第2話
「紅茶がいいだろう、さっ、飲んで落ち着くといい」
マスターがアンティーク調のカップに紅茶を注ぎ女にすすめ、カップに口をつけゆっくり飲んでいた
狭い店内に微かなハーブの香りが漂い弟村も何故か少しホッとした気分に
「へぇ〜こんな薄汚ぇ店にこんな高級そうなもんあるんだな」
「1杯だけの特別なサービスだ、ツケを払い終わったらお前さんにもやるよ」
「俺はコーヒーの方が好きだな」
「紅茶の良さも知らんとは、お前さんも随分とつまらん男だな」
「…つまらない男か…言われ慣れてるよ」
そういい氷が溶けて水割りになったスコッチを飲み干した
「俺帰ってもいいか?マスター?」
「お前よくこの状況で帰るとか言えるな?」
呆れた口調で弟村に言った
「せめて事情だけでも聞いてやれ」
「奢りで飲ませてくれるなら考えるよ、それに匿おうしたのはマスター?あんたじゃないか」
「酒に火をつけたのはお前さんだったぞ?だからトラブルを起こしたのはお前だ」
「そういうの屁理屈って…」
マスターと弟村が少し言い合ってる時
「あ、あの…」
女が口を開いて割って入った
「私ご迷惑ですよね…匿ってくれてありがとうございます、この紅茶を頂いたらここを出ていきますので…」
そう言うと少しぬるめの紅茶一気に飲み席を離れようとした時マスターがお代わりを注いだ
「お嬢さん?この紅茶はなかなか手に入らない茶葉なんだ、せっかくだからもう一杯飲んでいくといい、なーに夜は長いんだ、そんなに焦らないでも…なぁ?フミト?」
言い終わると弟村にスコッチウィスキーのボトルを出した
ラベルを見た音村が少し驚き
「おいおい、これ飲んでいいのか?」
銘柄はマッカランダブルカスク12年
ボトルで買うと100$でお釣りがくる銘柄で
「今日は特別だぞ?」
マスターはそういい薄いガラスで作られたウィスキーグラスに丸い大きな氷をひとつ入れて弟村に渡した
意気揚々とした弟村だがはやる気持ちを抑えグラスにツーフィンガー分注ぎ氷を指でひと回しし香りを嗅いで1口含んだ
バニラカスタードの甘い香りと、蜂蜜のような甘さにややスパイシーでシトラスのフルーツ感のある味わいと、甘い余韻が口の中を駆け巡った
「くぅ〜美味いな〜」
そう言いながら2杯目をグラスに注いだ
「で?あんた名前は?」
「私はケイト…ケイト・ロバーツ」
「Ms.ケイトでいいのかな?」
「ケイトでいいわ、…どこから話したら…」
「慌てんでいい、ゆっくり聞かせておくれ、あんたお腹空いてないかい?パンケーキくらいで良ければ焼くよ?」
「ありがとう…でも大丈夫です」
ケイトは軽く会釈をしながら答えた
「さっきの奴らはなんだ?あんた何したんだ?」
弟村は半分呆れた口調で尋ねた
「…私…実は明後日連邦裁判所で証言する予定だったの」
「裁判所?誰の公判だ?」
「…グランツ・ロッシーニ」
「ロッシーニだと!関連企業が収支決算報告納税額が合わない事を理由に最近捕まったと聞いていたが…」
「これはまた…とんでもない大物の名前だ」
弟村もマスターも驚きを隠せなかった
グランツ・ロッシーニ
イタリア系マフィアでロッシーニ家の初代が元いたマフィアから縄張りを奪い代々仕切っていた
警察との癒着等の噂もあったのになかなか逮捕出来なかった大物だが弟村の言った通り内部からのリーク情報で地方検事と判事が逮捕に踏切、現在拘留されている
「黙秘を続けてると記事で読んだが…それとあんたがどう?…まさか?!」
弟村は何かに気がついて驚いた
「そう…内部リークしたのはこの私」
「マジかよ…」
「思い切った事するのぅ…」
2人は驚いた
「しかし何故あんたが?」
「私の友達がロッシーニのダミー会社に就職してて…もちろんロッシーニの会社なんて知らなかったの、彼が偶然経理のデータを見つけてね…告発しようとしたら…」
「その先は言わないでいい、悔しいのは分かるがだからってあんたが代わりに告発する事ないだろう?命まで狙われて」
弟村が話を割った
「普通はそうよね、でもね?正しい事を正しい、悪いことは悪いって言えないのは私は納得できない!」
ケイトは机を叩きながら答えた
「そう感情的になるな、あんたのその信念は立派だが命を賭けてまでやることかい?ロッシーニなんてそう簡単に落とせる相手じゃないしな」
グラスを空け3杯目を注ぎながら話を続け
「その信念を貫いてあんたが死んだら元も子もないじゃないか?泣くぞ?親が。それともそんなに許せないか?ロッシーニが?」
「それもあるけど、私の友達が命を賭けてした事のバトンをそのままにしたくなかった。このまま蔑ろにしたらそれこそ何のために!だから証言台に立つまで私は死ぬ訳にいかない!」
マスターがホットケーキを焼いて持ってきつつ話を割った
「喋るのにも力を使うだろう?こんなもんしかないが食べておくれ、このホットケーキはソイミルクで作ったオリジナルでな、このココナッツソースとよく合うんだ。口に合うかどうか分からんけどな」
「ありがとうございます、いただきます」
ケイトが皿に添えてあったバターをホットケーキに馴染ませココナッツソースをかけた
「もっとかけた方がおすすめだよ」
ケイトはたっぷりホットケーキ全面にいきわたる用ソースをかけホットケーキにナイフを入れると生地がふわふわでナイフがスっと入り断面にココナッツソースがいきわたる
小さめに切ったホットケーキをケイトが口に運んだ
ミルクではなくソイミルクで作ってあるので生地そのものはさっぱりしていて食べやすいので甘めココナッツソースがいいアクセントになりしつこくなくパクパク食べられる
ケイトは空腹だったのかナイフとフォークが止まらない
そんな時
「内部リークをしたって事は警察にか?それともFBIか?」
「FBIに連絡してデータを渡し証言すると言ったら今度は連邦保安官に引き合わされたの」
「…うーん…おかしいのぅ…連邦保安官なら証人保護プログラムでそう簡単に居場所がバレないハズだが…」
マスターはいつの間にかコーヒーををいれ飲んでいた
「どうせFBIあたりに簡単だとか言われて説得を受け入れたのだろう?奴らの常套句だ、自分らは安全圏にいて人にやらせる、ハッキリ言ってあんたは脇が甘い」
「私も迂闊だったの…さっき用意されていた部屋にあの2人がFBI来てを名乗ったからドア開けたら無理やり連れてかれて…思いっきり股間を蹴ってやった」
ケイトは足が長いので蹴られた弟村は男は少し気の毒だなと思ったが口にしなかった
「何故お前の居場所がバレたんだ?どこにも外に出るなと念を押されたろう?」
「外になんか出てない、電話をしただけ…まさか!」
「盗聴だな…」
「そんな…どうして?!」
「人なんてそんなもんさ、長いものに巻かれるんだ、しかもロッシーニだ色々な所に金をばら蒔いているだろう、逆によくあんたの証言で地方検事と判事が動いたな」
「実はまだ出してない証拠があるの、これよ」
そう言うとケイトは口紅形のUSBメモリを出した
「それには何がはいってるんだ?」
「ロッシーニの金の流れ全て」
「これがありゃ…道理ですぐに殺さなかったのか…納得だ」
「これを裁判所に持っていくまで私は絶対死ねないの!」
「よーし!じゃあフミト?お前さんが明後日まで匿ってやれ」
マスターがとんでもない事を言い出した
「なんで俺が!」
グラスをカウンターに強めに叩きつけた
「このお嬢さんは奢りだがワシはお前に奢りなんて一言も言っとらん、お代わりもしたな?裁判までこのお嬢さんを守りきったらツケは無し、溜まった家賃もぜーんぶワシが払ってやる、大家から聞いとるぞ?それにお前さんとロッシーニは…」
「つまらない話をするな!ロッシーニ相手に2日も無事で居られると本気で思ってるのか?!」
言葉を強めにして弟村は言った
「お前さん凄腕なんだろう?元SWATのフミト?」
「やめろ!昔の話だ!」
「お前、ここでこの娘さんを見捨てたら本物のクズだぞ?二度とウチの店には来させないし大家に言って追い出させるからな」
「汚ぇ野郎だな…わかったよ!やるよ!しかし問題は…」
弟村はケイトに目をやった
「ケイト…?正直に言う、相手があのロッシーニだ。どこまでやれるかわからん、もちろん簡単じゃないが…仕事を依頼された以上俺は全力であんたを守るよ、俺を信用できるか?」
ケイトは弟村の目を真っ直ぐ見て答えた
「私は貴方を信じる、FBIより貴方の方が信用できる」
「何故?俺は警察でもなんでもないただの男だ」
「私に「簡単じゃない」ってハッキリいってくれた、FBIも連邦保安官も言わなかった事を貴方は言った、だから貴方を信じるわ」
「よしわかった、マスター?店の奥と繋がってるマスターの家の裏口から俺たちを出させてくれ、どうせ見張ってるがここの裏口はそう簡単に見つけられないからな」
コーヒーカップを置きながらマスター立ち上がり
「よしきた、お前はやるときゃやる男と信じてたよ、ついでに持ってけ」
そういい弟村にクルマのキーを投げた
「悪い、ちゃんと返すよ」
「無傷でとは言わん、ちゃんと自走できるレベルで返してくれ」
「わかったわかった、ケイト、行くぞ?」
ケイトも立ち上がりマスターに深々をお辞儀をした
「ご親切ありがとうございます、この御恩は…」
「いいっていいって、裁判まで頑張れ!ロッシーニの野郎をぶち込んでやれ」
「ハイ!」
ケイトは笑顔で返事をして弟村と店を後にした
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