第23話 ニノキンは土煙をたてて、

いつの間にか、一同の先頭を切っていたのは、なぜか僕だった。


女子二人は、僕の背中なり腕を持って、グイグイ押し出している。

しかし、僕だって及び腰だ。


必然、推進力と反発力で、歩みは亀のように遅くなる。


スマホの電池は消耗したくないというので、僕のたった一つの懐中電灯の明かりを頼りに歩いていた。


「国木田さん、オカルト系得意なんじゃないの?」

小さな手でグイグイと前に押されながらクレームを入れると、背後の音声は当然のように言う。


――オカルトは平気。暗いのは嫌い。


「僕はどっちも嫌いなんですけど……?」


階段を登り切り、三階廊下へ。


まず向かう先は、科学部の部室。

神隠しに遭った姫野さんのホームだ。


教室から何か飛び出してこないかとビビりつつ、廊下を渡っていると、月に照らされた校庭に土埃が上がっているのが目についた。


……誰かがトラックを走っている。


見間違いかと思ったが、確かに、暗闇に爆走している影がある。

こんな夜更けに、だ。


「まさか三宅さんですか……」

気づいたわかが怯え始めた。


「ま、まさか……」

そうだったらお化けより怖い……

僕もそれを恐々観察する。


フォームがやたら綺麗ではあるが……


「……いや、そもそもあれ、女の人じゃないよ。男の人で、背中に何か背負って、妙に光沢が……」

言っているうちに、僕の脳内にひとつの答えが出た。


しかめっ面をして、『彼』が本来いるべき場所に目を凝らすと、実際、台座しかない。


間違いない……あれは……


――ニノキンだね。


横で眺めていた国木田さんが、僕たちの「なんですって?」という視線に気づいて、繰り返した。


――ニノキン。二宮金次郎。


「マブダチか何か?」


僕は思わず突っ込んでしまう。


――だって、あの人親近感ない? 一人で本読んでるし、猫背だし。絶対陰キャでしょ。


「あれは仕事中に勉強してるだけだから……一緒にされたら怒るよきっと……」


――いや、絶対陰キャだって。


「先輩たち、ニノキン陰キャ問題はいいから早く……! 早く終わらせて出ましょう……!」


わかが脇腹を必死に押してくる。

僕たちは暴走するニノキンを置いて、科学部の部室に向かった。



  ◆ ◇   ◆ ◇   ◆ ◇ 



科学部の部室は、わかりやすかった。

廊下側の壁を覆うように、研究成果をまとめたポスターが所狭しと貼ってある。


二人に押し出されるようにして、僕は部屋の扉を開ける。


人体模型が動き出す、とかのベタなイベントが来るかと思ったが……特に何も起こらなかった。


中に足を踏み入れ、部屋全体を照らしていく。

中は、ペットボトルロケットやガラクタのような機材が転がっているだけで、人もいなければ、大した品もなかった。


考えてみれば、科学部の主戦場は理科室なのだから、ここは倉庫や作業をする用途なのだろう。


「誰もいませんね」

わかが背後から離れて言った。

「まぁ、そう簡単には見つからないとは思ってましたけど……」


この前の陸上部の案件を思い出し、ロッカーも念のため見てみる。が、誰も入っていない。

いやまぁ、それが普通なのだが……


目につく箇所を全員で調べてから、国木田さんがスマホを鳴らした。


――他のところ探そうか。三階をしらみつぶしに。


「もう帰りたいぃ……非常口から出れません?」

「調べてもいいけど、無駄な気はするよ……僕たち三人で押しても扉開かなかったんだもん」

「うわぁん……じゃあもう早く済ませましょう……」


泣きべそをかきながら、わかは出入り口を振り返った。


そして、唐突に、


「マソッ……!」


謎の言葉を発した。


顔が凍りついている。


彼女の視線を辿ると、佇む銅像と目があった。


……扉の前にはいたのは、土埃にまみれた二宮金次郎だった。




🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸


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