第2話

「リーもクリストファーも辞めたいってさ」



「ふーん…ま!辞めたきゃ辞めればいいさ、その代わりウチの情報をどこかに渡したら…その時は頼んだよ」



「…最近どうしたんだい?あんなもんまで扱うようになって…」



「お金って大事だよ、必要な分稼がないとね。親父に対抗するにはまだ全然だから」



「金なら僕が稼ぐからさ、だからああいう物を扱う連中とは今すぐ縁を切りなよ」



「うわぁ〜喋り方も板についてきたねぇ〜立派立派!」



「茶化す所じゃないんじゃない?」



「…どうせあれでしょ?リーもクリストファーも君にはついていけるけど僕には…って事だろ?」



「……最近おかしいよ、どうしたの?」



「そうやってマキも僕から奪うのかい?」



「マキを奪う?何言っちゃってるの?」



「…君を選んだのは間違いだったのかもね…」



「どういう意味?待ちなよ…?話は終わって…」






ブーブーブーブー

スマホの振動で目が覚めた

こんな時間に…

画面には

「涼木 (癒し系)」


「ふぁー、もひもひ?こんな時間にどうしたの?眠れないなら僕のベッドに入るかい?」


ーあぁ、やっと出た、こんな時間にすまないねぇー



全部スルーか…

「でどうしたの?急用?」


ーいや、あんたここ2、3日の間に取り引きする予定あるの?ー


「いや、その予定は無いな」


ーそうだよねぇ、あんた秘匿回線するからそうそう取り引きの情報ぬけないのにさ?なんかアンタの名前使って商売してる奴がいるよー


「ふーん…まぁそんなの前にもいたし、教えてくれてありがとうね、お礼になんか…」


ーあたし探ろうか?ー


「いや、いいよ、放っておいて」


ー分かった、ごめんよ、こんな時間にー


「寂しくなったらいつでも僕に頼るといいよ」


ーアンタとアタシャビジネスの関係だけ、タイプじゃないから、じゃあね!ー


ブチっ


つれないなぁ……

僕の名前で取り引きか…

そんな奴前にもいたな

そんなにこの名前がいいのかい?

名前なんて認識番号と変わらない

意思さえあれば肉体なんて器に過ぎないのにね

みんなバカだ


僕も含めて…


人は愚かだ


愚か故に過ちを繰り返す


生命の継続は選択式


そうだろう…なぁ…?



また瞼の裏の有限の闇へ




ーーーーーーーーーーーーーーーーー


今日はあいにくの雨模様

不規則なリズムで雨が窓に打ち付ける


「今日は出かける予定が無くて良かったですね」

シャワー室から戻った弟村は頭を拭きながら名城に話しかけた

「おはようございます、弟村さん、雨は髪の毛がウネるから私も嫌いなんです」

ヘアアイロンで髪を伸ばしながら名城が応えた

「あれ?社長はまだ?」

「えぇ」

「今日は会食だけですからね」


「ヴーン…ヴーン…」


ベッドルームからうなされている声が聞こえた


「社長大丈夫ですかね?」

弟村は心配そうにベッドルームを見た

「開けて…みます?」

「ご存知かと思いますが社長は寝てる所を見られるのを極度に嫌がりますよ…私も心配なんですけど…」

名城の心配はもっともなのだ

以前寝室に名城が入った時、寝入っていたはずなのにいきなり起きて「出ていけ!僕に近づくな!」と怒鳴ったのだ

「椅子でうたた寝してるくらいの時はいいんですけどね…」

「そんなに…?」

「えぇ、私が圧倒されました」

「でも心配なので俺行きますよ」

そういい弟村は立ち上がりベッドルームへ

その後を名城が続く形でベッドルームに入った

松田が寝ているのだが酷くうなされていた

「社長?社長?大丈夫ですか?」

弟村が体に触れた時


ガバァッ


いきなり起き上がり一瞬で弟村の背後を取り絞め技をした


「社長!社長!俺です!俺です!弟村です!…苦しい…離して…」

弟村は松田の右腕を強く何度も叩き、名城は松田を引き離そうとしたがとてつもない力だった

「社長!弟村さんです!離して!お願いですから!離して!」

「フー フー フー」

焦点のあってない虚ろな目をしてる松田には誰の声も届いてない

弟村の顔が青くなってきた時、気がついたのか急に絞め技を解いた

「ゲホッゲホッ…ウゥ」

「弟村さん!弟村さん!大丈夫ですか?社長!何してるんです!」

名城は弟村の介抱をし首を抑えなが深呼吸をした弟村は

「…ゲホ…俺は身体丈夫なんで…ゲホッゲホっ…急に声掛けてすみません…」

「あ、あ…あ…」

虚ろな目で呂律も回ってなかったが我を取り戻したのかとベッドに腰かけた

「ごめん…謝っても済まないよね…」

いつもの松田からは想像できないほどか細い声だった

「大丈夫っすよ、まぁいつも悪口言ってるのでね、これでおあいこって事で」

「弟村さん、本当に平気ですか?」

「名城さんも、大丈夫っすよ!俺身体頑丈ですすから!さっ社長もシャワー浴びて!シャキッとしましょう!」


「あー…うん…もう少しだけ1人にしてくれないかな?ごめん」


「…わかりました、名城さん、出よう」

そういい弟村はベッドルームから立ち去った

「社長も…大丈夫ですか?ドクター手配しましょうか?会食も…」

名城も心配なようだが松田には届いてなかった

「何かあったら隣にいますのですぐに私にお申し付けくださいね」

そう言い残し名城もベッドルームから出ていった



松田は頭を両手で抱え


僕は…弟村になんて事を…


後悔と自責の念なのか頭を掻きむしった



「弟村さん本当に大丈夫…?」

「大丈夫…じゃないけどとりあえずは。凄い力でしたよ…下手したら死んでました」

弟村は締められた首を鏡で確認し

「診てもらった方が…」

名城も心配そうに弟村に寄り添った

「いや、俺は本当に大丈夫っす、診てもらった方がいいのは社長ですよ、俺は医者やカウンセラーじゃないから詳しい事はわからないけど…目が虚ろでしたし…起き上がった時はおそらく無意識に近かった。考えられるのは以前寝込みを襲われた…もしくは寝ている時すら襲撃されるような環境に長期間いた、シェルショックのような物なのかもしれないですね」

弟村は冷蔵庫から水の入ったペットボトルを出し蓋を開け口に運んだ

「シェルショック…PTSDって事でしょうか?とりあえず今日の会食はキャンセルします、無理はさせたくありませんし」

そう言うと名城は電話をかけた

「おはようございます、白川審議官。お忙しい中申し訳ございません、本日の会食なのですが松田が体調を崩してしまいキャンセルさせて頂きたいのですが…ええ…いや、少し疲れが溜まっていたようで…ご心配お掛けして申し訳ございません…お心遣いありがとうございます、伝えておきます…はい…それでは失礼致します…」

名城が電話を切るとベッドルームから松田が出てきた

名城は急いで駆け寄った

「社長、お水飲みましょう、とりあえずここにお座りください」

松田は少し足がおぼつかないのか少しよろけながら椅子に腰掛けた

「ありがとう…椿ちゃん」

「いいんです、怖い夢でも見ました?」

「…うん…」

「意外ですね、社長にも怖いものがあったんですか?」

「社長の怖いものってなんです?請求書ですか?それとも女?」

2人はわかっている、只事では無いことに。なのでいつもと変わらないやり取りをしたのだ。

「…2人ともごめんなさい…僕どうかしてたみたい」

「社長がおかしいのはいつもの事ですから、ね?弟村さん」

「そうですよ、今更驚く事もないですから」

2人は必死で明るく振舞った

「椿ちゃん、悪いんだけど…今日の会食…」

「キャンセルしておきました、白川審議官からお大事にと言付かっておりますよ」

そういい冷たいペットボトルの水を松田に渡した

「気が利くね、ありがとう、いただきます…ゴクッゴクッ…ふー…あのさ?」

「なんです?」

「僕は悪い奴なんだ…人に偉そうな事言うくせに…諦めるなとか本音を言えとか…他人には言えるけど…」

名城が松田の手を取り握った

「社長…?私はお父上様から貴方を託されました…でも貴方が本当に悪人なら私は貴方と3年間も時間を共有していませんよ。完璧な人間なんて居ないのだから、それに貴方と出会って救われた人間もいます…だから」

名城なりの優しさなのだろうしかし弟村が割って入った

「言いたくなかったらいいんです、俺達2人にだって隠したい事ぐらいあるでしょう?いつか話したくなったら食事ご馳走してくれればいつでも聞きますよ!ね?名城さん」

「そうですねぇ〜んー?何をご馳走してもらいましょうかね」

そんな時


ピンポーーーン


1638号室のインターホンが鳴り3人ともドアの方を見たが1番早く対応したのは弟村だった


「はい?」


「おはようございます、松田様に郵便物が届いておりますのでお届けにあがりました」

弟村がドアを明けるとフロント係が封書を持っていた

「わざわざありがとうございます」

「いえいえ、それでは失礼致します」


封書には宛名だけあり差出人は無記名だった

「誰ですかね?それになんだろ?これ」

封書は「K」字のシーリングスタンプで封がされていた

それを見た松田が弟村から封書を奪い取りベッドルームへ入っていった

「ちょっと…!」


数分したらベッドルームから松田が出てきた


「ありがとう、もう大丈夫だから、心配かけたね…なんか気を使わせちゃったな。このお詫びはちゃんとするよ。そうそう椿ちゃん、僕夕方出かけるからさ」

「どこかお店抑えます?」

「いや、ご指名だ、僕が行くだけ」

「さっきの手紙の人ですか?社長?あ!ひょっとして…?」

「参っちゃうよね、でも体調悪いからって女性のお誘いを断るなんてできないからさぁ〜、僕1人で行くから、2人は来ないでいいよ」

「ですが…」

「大丈夫、大丈夫だから出かけるまでもう少し寝かせて貰うね」

そういいまたベッドルームへ入っていった

「…大丈夫だと思います?」

小声で弟村が名城に尋ねた

「なわけないでしょう?1人でなんて行かせない」

「社長俺らの身の回りのもんに発信機つけてます、なので…」

「分かってます」

そういい2人はいつもはあまり着ない服を探し出した


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ねぇ…最近おかしいの…何か聞いてない?」


「もう僕にはどうもできないよ…」


「どうして?!彼は貴方を1番信用してるわ!」


「僕にだってわからないよ…そんなに心配なら君が聞きなよ」


「私じゃ無理なのよ…だから貴方に…」


「僕はただの……それ以上でもそれ以下でもない」


「……」


「もう止められないよ…サイは振られたんだ…マキ…僕は地獄だろうがトコトンついて行くさ、僕はその為の存在だから…」






もっと選択肢があったのに


選ばなかったのは自分だ


いや、考え無しに敷かれたレールに乗っていたんだな


考えなければ楽なのだ


人間は与えられた方が楽


じゃああの時…マキを救えたか?



決めるのは自分だ…


彼女も思考しないで僕に投げた


違うな


僕がマキのサインを無視したんだ


間違いだらけ


僕の意味なんてないんだろうな


そうだろう…?…なぁ?



ーーーーーーーーーーーーーーーー

朝から降っていた雨は止んでいた

時計の針は15時

起きた松田は身支度をする為にシャワーを浴びに、寝ていた間に名城と弟村は普段着ない服を用意しいつでも出られる準備を整え、ダメ元で松田が「勝負服」と呼んでいるオーダーメードのスーツの内側に小型GPSを縫い込んだ


「準備万端ですね、名城さんはクルマにいてください、適当に話し合わせておくので」

「ありがとう弟村さん」

名城は普段被らないキャップ、黒の細身のパンツスタイルでロング丈の薄手のジャケットに身を包み弟村の用意したクルマへ向かった


「あれ?椿ちゃんは?」

シャワー室の洗面台で髪の毛も乾かしバスローブ姿で出てきた

「あぁ、名城さんは白川審議官の所へ行きましたよ。今日のお詫びを持っていくとかで」

弟村はスマホを操作しながら応えた

「あっそ…あ、僕のスーツは〜と…」

「あーもう、名城さんが居ないとなんもできないですね、相変わらず」

弟村がクローゼットからスーツ一式を出してきた

「名城さんが「どうせ着るのはこれ」って言ってました」

「さすが、助かるわ〜」

そういいバリッとクリーニングされた白地のシャツにカフスボタンをつけ深みのある黒パンツとジャケットのノータイスタイルに着替え、お気に入りの時計ケースからランゲ&ゾーネのクロノグラフの入った時計選び薄い青みがかったサングラスをかけた

「お、社長に決まってますね!」

「だろ?僕ぐらいになると服なんてどれ着ても一緒だけどね」

「送りましょうか?」

「いや、いいよ、あーでももしかしたら帰りは…」

「らしくないですね、今から帰りの心配するなんて」

「だよね!んじゃ行ってくるよ」

そういい1638号室を後にした


「もしもし?名城さん?今行きました、俺も下に行きます」


弟村もジャケットを羽織り部屋を出ようとしたがジャケットを脱ぎ念の為に愛銃のG17をショルダーホルスターしまい腕を通してジャケットを着直し1638号室を後にした



エレベーターでホテルロビーに向かうとロビーにあるオープンスペースのカフェにいた青い髪の女に声をかけた

「やぁ、おまたせ」

「アンタの運転手をアタシがなんでやらなきゃならんのさ」

「そう言わないでよ」

青い髪の小柄な女は刈り上げたツーブロックスタイルで長い髪の毛の縛り丸いサングラスに黒のカーゴパンツ、黄色がかった大きめのTシャツに黒のフード着きアウターでを包んだ

「涼木」

この名前は本名か偽名だが不明、東西統一後の勢力図の変わった日本の裏社会に精通していて色々な情報を仕入れる一匹狼の女

日本にいる時、松田は彼女とよく情報のやり取りしている

「まぁまぁ、報酬は多めに払うって言ったじゃんか、頼むよ」

「あいよ、行くよ〜」

「あ、ここの会計1638につけといて」

「かしこまりました、ありがとうございます」

表玄関で案内係が涼木のクルマを用意して待っていた

「松田様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」

松田に鍵を渡そうした係員から鍵を涼木が横取りした

「アタシのクルマだよ!全く!」

「失礼致しました!」

「んじゃお邪魔するよ〜」

涼木が運転席に松田が助手席に座り行先を伝えるとクルマが発進した


ホテルを出て通り左に埋め立て地のモノレールの下を真っ直ぐ走りふたつめの交差点を左へ、そのまま立体橋をくぐると東京港湾連絡橋だ

橋の道路上は高速道路で下は全自動運転の渡り鳥の名前の列車と併走する形になっている

「ねー?」

「なによ?」

「昔の刑事ドラマでここ封鎖できないとか言うセリフなかった?」

「あーー!あったねぇ、当時めちゃくちゃ人気だったよね!」

「ふーん?そうなんだ…」

「なんだい?歯切れが悪いねぇ」

「そんな事ないさね」

そんな他愛もない会話をしていたら橋を抜け旧港湾通りへ

信号を2つ抜け旧港湾通りから梅原通りの信号で停まった

「涼木ちゃんさー」

「んーー?」

「君、良く情報屋やれてるね」

「どういう意味だい?!」

「だって尾行されてるよ?」

「え?!」

運転席の涼木がルームミラーを除くと特に怪しいクルマはなかった

「居ないじゃん!どれよ!」

「後ろ、4台目ホテルから着いてきてる」

「嘘だぁ〜」

「はぁ…信号抜けてそのまま次の大通りぶつかる所右折してごらん」

「遠回りじゃん」

「いーからいーから」

指示通り右折をすると4台目のクルマもついてきた

「あ!本当だ!あんた抜け目が無いねぇ」

「どうせウチの2人だよどこかの信号が切り替わる時そのままUターンして」

「いいのかい?」

「いいから」

札の沢交差点で丁度黄色から赤になる瞬間涼木はアクセルを踏み込み左折、そのままUターンしすれ違った車に助手席で松田が軽く手を降っていた

「バイバーイ」

助手席にいた名城は驚いてこちらのクルマを見ていた



「…バレちゃいましたね…」

「すみません…名城さん」

運転席で弟村が項垂れていた

「いやいや、気にしないでください、多分社長気づいてましたよ、ホテル出る頃くらいから」

名城が慰めるよう言った

「でもやっぱりあの人危機察知半端ないですね、あ!名城さん、GPSどうですか?」

「こっちは平気みたいここからUターンしたとしてもだいぶ離されてるけど…」

「とにかく追いましょう」



「もうすぐ着くよ」

運転席の涼木がナビを見ながら言った

「ありがとうね、ホントに」

「しかしこんなクルマで一流ホテルに入っていいのかね?」

「関係ないさ、物の価値はその人だけが見出せればいいそれで篩にかけるような奴はこっちから断ればいいんだ」

「そういうもんかね?てかさ?なんであんた自慢の運転手使わないの?」

涼木はサイドミラーを見ながら尋ねた

「んー…涼木ちゃんとドライブしたかったからだよ」

「こら!はぐらかすな」

ハンドルを握る手の片方を離し松田の頭を軽く叩いた

「イテッ、ホント言うと1人でここに来るにはタクシーだと尾行が巻けないからさ?だから涼木ちゃんに頼んだのよ、あ、ここでいいよ、停めてー」

「相変わらず急だな!」

ハザードを出してクルマを停めた

「帰りも拾うかー?」

「いや、帰りはタクるよ」

「ちゃんと振り込めよー」

「分かった分かった気をつけてね」

涼木は車を発進させてクラクションを2回鳴らして去って言った



「グランドイーストホテル」


環状鉄道線駅のにあるホテル

駅からは少し距離があるのでスカイウォークという動く歩道がある橋で繋がっていてアクセスはしやすい

ホテルのドアアテンドが松田にお辞儀をした

「いらっしゃいませ」

グランドイーストホテルはロビーに入ると内装が暗い色で統一されていて所々にアンティーク調の物が飾られているが、1番目立つのは大きな金色のシャンデリアだ


「すごいねー、今度こっちも泊まってみるかな」

うっかり独り言が出てしまったが気を取り直してフロントへ


「いらっしゃいませ、ご予約のお客様…」


「やぁ、僕は宿泊じゃないんだよ、ジュエル・ロブションで予約しているマツダの連れなんだ」

「お客様、申し訳ございませんジュエル・ロブションは当ホテルではなく道路を挟んだ向かい側の建物でございます」

「あ、そうなの?立派なお店って聞いたら…ごめんね!僕はあまり日本に詳しくなくてね」

「いえいえ、良ければご案内しましょうか?」

「いや、大丈夫だよ、もしかしたら帰りにここでタクシー待たせてもらうかも…」

「構いせんよ、是非ご利用ください」

松田は足早にホテルを後にし

「あそこか」

当たりをつけその建物に向かった

その建物はまるで小さな御屋敷で外観からもう敷居が高い

入口のドアを開けるととても風格のある紳士が出迎えた

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

おそらくディレクトールだろう

「マツダの連れです、遅れて申し訳ない」

「存じております、本日はマツダ様の貸切ですので、テーブルまでご案内させていただきますね」

と言うと鈴を鳴らした

すると若いスタッフかこちらに来て一礼

「ご案内致します」

ついて行くと意外な男がいた

「や、や、やぁ、ど、、どう、どうも」

「昨日の話しだけじゃ足りないの?取引はしないって言ったよね?それとその喋り方どうにかならない?イライラするんだよ」

「しゃ、しゃべ、喋り方?」

「それに…君じゃ話にならない、マキいるんだろう?こんな素晴らしお店にこんな小汚い彼は合わない」

松田は大きな声で言った

「し、し、しつ、失礼だな!写真はみ、見たんだろう?、気に入って貰えたかな?」

「こんな奴と話をしたくてきたんじゃない、くだらない、茶番にもならないな、帰らせて…」

「昨日も、そ、そうだったがしゃ、写真ど、通りの、軽薄そうな男だな」

その一言に反応したのか即座に間合いを詰め男を右手拳で振り抜きすぐさま肩に関節技をかけた

「い、い、いた、痛い!痛い!離してくれ」

「お前なんかに何がわかんだ?おい、聞かせてくれよ、なぁ?」

そういいながらチカラを強めた

「痛い痛い痛い痛い痛い!ま、マキさん!マキさん」

「その名前を気安く呼ぶな、どうせ金で雇われたんだろう?」


ボキっ

肩が外れる音が響いた



「ギャッ!」

男が叫ぶ前にそのま口を抑え

「うるさい、肩が外れただけで騒ぐな」


カツカツカツ


ヒールで歩く音がした


「そのまま殺せばいいのに」


声のする方を見ると黒いワンピースのドレスに両足の部分に大きくスリットが入り背中の開いたドレスを着た女が立っていた


松田は男から手を離し話しかけた

「なんの茶番なの?これ?」

「別に意味はないわ、彼には貴方をゆさぶれって言っただけよ、貴方の名前を使って取引情報を流せば食いつくと思ったんだけど…まるで無視…それにこういう男は嫌いでしょ?神経に触るかな?と思ってけしかけただけ…」

そう言い終わると手を2回叩いた

すると男が2人やって来て肩を外した男を連れていった

「凄いね、貸切って響きは好きだけど店丸ごととは、スタッフも君が雇ったのかい?さっきのディレクトールや若い男も胸ポケットが少し膨らんでいたのに気が付かないと思った?」


女が急ぎ足で松田に近づき頬に


パチン!

平手打ちをして音が響いた


「いい加減その喋り方やめて!」

「そう言われてもねぇ、君も知っているだろう?」

「…まぁいいわ…お食事しましょう?その為に貴方を招いたのだから…お座りになって」

「食事ねぇ…僕は要らないよ」

「そんな事言わないでよ」

「君の目的はなんだい?」

「……」

「あの写真を持っているのはこの世に3人しか居ない、それにあのシーリングスタンプ、アレをやるのは1人しか知らないよ、僕は」

そういいながら松田も写真を出した

2人のそっくりな男と1人の女の3人が写ってる写真なのだがタバコを押し付けたのか男の顔だけが丸く焼け落ちていた


「みんなを騙して楽しい?!」

女が語尾を強めて言った

「……」

「都合が悪くなると黙るのね、昔から全然変わってないわ!」

「僕が憎いかい?」

「えぇ、今すぐにでも殺してやりたい、八つ裂きにしても足りないわ」

そういうとハンドポーチからサプレッサーの着いたワルサーPPKを松田に対して構えた

「いいよ、引き金を弾いて、君に殺されるのを僕は待っていたかもしれない」


ピュン!


弾丸が松田の左頬掠め、後ろの壁に穴が開いた


「そんな簡単に殺すわけないわ、もっと苦しんで貰うわよ、貴方には」

「僕の生命で済むならそれでいい、でも過去に縛られるな。アイツは最後まで君の事を…」


ピュン!


もう1発掠めた


「過去に縛られるな?ふざけないで!私にはあの人しかいなかった!それを…それを!」

女の目には涙が溢れていた

「貴方は彼や私を殺したの!やっぱり今ここで殺してやる!お前を!」

女の号令に4人の男が各々拳銃を松田に構えた


「ダメだ、マキ、僕を殺すなら自分でやろう、君に撃たれるなら僕は抵抗しない、僕を殺して救われるなら、君がそうしたいならそうするといい」


「気安く私の名前を呼ばないで!」

女の右手人差し指に力が入った


その時


「お客様!困ります!お客…クソ!こいつら!予定に無いが殺せ!」

入口の方から物騒な声や音が響いた


「何の騒ぎ?!」

「すみませんマキさん!男と女の2人組がそこの松田を出せと…」


パァン!


「グッ!」


報告に来た男の肩が撃ち抜かれた


「社長?!ご無事ですか?!」

真っ先に姿が見えたのは大きなナイフを両手に持った名城が

「お前ら!社長を撃ってみろ!お前らのボスを俺が撃ち抜くぞ!」

G17をドレスの女に向けた弟村が警告していた


「私に構わないで!こいつを殺すのよ!早く!」


言うが否や名城が瞬時に間合いを詰め4人の男のうち2人の銃を構えていた方の手をナイフで切り、後の2人は名城に発砲したがナイフで弾丸を弾いた、1人が撃って弾いた弾がもう1人当たりあっという間に1人にして社長の盾になった


「女!下手な真似するなよ!俺は狙いを外さない!名城さん!このまま出ますよ!」

「えぇ!社長!走って!」

名城が松田の手を握り入口向かって走った


「そんな偽物!貴方達が守る価値はあるのかしら?!覚えておいて!そんな男はなんの価値も無い偽物!あんたもここで死んだ方が楽だったって思えるくらいぶっ壊すから!」


女のセリフを聞き流し3人は入口近くに停めたクルマに弟村が運転席に座り名城が松田を後部座席に押し込み発進


「撃たれてませんか?社長?!」

弟村がルームミラーから覗きながら確認

名城が松田の身体を触りながら無事を確認

「大丈夫よ!弟村さん!社長は無事です!」

「俺ら無しにするからこういう面倒に巻き込まれるんですよ!俺たち一応「護衛」なの忘れないでくださいね!」

弟村は少し語尾を荒めに喋った

「そうですよ!私達が居なかったら今頃…貴方に勝手に死なれると私達が困るんです!」

名城も怒っていた

「2人ともごめんね…でもどうしてここが?」

ミラー越しに弟村と名城が目を合わせた

「ジャケット裏側にGPSですよ」

「…なるほどね…」


2人共当たり前のように喋っていたが車内の空気は重く、3人共に口を閉ざしたままクルマは首都高湾岸線を走り抜けた






マキは僕を憎んでいたよ


それはそうだよね


君との約束


守れなくてごめん


何もできなくてごめん


君の言った通り僕を選んだのは間違いだった


僕は無力だ


でもね


僕はやっぱりマキを…救いたいんだ


烏滸がましいよね…


そうだろう…?…なぁ?




ーーーーーーーーーーーーーーー


〜総理直轄情報局〜


「これはなんの騒ぎだ!それに脅迫文だと?!」

「画面に出します!」

オペレーターらしき女性がキーボードを操作すると大きな画面にカタカナの文字が表示された


「ケイスケ・マツダノスベテヲハクジツノモトニサラセ、サモナクバ48ジカンゴトウキョウヲジゴクカエル」


「動画のファイルも開けろ!」


画面フォルダを開くとタイマーのような数字が表示されたあと大きなガスタンクのような物が2本映し出されていた


「なんだこれは……」

「どうやら陸軍調査室、公安部にも同様な物が送られているとの報告です!」


「どうなってる…至急関係各所に報告!送信元を洗いだせ!」



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