1人は被弾していた、もう正直助からないってひと目見て分かったよ」
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「マキ!無事か?!他のみんなは?!」
「助けに来てくれてありがとう!ケイスケ!」
「デルタ部隊?!良かった!救援は来ないと…」
「喋ってる暇なんかねぇ!これで全員か!」
カズヒラは焦りもあり怒鳴った
「はい!でも1人が被弾していて」
「置いてってくれ…俺はもう助からん…」
彼は肝臓辺りを被弾してした、出血が酷くもう助からないのは誰の目でも明らかだった
そこにケイスケが割って入った
「マヌケ!諦めんな!待ってる人だって居るだろう!一緒に帰るんだ!カズヒラ!載せるぞ!」
「馬鹿かお前!もう助かんねぇよ!」
カズヒラが返答した時ケイスケに殴られた
「何すんだ!コノヤロウ!」
「お前!仲間を見捨てるなんて最低だな!お前なんか教官じゃねぇ!仲間見捨てる奴はクズ以下だ!…こんなの放っておいて車に乗せて!早く」
「…はい!載せます!ケビン先に乗って!」
「全員乗ったぞ!クソ教官!早く車出せ!」
カズヒラがアクセル全開で悪路運転し後部座席では被弾してもう意識が朦朧としていた隊員にずっとケイスケが呼びかけていた
「もうすぐだ!意識を保て!船まで行ったら助かるぞ!カズヒラ!急げよ!」
「もう急いでるよ!!」
マキやケビンも呼びかけていた
「死なないで!もうすぐよ!」
「そうだ!もう少しだ!」
「…ケイ…スケ…助けて…くれてありがとう…う…嬉しか…お前…達は生き…てに…」
被弾した男の手から力が抜けた
「おい!おい!しっかりしろ!」
ケイスケはずっと呼びかけていたがマキが泣きながら首を振った
「クソ!クソ!なんで…なんでなんだ…」
マキはずっと泣いたままだった
撤退用最終便のフェリーに乗れた一行、カズヒラが遺体袋を準備した時ケイスケとマキ
、ケビンが彼の体を綺麗にタオルで拭いていた
「何してんだよ…」
「せっかく帰るんだ…せめて綺麗にしてやりたいよ、なぁ?君の名前は知らないけど…帰る前に綺麗になった方がいいだろう?」
そういいながらケイスケは泣きながら体を綺麗に拭いていた、ろくに物もなくて拭ききれないがそれでもケイスケとマキにならってケビンも続けていた
ケイスケは誰も見捨てたりしない…遺体になっても人を思いやれる…
自分とは全く真逆の人間
弱いくせに他人を見捨てない、誰かの為に泣き誰かの為に自分を省みない
その撤退戦の後カズヒラは部隊長に事の経緯を説明してもらおうとしたがケイスケが後から来て部隊長を殴り懲罰房へ入れられた
「このクソったれ野郎!君みたいな無能は部隊長なんてやめろ!」
そう叫びながら連れていかれた
「はぁ〜暇だなぁ、こんな所にいたら腐るよ…」
ケイスケが懲罰房の横になって天井を眺めていたとき
「ほら!お前も入れ!戦闘訓練教官のくせに上官に手を上げるなんて、お前らしくない!」
ガチャン!
タッ…タッ…タッ…
扉がしまった音がして人の足音が遠くなった時
「聞こえるか?ケイスケ?」
カズヒラだった
「君は何やってるの?」
「お前が恋しくてここまで来た」
「うれしいねぇ、ありがとうカズヒラ」
「散々お前に付き合ったんだ、お前も付き合えよ」
「お喋りするの好きだから付き合うよ!それに暇だったから助かるよ!ありがとう」
ケイスケは基本何をするにも「ありがとう」を言う男だった
「なぁケイスケ?アレックスから聞いたんだがお前の親父って…」
「あぁそうだよ、武器商人だ」
「なのに傭兵やってんのか?」
「俺とおふくろを捨てたアイツ…僕は絶対許さない…そのために傭兵部隊に入ったみたいなもんさ、傭兵部隊で仲間を見つけていつか独立して親父を潰す」
「お前すげぇな」
「そうかい?そういうカズヒラはどうして傭兵なんかやってるの?」
「俺は…こんなことしかできないから」
「どういう事?」
「ケイスケは日本人だろ?知らないか?飛行機ハイジャック犯のマツドって」
「うーん…ちょっとわかんないな」
「この話をするのはお前が初めてだ、俺はそのマツドの息子でな、なんで日本人の親父が中東の過激派に協力したかわかんないけどそのま中東に連れていかれて親父は直ぐに現地で殺さたよ、俺はそのまま少年兵として訓練されたんだ」
「ふーん…だから…あんなに強いんだな」
「もう小学校上がる歳の頃には人殺しの訓練を一通り受けてた、戦場にも出てたよ、ある時その国がクーデターで政権がひっくり返り民主主義政権が樹立、大使館ルートで日本に帰れたのは15歳の頃だった」
「…なんか凄いね、君…」
「日本に帰ったら現地より地獄だったよ…俺は人殺しの技術を持ったガキ、幕府の公安から徹底的に監視された、自称親戚もワラワラいてな、どうやら俺の里親になると金が貰えたらしいから自称親戚の家をたらい回しにされた、日本語も当時俺は怪しくてな家でも学校でも虐められたよ」
「カズヒラなら相手倒せるじゃん」
「馬鹿か?お前、俺の場合は殺してしまうんだ、加減なんてできない、だから同級生にはひたすら殴られても耐えてたよ、家でもろくに飯は食わせて貰えず…とにかく家を出たくて金を貯めて高校卒業後、アメリカに行ったんだ、でも金も無い18のガキの俺にできることなんて無くてな得意な分野で仕事探してたら知らん間に傭兵家業やっていたよ」
「ふーん…なかなかハードだねぇ」
「もう正直いつ死んでもいいって思ってる、金持ちの子供、難民の子供、どこに平等があるんだよ、俺はハイジャック犯の子供としてずっと生きなきゃならない…もうたくさんなんだ…、俺は何者なんだよ…」
「君がどこの誰かなんて知らないよ」
「だよな…言っただけだ…そう、これを言いにきたんだ俺は」
「何?僕に言いたいことって」
「ケイスケ…君には負けたよ…敗北だ…」
「どうしたの急に?」
「お前は俺に無いものを持ってる、諦めないって気持ちだ、お前は絶対「仕方ない」とか言わない、自分で自分の生き方をちゃんとしてるよ、俺はそんなもんない」
「初めて君に勝てたよ、あ!約束覚えてる?」
「なんでも言う事聞くってやつか?覚えてるよ、何して欲しい?」
ケイスケはその時とんでもない事を言い出したんだ
今思えば俺も自暴自棄だったから受け入れたのかもしれない
ケイスケは言った
「君の人生、僕にくれよ」
と
思えば1番僕が愚かな答えを選択した時は
この時だったと思う
この時NOを言っていれば
君も違う人生だったと思う
マキも巻き込まれなかったんだろうな
否、タラレバだ
この選択肢に関わらず
いつでもターニングポイントはあったんだ
君と僕の秘密
もう時効だろ?
そうだろう…?なぁ…?
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