第39話 ついたころには、始まっていて、

僕たちが追いついたときには、事態は既に終わっていた。

いや、始まっていたというべきか……


「うわぁん! ごめんなさい、先輩ぃ!」

わかたち部室閉鎖組が僕たちを見つけると、わかが代表して泣き叫んだ。

「来た時にはドアが壊されてて、閉められませんでしたぁ!」


慌てて陸上部の部室を見ると、インハイが腰を抜かしている。


「なんだ、こいつは……?」


地面についた手にはビニール袋、そして空になったサラダチキンのパッケージが五つほど。


僕と国木田さんは、彼を避難させようと駆け寄る。

そして、部室の中から異音がしていることに気づいた。


シューッ……


部屋を覆っていた筋肉は消え、代わりに、人型の何かが、全身から蒸気を上げて立っていた。


生きた人間にしては、デカすぎる……

まるで、先ほど壁になっていた肉がすべて収まったかのような、漫画並みの筋肉量。


僕たちは一目で悟った。

体育の神が、降臨してしまったのである……


「ギャハハ!」

彼は、巨体を揺らして、天に吠えた。

「俺は復活した! この世界は終わりだ!」


「どうしましょう! どうしましょう! 進化しちゃいました!」

「ふぇぇ……もうダメだぁ……葵しぬんだぁ……」

わかと柳女さんが、悲嘆している。ぶっちゃけ僕も同じ気持ちだ。


調査記録危険度S。


一瞬で校舎を破壊できる怪物を相手に、どうすればよいというのか……


絶望していた、そのとき、

「終わんのは世界じゃなくてお前じゃあい!」

活力漲る怒鳴り声が、どこからか聞こえてきた。


暴走族みたいな騒ぎが、旧校舎の方から近づいてくる。

校庭へと続く坂道を、姫野さんと科学部の男衆が、車輪のついた大砲を転がして爆走していた。


「どけどけどけどけ! お前らそこどけぇ!」

慌てて道を開けると、彼ら科学部は、だんじり祭りかよっていうスピード感で土埃をあげてドリフトし、砲口を部室の前にピタリとつける。


「ひ、姫野さん、どうして……!」

「学校中お祭り騒ぎなのに、気づかないわけあるかよ! 今こそコイツの出番じゃろがい!」


彼女は息を切らしたまま大砲の後ろに滑り込むと、目にも止まらぬスピードで操作盤を叩き始めた。


「ハァ……必殺技ってのは普通最後の手段だけどな……ハァ……現実世界ってのはそんなに甘くないんだわっと!」


声を合図に、バチンという音がして、大砲が輝きを放っていく……


「充電完了! 出力最大! 燃えたくねぇ奴ぁ今すぐ離れろ!」


僕たちが急いで飛び退くのを確認もせず、姫野さんが、髑髏ボタンを拳でぶん殴った。


「改良型超スーパー強制成仏ビィィイーーームッッ!」


その瞬間、砲口から放たれた直径二メートル超の極太の光線が、陸上部の部室をぶち抜いた。


ビキビキと耳をつんざくような炸裂音と共に、ビームに押されて巨大な部室棟の底面が地面から剥がれ始める。


そんな、馬鹿な……


僕たちが口をあんぐりと開ける中、棟の傾斜はみるみる険しくなっていき、あわや倒れるかというところで、ビームが止んで部室棟は着地した。


ドゥゥゥゥンンンン……


轟音と振動。


陸上部の部室内部は、丸焦げで、周囲は恐ろしく焦げ臭い。

そして、筋骨隆々の体育の神の姿は……消えていた。


「ナッハッハ! 馬鹿がァ! 霊が科学に勝てる訳ねぇんだよ!」

姫が大砲の後ろで凱歌をあげた。


僕は、思わず力が抜けてしまう。

「え、な、なんとかなったの……?」

「終わった⁉︎ やっつけられたんですか、コレ⁉︎」

わかが跳ね飛んで喜ぶ。

「ふぇぇ……葵まだ生きてる……」

柳女さんに至っては感極まって泣いている。


「あ、あは……ははは……」

不意に、隣にいた三宅さんが、笑い始めた。


一瞬、安心したのかと思ったが……違う。


彼女の顔は、タガの外れた狂気に染まっていた。

強烈な殺意が、僕の背筋をゾクッと走る。


それは、三宅さんであり、三宅さんではなかった。


「ギャハハ!」




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