第五章 陰キャ同士は通じ合う。

第38話 最速の男が配達員で、

僕と国木田さんは普通棟へ繋がる渡り廊下を抜け、階段を駆け降りる。


校舎外も、生者と亡者で大騒ぎの中、息を切らして辿り着いた正門には、大量の自転車と、お揃いの配達バッグを背負った人が、たんまり溜まっていた。


思ったよりも、到着が速い。

優秀だね……!


僕は、駆け寄りながら、腕を広げて叫んだ。


「す、すいません! お金は払いますから、お引き取りください!」


突然前で叫び始めた男子高校生に、配達員軍団たちのあいだに、はぁ? みたいな空気が流れだす。

こ、こわい……


「商品届けないと、配達完了に出来ないんだけど」


一人が声を上げると、ドヤドヤと同意の文句が飛び交い始めた。


「君、注文した人じゃないよね? 女の子の名前だもん」

「違う人に渡すと低評価つけられちゃうんでねぇ」

「早く次行きたいんだけど」


「僕は本人の代理です! 荷物は置いていってもらっていいので、とにかく、中には入らないで!」

必死に叫ぶ。


めんどくさいという雰囲気と共に、バッグの中からビニール袋を床に置いていく人も出てきたが、信じてくれない人もいた。


いっそのこと、国木田さんが注文者ということにしてしまいたかった。

……が、彼女は声も出せずに固まっている。


当然だと、思う。

ついさっき、ようやく部員と話せるようになったのに、いきなり不特定多数は無茶だったんだ。


僕が、前に立たないと……


しかし、新規の配達員たちは、続々とやってきていた。

僕は懸命に叫ぶが、後ろまで声が届かない。


そもそも僕も、不登校陰キャの引きこもりだ。

母さんに、


「あんた、もっとはっきり喋りなさいよ。何言ってるか聞き取りづらいわよ」


と言われるくらいの声質と声量なので、言葉が全然伝わってないのが、目に見えてわかった。


前から帰ろうとする人と、後ろから到着する人のせいで、校門前はしっちゃかめっちゃかのおしくらまんじゅう。

しかも全員自転車持ちのため、容易には通れず、怒声が上がり始める。

ますます声は届かない。


「だめだ、聞いてもらえない……」

僕は思わず弱音を吐いてしまう。


早く処理しないと、何が起こるかわからない……しかし、拡声器でも持ってこないと、全員を誘導することなんかできないだろう……


諦めかけたそのとき、小さな影が、僕の脇を駆け抜けていき、校門の石壁によじ登った。


国木田さんだった。


「わ、私が注文しました……! 商品はここに置いてください! 配達完了してもらってかまいません! ここに置いていってください……!」


彼女の特徴的な声の効果は……劇的だった。


その声優のような高音はよく飛んで、人の耳を惹きつけた。

烏合の衆だった配達員たちが、揃って彼女の声に耳を傾けると、素直にバッグを開け始める。


僕の困り事を、たった一声で、解決してしまった……

僕は、正門の上で髪を靡かせる国木田さんの姿を、感動しながら見つめた。


かっこいいよ、国木田さん……


しかし――


「何の騒ぎだァこれは⁉︎」

真後ろから飛んでくる、聞き慣れた怒声。


嫌な予感に振り向くと、そこにいたのは、僕の担任――インハイゴリラだった。


肩を怒らせて、正門へやってきた先生は、石壁の上の国木田さんを見上げ、

「降りなさい」

と厳命する。


そして、間近の僕の顔をぐっと見下ろした。


「これは、お前たちが頼んだのか?」

「い、いや……違いますけど……」


実際、嘘ではない。頼んだのは幽霊だ。


彼は僕の言葉を信じないようにフンと鼻を鳴らすと、今しがた荷物を置きにきた若い配達員を捕まえて、

「どこ配達の予定?」

と同じ調子で尋ねた。


「え? あぁ、えっと、ここっすね」


彼は素直に自分のスマホを見せる。

きっと女子陸上部の部室にピンが刺さったマップが出ているのだろう。


「これは……うちの部室じゃないか!」

彼は狼狽え始めた。

「なんという恥。僕の監督不行き届きです。信じられない、うちにそんな図々しい子がいたなんて。それ、受け取ります!」

「え、ちょっと――」

先生は、配達員からビニール袋を引ったくると、素早く駆け出した。


中身は、当然サラダチキンだ。


そして、向かう先はもちろん、体育の神が待つ部室棟……


「先生! ちょっと待って!」

僕が叫んだときには、先生とはあっという間に距離は開いていた。


高校時代、インターハイで当時の高校生記録を作ったのが自慢の体育教師が、その俊足で爆走していく。


「先生――ッ!」


僕と国木田さんは、慌てて先生の後を追いかけ始めた。


……が、必死で追いかけても、彼の背中は近づくどころか、小さくなる一方。


「インハイ……速すぎ……!」

国木田さんが声を絞り出す。


僕はいつかの授業で先生が言っていたことを思いだした。


俺の方が現役陸上部よりも速いんだって誇らしげにしていた記憶……


このままじゃ、校内最速の男によって、サラダチキンが最速で届けられてしまう。

奇跡でも起きない限り、運動不足の陰キャ二人が追いつくはずもない。


この状況は、本当にまずい……!




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