第13話✤【閑話2】シノ君の独り言

 不思議な人だった。

 最初に見たときはやたらと精霊に好かれ、集られていて形はわかれど姿なんか見えなかった。

 山賊に捕らえられて恐ろしい思いをしていたのに、その光景だけは微笑ましいものだった。

 安堵感。

 そう、安堵感だ。

 その人が山賊共を打ち倒し姿を見せてくれた瞬間、僕は安堵したのだ。


 これで助かった、というだけではない。

 白に近い銀の髪、人好きするような優しいはちみつ色の瞳。

 深緑色の狩人のような服を着込んではいるけれど、それ自体が質のいい高価なものだわかる。


 それから彼……ラナン様は山賊達の死体も貯め込んだお宝も回収し、荷は返すので街まで連れて行ってくれと頼んできた。

 山賊に襲われ、積み荷を没収された時点で僕らにその荷の所有権はない。

 その山賊達を倒したラナン様にその所有権はあるというのに、あっさりと返却してくれたのだ。

 本来であればその場ではなく、もしくは商業か冒険者ギルドデギルドマスターを交えての変換買取交渉になるのだが、山賊のお宝もあるので良い、とのことだった。


 そして荷馬車を回収して最初の駐車場へ泊った時も驚いた。

 見たこともない天幕、見たこともない【結界灯ランタン】、そして味わったことが無い夕食。

 それらはラナン様の【空間収納イベントリ】から出てきた。


 もしかして召喚勇者様なのかと、皆が寝静まった時に聞いてみたら、どうやら違うらしい。

 それに、今代の勇者様はまだご存命だ。

 追加で召喚されるにしても各国にはその旨を伝える盟約があるし、ある程度の上級市民以上には通達があるはず。

 それもなかったので、本当に何故ここに召喚されたのかもわからないようだ。


「この世界を知って、のんびり旅をしたりしたいなぁ」


 と、どこか遠くを見るような瞳に、僕は提案をした。

 それは僕にとっても都合がいい事なのだが……。


「一緒に旅をしませんか?」


 そんな言葉がついでてきた。

 ラナン様は破顔して頷くと、宜しくな、と握手を求めてきた。

 本当にニホンからやってきたようだ。

 この世界の住人には、握手という習慣はない。

 それは召喚者達がやる基本の行動の一つだから。


「楽しみだな!」


 と、ラナン様は二杯目の蜂蜜入りホットミルクを入れてくれたけれど、そこには香り高いブランデーなるものが少しだけ入っていた。

 よく眠れるんだ、とラナン様は言った。

 ブランデー、ウィスキー、ニホン酒……。この辺りも召喚勇者様の好むお酒の類だ。


 ラナン様、本当に勇者様じゃないんですか?

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