第9話◆2.5次元俳優、色々拾う3

「き、君は誰だね? 何故ここに!? これ以上近づくな!」

「シノ様!奴らが仲間割れした可能性があります!お下がりください!」


 年配の人とメイドさんがそう言いながら少年を後ろへと隠した。

 しかし、シノと呼ばれた少年は二人の隙間からひょっこりと出てくると、ぺこりと頭を下げた。


「「シノ様?」」

「黙ってなさい、二人とも。この方は私たちを助けてくれたお方なのですよ。無礼でしょう?」


 ぴしゃり、と一喝された二人は一歩後ずさり膝をついて『臣下としての礼』を取った。

 二人を見る限り、シノ少年は商人の息子ではあるがいい主のようだ。


「うちの者が失礼いたしました。改めまして、助けて下さりありがとうございます。私の名はシノノメ・ドライブ。エイラ・アスラーク王国に本店を構えますドライブ商会の会長アイル・ドライブの一人息子です。どうぞシノとお呼びください」

「ご丁寧にどうも。俺は……えーと、羅楠……ラナン・イシュラークです。こちらもラナンでいいですよ」

「ラナン様ですね。こちらはフォゼスとメテオラです」


 なんとなく、本名では違和感がありそうなのでイシュラークの名前を使わせてもらう。その方がいい気がしてるし。

 シノがそう二人を紹介すると、それぞれから自己紹介を受けた。


「先ほどは取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。私はフォゼス・ゴーマッハ。ドライブ商会の総合秘書をやっております」

「助けて下さり有難うございます。私はメテオラ・チェイスと申します。シノ様専属のメイドです」

「それと、そこで亡くなってしまったのが、御者をしてくれていたブレンです」


 山賊の親分の横で倒れている青年……最初に確認した灰色の点……。


「ブレンさん、シノ君たちは俺がちゃんとドライブ商会まで送り届けます。迷わずに自分の信じる神の元へ行ってください」


 ブレンさんの傍にしゃがみ、手を合わせる。

 すると、三人も俺に倣ったのか元々そういう宗教感なのか、手を合わせてくれた。

 そして俺が立ち上がると、フォゼスさんが声をかけてきた。


「ラナン様。先ほどのお言葉は本当でしょうか?我々をドライブ商会まで送り届けて頂けると……」

「ええ。助けた手前、そこまでちゃんと責任もちますよ。ただ、俺はこの地に来たばかりなので土地勘はないから、誘導してくれるとありがたいです」


 正確には『この世界』になんだけれどね。


「それは勿論ですとも。山賊たちが使っていた馬も横取りされた荷馬車もまだあると思います。私たちが襲われたのは昨夜の事ですので……」

「そうか。ではそれに乗っていきましょう……あと……」


 俺は洞窟の奥を見やった。


「あいつらが貯め込んだお宝って、貰っていいもんなの?持ち主が居るなら届けた方がいいの?」


 親分が座っていただろう木箱の後ろには煌びやかなオタカラの山が……。

 俺なら持ち帰れるからね。


「そうですね。ラナン様の戦利品扱いになりますので全て頂いてしまっても宜しいかと。極端な話、我々の荷すらラナン様に所有権はあります」

「え?だってシノ君たち生きてるでしょ?」


 驚いた俺の疑問に答えてくれたのはシノ君だった。


「山賊に一度奪われた時点て所有権はありませんので……」

「ええええ?シノ君たちの荷はそのまま返すよ。確か持ち主が居る場合買取になるとか無かったっけ?」


 あるある異世界知識を言えば、シノ君たちはびっくりした顔をした。

 え?ないの?


「ありますけれど……。その場ではなく、冒険者もしくは商業ギルドを交えての買取交渉が通例ですね」

「よかった、あるのか。ではシノ君たちの荷を無償返還する代わりに、俺をエイラ・アスラーク王国まで連れてってくれないか?正直に言うと遠くの故郷から出てきたばかりでこの辺初めてなんだ。旅は道連れ世は情けっていうだろ?どうかな?」

「はぁ……、珍しい言い回しですね初めて聞きます……。解りました、先程のお言葉からラナン様はこれから冒険者になるおつもりでしょうから、身元の保証は私が致します。途中の通行税も持ちましょう」

「ありがとう、助かるよ」


 おや、該当することわざみたいなのもないのか、ところ変わればだな。

 一応お金はあるけれど、身元保証を王都の商会がやってくれるのであれば信頼度は段違いだし有難い話なのでお願いしたい。

 悪さはしないつもりだし、何かと『この世界』に関して教えてもらう必要もありそうだし……。


「では早速、荷馬車の準備をしてまいりますね」

「私も手伝ってきます」


 フォゼスさんとメテオラさんは山賊の死体をよけつつ、洞窟の外へと出て行った。


「んじゃ収納しちゃおうか」


 と、数々のお宝を一気に【イベントリ】へ収納すると、シノ君が声を出して驚いていた。


「【収納イベントリ】スキルをお持ちなのですか?」

「え?うん。珍しいの?」

「はい。僕も一応持ってますが、1000人に一人くらいの割合ですね」

「へぇ、【鑑定】とかは?」

「それも珍しいです。大体1万人に一人くらいです。……まさか……」

「ははは」

「あはは……。あの、【イベントリ】だけならまだ珍しいですみますので……あまり他言は⋯⋯」

「……うん……そうする」


 こっちのスキル関係もこっそりシノ君に相談してみるかな……。

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