第37話 止まるわけにはいかなくて、

「陰野先輩、ほんとに大丈夫です⁉︎ 立てます⁉︎」


わかの言葉に、僕は床に手をついて立ち上がってみた。

冷や汗をかいてはいるが、体はしっかりしているようだ。


「うん、平気。それより早くウーバー止めに行こう。時間がない」

僕はみんなを促す。

が、

「いや、みんなで同じところ行っても仕方ない。三つに分かれたほうがいいと思う」

国木田さんが粒子銃を全員に渡しながら、冷静に呟いた。

ようやく、いつもの感じに戻ってきたようだ。


「誰か、三宅さんと陸上部の部室閉めてきてほしい。万一のために」


「あ、じゃあそれ、アタシと柳女先輩で行きます!」


わかが名乗り出ると、柳女さんが狼狽えた。


「ふぇ……! 葵も……?」

「だって、配達員なんて男ばっかりですよ⁉︎ 役に立たないでしょ先輩!」

「ふぇぇ……その通りでふ……」


「正門は行くとして、裏門も配達が来ないか、見ておいたほうがいい気がする」

国木田さんが言うと、


「そっちはワタクシが行くよ。職員室にも行かないとだし」

幽崎先生が手を挙げた。


「じゃあ、私と陰野は、正門のウーバー止めに行く」


彼女は、僕を見上げて、告げる。

その悲壮な顔は、まるで決死の戦いに赴くかのようだった。



  ◆ ◇   ◆ ◇   ◆ ◇ 



特別棟から各自散らばった僕たちは、校舎を全力で駆ける。


学校は、阿鼻叫喚の巷と化していた。


教室や廊下のあちこちでは、うらうらと行き交う可視化された霊たちから、生徒たちが逃げ惑っている。


大騒動だ。


先ほどまで晴れていたはずの空さえ、今は真っ黒な暗雲が学校の頭上にのしかかっている。


そして、僕にも一つの変化が起きていた。


白の空間から帰ってきてからというもの、頭の中を頻繁に、大音量のノイズが貫いていた。


まるでスクランブル交差点の雑多な音を凝縮して、いっぺんに耳に突っ込まれたかのような、圧倒的な情報量が襲い掛かっては、引いていく。


気のせいだと思いたかったが、直感は確信していた。


それは、学校にいる霊たちの声だ……


泡のように浮かんで弾けていく、呪いや嘆きの言葉たち。


うるさい……

そして、気分が悪い……


「大丈夫? やっぱりさっきの……」


青い顔をしていることに気付いたのか、国木田さんが心配げに僕を覗き込む。


「ううん。平気」


正直に言うと、耳を塞いで休みたかったが、そんなことは言ってられなかった。


多分、今この学校で止められるのは、僕たちしかいないから……


止まるわけには、いかない……



― 第四章 陰キャ男女は接近する。 おわり —



🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸


 第四章までご覧いただき、ありがとうございます!


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 第五章は、命がけバトル勃発です! やったね!

 引き続きお楽しみいただければと思います……!


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