第33話 筋肉は部屋を覆って、

僕たちはハッと息を呑んで、悲鳴の方向を振り返る。


声のした方を見回すと、ジャージ姿の三宅さんが、尻餅をついていた。

部室棟の前で、何かを凝視している。


「今の悲鳴って、三宅さん……?」

僕の問いに答える前に、トップスピードで国木田さんが飛び出していく。


僕もその後に続いて部室棟へ走った。



「大丈夫⁉︎」

三宅さんの元へ駆けつけた国木田さんが聞く。


が、三宅さんは答えもせず、ただ、部室の中に目を奪われていた。


僕たちは、三宅さんの視線を追って……絶句する。


女子陸上部の部室に広がる光景は、一目で、この世にあるべきものではないと理解できた。


壁全体が、何かで盛り上がり、赤黒く脈打っている。


……筋肉だ。


壁一面の筋肉が、部室狭しとぎゅうぎゅうに盛り上がり、押し詰まっていた。


異界と化した部屋から伝わる悪意に、背筋が寒くなる。

それは、初めて三宅さんの依頼を受けたときに感じた、禍々しさだった。

しかも、以前よりずっと強い。


「なに、この嫌な感じ……」

隣で国木田さんが身を竦めていた。


「僕たちは、見逃しちゃったのかもしれない」

「え?」

「変態だけじゃなかったんだ……ここには、本当に霊がいたんだよ」


そのとき、僕たちは目撃した。

隆々とした肉の間から、目玉がひとつ、こちらを睨んだのを――


心調部で鍛えた勘が告げていた。


こいつは普通じゃない……!


国木田さんが勇敢にも扉を閉め、僕たちは急いで三宅を両脇から抱える。


「部室に!」

「うんっ!」


言葉少なにも、僕と国木田さんが通じ合えるのは、頭にある懸念が同じだからだった。


武器を取って、早いうちに戦わないと。


あれは多分、マジでヤバい……!




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