第28話 塩水なら誰でもよくて、

「し、心調部ってことは……二人も来てる……んだよね……?」

姫野さんが引っ込んだ後、柳女さんはおずおずと口を開いた。

「今どこにいる……の……?」


「わからない。ニノキンから別れて逃げちゃったから」


「ニノキン……?」


「二宮金次郎」


「ぎゅぇぇ……」


濁音まみれの悲鳴をあげて彼女は卒倒した。


「やだぁ……お外出たくないぃ……」

泣いている。


「で、でも、合流しないと。二人が危険な目にあってたら大変だし」

それに、バラバラになるのは、死亡フラグのテッパンだし……


僕は彼女をなんとか宥めすかし、美術室の扉を開ける。

すると、いきなり目の前に、捜索対象の二人が走り去っていった。


次いで、二宮金次郎、人体模型、骸骨などがその後を追っていく……


「……増えてない⁉︎」


階下へ去っていった集団を見送り、呆然としていると、再び三階に上ってきた国木田さんとわかが、廊下の奥から走ってきた。


――GO!


国木田さんの一声を合図に反転したわかが、水風船片手に階段に向かっていく。


「でぇりゃぁあ!」


彼女は霊たちの懐に飛び込むと、どこから調達したのかもう片手に持った針で、風船を直接割って間近でぶつけた。


もろに塩水を被った幽霊たちは、ギッ……と完全に停止し、階段を転げ落ちていく。


二人は肩で息をしながらハイタッチを決めた。


なんていう体育会系な解決方法……


――残弾何発。


「一発です、ボス!」


――クソッ。弾薬補充しないと。


二人とも別れたときとは顔つきが違った。

何があったのかは知らないが、三階を選んで結果的によかったのは間違いない。


「二人とも平気……?」


横から声をかけた途端、二人が毛を逆立てた猫みたいに飛び上がった。


「ぎゃあ! 陰野先輩の亡霊ですっ!」


――GO!


国木田さんの電子音と共に、ゴムの風船から塩水がぶっかけられる。

しょっぱい……


「陰野くん……! 大丈夫……⁉︎」

柳女さんが声をかけたところで、国木田さんがやっと気づいた。


――葵? 本物?


「本物……だよ……葵も陰野くんも……」

「勝手に殺さないで……」


顔を拭いつつ僕が呻くと、わかが申し訳なさそうにぴょんぴょん跳ねた。


「うわぁーん! ごめんなさーい! てっきり死んだと思ってましたぁ!」


――ちょ、葵、なんでそんなアマゾネスみたいな服なの……


国木田さんの怪訝そうな視線に、柳女さんが恥じらいながら答える。


「それは……ぬ、脱がされて……」


――脱がされてって、それはそのえあてつてむうえったちちつかな


「明衣子先輩! 興奮してる場合じゃないです!」


廊下に、ガチャガチャと雑多な音が響いていることを、全員が察する。

ハンター集団が、再び動き出そうとしているのだ。


僕は咄嗟に叫んだ。


「ここ入って! 姫野さんもここにいる! 一晩ここに隠れよう!」


そう、目的は達成したのだ。

もう朝まで移動する必要はない。


色めきだった国木田さんとわかと共に、僕たちは一斉に美術室へ駆け込み――そして、大量のキャンバスによって廊下に突き返された。


「うわぁ!」

将棋倒しみたいに折り重なる。


見上げると、キャンバスが浮いていて、絵筆が乱暴に字を書いていた。


『さわがしい💢』


そして、扉が固く閉ざされた。


「ちょ、嘘だろ⁉︎ 入れて! 静かにするから!」


ドアを叩くが、沈黙。


――逃げるよ。


国木田さんの声で、僕たちは諦め、再び廊下を駆け始めた。


「どうします⁉︎ 家庭科室でまた塩探します⁉︎」


わかが叫ぶも、国木田さんは首を振る。


――見つかったままじゃ部屋に逃げても入ってくる。一度動きを止めないと。


「でもその武器がないです……!」


――ジリ貧だね。


そう打ち込む国木田さんは、辛そうに息をしていた。

体力は、限界に近い……


「汗は……⁉︎ 塩水だよ……!」

僕の案に、国木田さんが再度首を振る。


――量が足りない。一体止めても他が来る。


「……お、おしっこ!」

柳女さんが、高速道路で限界を迎えた子供みたいに叫んだ。


「今ですか⁉︎ 我慢してください!」

わかが怒鳴る。


「ち、違う……! おしっこは……汗と……同じって……!」

柳女さんは目をグルグルさせて説明した。

「だから、塩水……代わり……!」


「そんなの、どうやってオバケにオシッコかけるっていうんです⁉︎ 前に飛ばさないと……当たらない……」


そのとき、脳内で三人の意見が一致したのが、僕にはありありと見えた。


全員が僕を真顔で見つめた。


「……やだよ⁉︎⁉︎」




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