第36話 そこは寂しい空間で、

……そこは、冷たくて、寂しい空間だった。


どこもかしこも真っ白で、汚れもない。


『生きてていいな、羨ましいな』


どこからか、声が聞こえてくる。気づくと、目の前に何かがいた。


色や、形は、把握できない。ただ、そこに何がしかの存在があることだけが分かる。

それだけで充分、いや、それこそが全てだ。


『生きてていいな、羨ましいな』


彼は寂しそうに、物欲しそうに歌っていた。

僕には不可解だった。


「なんでそんなに羨ましがるの? ……生きててもツラいだけじゃない」


彼は、目も顔もなくても、僕を見上げて楽しげに笑った。


『これまではなくても、これからはわからないもの』

「どういうこと……?」


『アタシ、いつもココにいて、いつも同じ気持ちで、恨み続けてる。でも、いくら恨んでも、ココからは、抜け出せない。生きてるってことは、抜け出せるってこと。抜け出せるってことは、幸せなこと』


彼は久しぶりに人と話すのが楽しいというように、機嫌よく体を揺らす。


『いいな、いいな、生きてていいな』


次の瞬間には、僕の視界は、彼の牙だらけの口に覆われていた。


『キミの命、少し、ちょうだい……?』


首を噛みちぎられる直前、白の空間からハッと目覚めた。


起き上がると、心調部の面々が視界の中で、僕を見つめている。

各自の顔には、緊張と恐怖が貼り付いていた。


それだけで、僕が今までどうなっていたか、想像がつく。


「大丈夫……⁉︎」


国木田さんの声がする。

浅い息で姿を探すと、彼女は教室後方に銃口を向け、射線の先では、一部の机が焼け焦げていた。


僕は『それ』の潜んでいた場所を探った。

成仏した気はしないが、気配はほとんど消えている。


「う、うん。助かった。ありがとう……」




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