Incomplete World

第4話

アパートに戻るとケイトが起きてキッチンに立っていた

｢おはようフミト、ベッドありがとう、よく眠れたわ｣

｢おいおい、キッチンで何やってるんだ？｣

買ってきた荷物を置きながら答えた

｢もしかして掃除した？気を使わせてしまってごめんなさい｣

｢いや、丁度掃除しようと思ってたんだ、気にしないでくれ、それよりキッチンなんか…何もなかったろう？｣

｢ごめんなさい、調味料とオイルはあったけど冷蔵庫には本当に何もなかったの…でもガーリックが少しあってパスタがあったから作ったわ、フミトの口に合うかわからないけど…｣

…この香りはニンニクか…

｢逆に気を使わせてしまって申しわけない、有難く食べさせてもらうよ｣

ケイトは笑顔になり

｢良かった、いらないって言われたらどうしようと思ってて心配だったの…｣

｢作ってくれたモンをいらねーなんて言うかよ｣

｢丁度できたわ、フライパンごとテーブルに置くから、一緒に食べましょう｣

鍋敷きなんてないので弟村は乾いたタオルをテーブルに敷きその上にケイトがフライパンを置いた

｢フミト、ありがとう。あ！お皿…は｣

｢そこにある柄違いの皿でいいよ、美味そうな匂いだ、しかしケイトは朝からガーリックは平気かい？｣

｢フミトのメモ書きにあったじゃない｢ここから何があっても出るな｣って、明後日までフミト以外と会わないから関係ないわ、それに私ガーリック好きよ｣

そういいケイトはパスタを取り分け弟村に手渡し、自分のもよそった

｢｢いただきます｣｣

2人同時にパスタにフォークをいれ器用にフォークに巻き付け口に運んだ

安物のパスタでもいい茹で加減だとここまで美味くなるのか

丁度芯が少し硬いぐらいでとても食感が良く塩味とガーリックが程よく混ざり炒めてあって1口食べる毎にフォークがすすむ

｢ごめんねフミト、チリペッパーがなくてアーリオオーリオペペロンチーノにはできなかったの｣

｢ん？これはペペロンチーノのじゃないのかい？｣

｢アーリオはガーリック、オーリオはオイル、ペペロンチーノはチリペッパーを意味するのよ、みんなペペロンチーノって思ってるけど本来はアーリオオーリオペペロンチーノが正式な名前、これはアーリオオーリオのパスタよ｣

｢へー！勉強になったよ、知らなかった、てか美味いよ、ケイト。こんな美味いパスタ久しぶりに食べた｣

｢良かった！気に入ってもらって！材料があれば何か作るけど…｣

｢悪い…手軽に食べられる物しか買ってきてない…｣

｢いいの！お世話になってるのは私だから！何を買ってきたの？｣

｢まずはこの美味しいパスタを食べよう、話はそれからだ｣

｢わかったわ、フミト｣

フライパンが空になるにはそう時間がかからなかった

｢ご馳走、俺が洗うよ｣

弟村がフライパンと皿を運ぼうとしたらケイトが奪おうとした

｢私が洗うわ、ここに居させて貰ってる立場だから｣

｢そんなの関係ない、ケイトが作ってくれたんだから俺が洗うよ…手持ち無沙汰ならコーヒーをいれてくれないかな？粉はそこにあるから｣

｢カップはこれでいい？｣

｢あぁ｣

おそらくケイトは黙って座ってないだろう、なら何かをさせた方が逆に気を使わせないかと考えた

｢そういえばメモ書きは読んでくれたか？｣

｢えぇ、誰もここにはいれないのと誰も信用するなでしょ？この信用するなって何？あと窓側に絶対立つなって…｣

コーヒーを入れながらケイトが喋った

「ここに誰も入れるな、は言わずもがなだ、信用するなってのは俺は誰とも組まない、俺の使いと言って近づく奴はみんな敵と思えって事だ、窓側に立つなは誰が見てるかわからんからな」

「信用するなってなんか大変じゃない？」

コーヒーを置き卓についたケイトが尋ねた

「他人なんて信用するもんじゃない、結局自分可愛さに裏切るんだ、だったらはじめから全て1人でやればいい」

「貴方はずっとそうやってきたの…？」

ケイトは心配そうに弟村を見た

「…つまらない話さ…つまらない男のつまらない話だよ」

「車でも言ってたわね？良かったら聞かせて？」

「…話したくない、すまない…」

「…いいわ、貴方の生き方だもん、私が深入りできないわ、そうそう！フミト？これは何？指輪？」

ケイトが人差し指と親指で指輪のような物を掴んで見せた

「そんなもんどこで見つけたんだよ」

「トレーニング機器の上に2つ置いてあったわ」

「ボルトを削って指輪にしたんだ、渡す予定だった奴とは疎遠になったがな…」

「これとても素敵ね！私こういうの好きよ！」

ケイトがボルトを削り加工した指輪を光に当てて見ていた

「そんなに気に入ったならケイトにやるよ、この朝食のお礼だ」

「本当に?!ありがとう!大切にするわ！」

そう言うとケイトは右手中指に指輪を着けたが緩かったので薬指にはめた

「素敵…とても綺麗」

「そんなにいいもんじゃないぞ？」

「いいの、私は物の価値を他人にさせない、私が良いって思った物はいいの」

「そういうもんか…あ、俺にはわからんが女性用？シャンプーも買ってきたからシャワーも使うといい」

そういい買い物袋からシャンプーを出して渡した

他には歯ブラシ、簡単な着替え、プラスチックのカップ、フェイスタオル、化粧落とし、シリアル、冷凍ピザ、ミネラルウォーターが入っていた

「ありがとう、早速だけどお借りしてもいい？」

「あぁ、使うといい、バスタオルもあるから使ってくれ」

バスタオルを投げてケイトが受け取ってバスルームへ

シャワー音がリビングにまで響きなんとなく気まずくなったので弟村はテレビをつけて昨日のスポーツニュースを見た

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「辞めるかムショにぶち込まれるか、好きな方選べ」

「なんで俺が?!」

「なら聞くがお前の車からなんで押収物のヤクがあったんだ？」

「誰かが仕込んだんだろよ！賄賂漬けのクソ警官ども…」

パァン！

左頬をはたかれた

「賄賂を貰ってたのはお前で見返りにヤクを流したんだろう？」

「なんとでも言え…もうどうでもいい」

バッチを壁に投げつけ拳銃も机に置いた

「こんなクソの掃き溜め、こっちから辞めてやる、クソ喰らえ、クソ野郎ども！」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

知らない間に眠っていたようだ

「あ、起こしちゃってごめんなさい」

ケイトがテーブルで何かを書いていた

「気にしないでいいよ、髪の毛乾かしたのか、よくドライヤー見つけたな」

「すぐ見つけられたよ、風量が弱くてなかなか乾かないけど…でもシャワー浴びれてスッキリしたわ、ありがとう、フミトがよく寝ていたから起こさなかったの」

人といるのにこんなに眠れるなんて…時計を見ると17時を回っていた、俺も疲れが溜まってたかな…そう言えばろくに寝てなかったな、伸びをしてるとケイトが話しかけてきた

「そうそう、フミト？マスターさんから借りた車の鍵にメモ書き挟んであったの、これ見て」

弟村はコーヒーを一気に飲みケイトからメモ書きを受け取った

｢助けが欲しかったらここへ行け、住所は…連邦裁判所からそう遠くない所だな…なんだこのメモ書きは？」

ケイトも不思議そうに弟村の顔を見た

「ここは何なの？フミト？」

「ここは…たしか…教会だったな…ただ人があまり寄り付かない場所だって聞いてる」

「神様に頼めって事なのかな？あ！助けてくれるかもね、神様なら」

ケイトは何故か笑顔だ

「…神なんていないよ、ケイト、人間は己が不完全だから完全なる物に救いを求めるんだ…バカバカしい！」

弟村は語尾を高めて言った

「急にどうしたの？それになんでそんなこと言うの？救われてる人だっているじゃない？」

ケイトは笑顔をやめ弟村に食ってかかった

「じゃあ聞くが今祈ったらアンタ助かるのか？教えてくれよ？ロッシーニをぶち込めるのか？神様なんていたらオレがアンタを守る必要ないだろぅ！！」

「どうしたの？フミト？あなたらしく…」

「｢あなたらしく？｣どういう意味だ?!アンタに俺の何がわかんだ！数時間一緒にいたぐらいで…俺は仕事で…依頼されたから護衛してるだけだ、頼むから俺の内側をかき乱すのはやめてくれ…」

そう言い終わると同時にケイトが弟村を抱き寄せた

｢ごめんなさい…私…無意識にあなたを傷つけてしまって…でもね？フミト？信じる事で救われる事はあるよ？｣

「やめろよ…離せよ…」

弱々しい声、うっすら涙も流れていた

「離さない…大丈夫、大丈夫。大丈夫だから…フミト？泣きたかったら泣いていいんだよ？人は1人で生きていけないから…」

そういいケイトは弟村を強く抱きしめた

「人間は不完全だから、未完成だから寄り添って支え合って信じあって生きてるんだよ？たしかに裏切る人もいるけどそれが本心じゃない人もいるの…だからって信じろなんて言わない、許せとも言わない…でも信じないって言い切るのは寂し過ぎる…貴方の心が削れていくわ…」

通りから車のエンジン音や人の声が部屋に入ってその雑踏音が弟村の小さな鳴き声をかき消した

「ケイト…もう大丈夫だ、離してくれ」

弟村がケイトを離した

「取り乱して済まなかった…少し風に当たってくるよ…くれぐれも俺以外部屋に入れるなよ」

「フミト…」

「屋上にタバコを吸ってくるよ」

そういいテーブルに置いてあるタバコとライターを手に取り部屋を出ていった

あんな事で取り乱して大人気なかったな…我ながら子供っぽい…

タバコに火をつけて大きくふかした

信じるか…ケイトは凄いな

ブレない生き方…俺はブレまくりだ

ブレた事を人のせいしていたんだな、俺は

決めたのも自分、実行したのも自分

知らず知らず俺は人を求めていたのかな

アンディや仲間に裏切られて1人になった

でも1人でやってきたつもりだったが…マスターやバードにマルコ、ガネットも…なんだかんだ人と繋がっていたな

ケイトもか…

ヴーヴーヴーヴー

携帯が鳴った

バードだった

「なんだよ、バード？」

ーなんだよはないだろう？フミト？ー

「さっき話したばかりじゃないか、なんの用だよ」

ーいや、マルコの旦那があんたに仕事を頼みたいってー

「今は別件を抱えてる、マルコの仕事はバードにやるよ」

ーおいおい、俺に仕事をふるなんて珍しいなー

「言ったろう？俺は今別件で明後日まで動けん」

ーアンタ指名なんだよー

「ん？どういうことだ？」

ーアンタは仕事が早い、今度の仕事は期限が3日間なんだよ、俺にはー

「バード悪い、今は無理だよ、人を待たせてるんだ、もう切るぞ」

ーおい！フミー

バードの話を聞き終わる前に電話を切り屋上を見渡すと少し日が落ちていた

夕焼けを見て少し落ち着きを取り戻し305へ戻った

「フミト、おかえり」

「大袈裟だよ、ケイト」

「…なんだか…あなたが帰って来ない気がして…」

「ケイトは依頼者だ、見捨てる訳が無いだろう？」

「ありがとう、フミト」

「ん？」

「いや、私がフミトを信じた気持ちに応えてくれたのかな？って思ったの、そうしたらお礼を言いたくなって…」

そういう解釈もあるか…？

「ケイトの言う通りかもな、ケイトの思いに応えたい、もうすぐ今日が終わる、明日の朝まで…不完全だけど…俺はケイトを…全力で守るよ」

「私はフミトを信じる」

「こんな俺を信じてくれてありがとう」

そう言うと弟村の電話がまた鳴った

番号は表示されてない

「もしもし…誰だ？」

ーおい！お前の居場所がバレてるぞ！ー

相手は日本語で話しかけてきた

「はぁ？」

ーもうすぐロッシーニの部下達がそこへやってくるぞ！死にたくなかったらすぐに逃げろ！ー

「俺の居場所がバレた…？てかアンタ誰だ！」

ー俺が誰だか関係あるか？この電話を信じれないなら勝手に殺されちまえー

「…分かった逃げるよ！」

ーお前が怪我をしようがどうでもいいがそのお嬢さんは無傷で逃がせ！いいな！窓際の避難はしごの下に車を用意してある、キーは刺さってるからその車を使えー

「分かった、もう切る…」

ー上手く逃げられたらメモの場所へ行け！生きてたら会おう、じゃあな！急げよ！ー

ツーツーツーツー

「フミト…？」

「ケイト、ここがバレた、今すぐ逃げよう」

「え？どうして?!」

「わからん、だが今はそんな事言ってる場合じゃない、朝渡した銃は？」

ケイトはベッドルームに走っていき戻ってきた

「はい、これ！」

「ありがとう」

弟村は引き出しからリボルバータイプの拳銃と弾を掴みケイトに渡した

「ケイト車で説明するがこれは簡単に撃てる、お守りだ！もっておけ！窓際のハシゴから逃げるぞ！」

「うん！」

2人は避難はしごで１階まで降りた、電話の男の言う通り車が置いてありキーも刺さっていた

「この車誰の？フミトの?!」

「分からん、でもこれに乗るしかない！乗れ！ケイト！俺を信じろ！」

そういい2人は乗り込み弟村は車のセルを回しエンジンをかけて急発進

「おい！こっちに居たぞ！」

ロッシーニの部下と思われる多数の人間が壁になったがアクセル前回で突っ込むとやはり轢かれるのが怖いのか全員散り散りに逃げた

パァン！パァン！パァン！バリン！

「ケイト！頭下げてろ！」

ケイトの頭を乱暴に下げさせ

ロッシーニの部下が発砲して後部座席のガラスが割れた

「当たってないか?!無事か?!ケイト!!」

「大丈夫！当たってない」

「ちょっと飛ばすぞ！怖い思いをさせるか俺は絶対事故らない！」

「私はフミトを信じてる！」

2人を乗せた車は猛スピードで走って行った