第35話 『それ』は僕を飲み込んで、

「見せて、スマホ! アプリ出して!」


国木田さんの鬼気迫る声に、三宅さんは慌てて自分のスマホを取り出した。

全員が、周りに駆け寄ってそれを覗き込む。


アプリ上では、各ウーバー配達員を表す大量のアイコンが、僕たちの高校に向かって近づいてきていた。

それも、十や二十じゃきかない。まるでバッタの大群みたいな数だ。


目的地のピンは、嫌味なほど正確に、女子陸上部の部室の真上に刺さっていた。


「町中のサラダチキンがこの学校に集まってます……サラダチキンの波状攻撃です……」

わかが戦慄している。


「もう配達中……キャンセルできないよ……ふぇぇ……」

柳女さんが白目を剥いている。


『死ね……死ね……!』


スピーカーからの呪詛は、危機の接近を表しているのか、今や爆音になっていた。

学校を覆う悪意も、どんどん強くなっている気がする。


クラクラする……気持ち悪い……


「いったん状況を整理しよう」

国木田さんが冷静に呟く。

「陸上部の部室には、世界を崩壊させるほど強力な霊がいて、良質なタンパク質を求めてる。そして今、大量のウーバーイーツがサラダチキンをここへ運んでる」

一呼吸おいて、

「つまり、ウーバーイーツを止めないと、世界が消滅する」


どういう状況だよ……

一同、同じ思いを抱いているのがわかる。

「とにかく、この配達員さんたちを足止めしないとですよね!」

「行こう」


国木田さんの号令で、一同は部室の外へ向かう。

僕も続こうとしたところ、横から低空飛行してきた椅子に足を絡め取られてしまった。


「うわっ……!」


無様に床に這いつくばる。

普通に痛い……


急いでるのに、と軽く腹を立てながら目を開いた、そのとき、


ドクン――ッ!


と、心臓が不気味に収斂した。


……正直言って、僕は、完全に油断していたんだ。


無視することに慣れてしまったせいで、部室にいる『それ』の存在をキレイに忘却していた。


僕の視線は、抗う間も無く床を滑り、机の下に広がる闇に強烈に吸い寄せられていく。


そして、飢えた獣のように時を待っていた『それ』と、僕は真正面から、向き合ってしまった……




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