20首で行って帰ってくる異世界転移短歌集

20首で行って帰ってくる異世界転移短歌集

歌集読み　ながら歩きの　帰り道　信号無視の　トラックが来る

はて確か　轢かれたはずが　気がつけば　見ず知らぬ場所　神殿のよう

「勇者さま」　声をかけられ　振り向けば　少女がひとり　リタと名を告ぐ

リタいわく　魔王から世を　救うため　喚ばれたる者　それが僕だと

脳内に　厳かな声　響き言う　女神より　そなたに力（チート）　授けたまうと

「悪鬼（オーク）ども　灰燼と化せ　燃え尽きよ　死して虚空の　塵となるべし」

女神より　賜りし力（チート）　【短歌詠み（レクイエム）】　短歌（うた）を詠えば　現実となる

リタと共　救世の旅　転々と　各地で戦（いくさ）　魔を退ける

「来てくれた　それがあなたで　良かった」と　リタの言葉に　うなずきし夜

時は経ち　仲間集いし　今こそが　魔王の城へ攻め込むときぞ

屍（かばね）散る　荒野を抜けて　黒霧を　纏いし異様　魔王の居城

「捩じ切れろ　腕足砕け　死んで逝け　魔王討伐　我ら成すべし」

「その程度　我には効かぬ」　と魔王（ヤツ）が言い　放つ雷槍　避ける能わず

動けない　僕にかぶさる　その影は　見知った姿　上書きする赤

「うわあああ（倒れ伏す）　あああああああ（リタ血に濡れて）　あああああ（叫び声）　あああああああ（あざわらう声）　あああああああッ！（あざわらう声）」　

「ヤツを消す　短歌（うた）を頼む」と　言いおいて　時を稼ぐと　仲間たち征く

考えろ　傷つかぬもの　殺す術　僕の全てを　懸けて唱えろ

「―――魔王など　端から世界（ここ）に　在りはせず　生まれ出ざれば　殺すことなし！」

瞬間に　世界が変わる　書き換わる　魔王は消える　彼女は起きる

喚ばれたる　因果さえもが　消え失せて　トラックが今　眼前を過ぐ