第22話 旧校舎は歓迎をこめて、
正門から、普通棟と特別棟の間を抜け、校庭側へ。
右に沿って進むと、その先に忘れ去られたようなボロボロの建物があった。
旧校舎――
元々は、特別棟として使われていたが、十数年前の大規模改修に伴い、その役割は新館にとって代わられ、今は半分部室棟、半分倉庫のような扱いを受けている、歴史の残滓だ。
それは、あまりに貫禄があるホラーハウスだった。
――記録を。
国木田さんが手を出すので、僕は秘書のようにカバンから一冊のバインダーを渡した。
心霊現象調査部の最も大事なもの――調査記録集だ。
歴代の部員が描いているのだろうが、本人たちの覚えた恐怖がこれでもかと表現された絵は、もはや名画の域だった。
「旧校舎だけ、厚さがすごいですね……」
調査書を開く国木田さんの隣で、わかが呟く。
全生徒が出入りする普通棟や特別棟と違い、旧校舎はその二倍はページ数があった。
――でも危険な奴はいない。ほら。
国木田さんの示すそれを、二人で覗き込む。
確かに、被害はすべて『見つめてくる』とか『動く』とかの行動しか書いていなかった。
これくらいなら、気にしなければ平気か……いや、慣れすぎだろ僕も……
――じゃあ、行こう。
調査記録を僕に渡した国木田さんが、旧校舎の入り口に手を押し当てる。
鍵がかかっていないらしく、重たいガラス扉がギィッと音を立てて、開け放たれた。
中に一歩踏み込み……身震いする。
やはり、不自然なほど、肌寒い……
明かりは、周囲の街灯から届くわずかな光と上空から差し込む月光のみだった。
――電気はどこかな。
スマホの光が下から照らされながら、右左にキョロキョロする国木田さん。
「あ、スイッチありました。これですね」
わかが玄関横手で、パチッと音が鳴らすと――何も起きなかった。
「……あれ?」
パチッ。パチッ。
スイッチを入れたり切ったりしてみるが、蛍光灯はつかない。
「は、はは。ブ、ブレーカーが落ちてるのかな?」
僕が明るく言ってみる。
――それならいいんだけど。
国木田さんが答えたそのとき、
ガン――ッ‼︎
と、大きな打ち付ける音が背後に轟き、一同が飛び上がった。
慌てて振り返ると、入り口のドアが閉まっている。
なんの前触れもなく、あんな威嚇するような音で閉まるだろうか……
わかが一目散に扉に取りすがる。
が……
「開かないです! うわぁん!」
僕も国木田さんも加わって、三人で押してみるも、扉はコンクリートで固められたようにびくともしなかった。
国木田さんは汗を拭うと、
――ようこそってことかな。
「よくそんな冗談言えるね……」
僕は尊敬と驚嘆の眼差しを向けざるを得ない。
「どうします⁉︎ どうしたらいいですか⁉︎」
わかが猪のごとくドアに体当たりしながらパニくっていた。
「わか、一回落ち着いて……」
「落ち着けるわけないですよ! どうせここで私の人生は終わりなんですから! 行方不明になってここの住人になって、調査記録に妖怪ポテチ女とか描かれるんです! うわぁん!」
――あんまり悲しまないで。霊が寄ってくる。
国木田さんの一言で、わかの泣き言は一気に引っ込んだ。
がらんどうの旧校舎に静けさだけが響く。
――朝になれば開くだろうし、来た目的は変わらない。一旦忘れて先に進もう。
国木田さんのスマホから力強い言葉が流れた。
頼りになる。
きっと国木田さんの後をついていけば、なんとかなるに違いない。
そう思っていたのだが……
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