第21話 夜の通学路は驚きに満ちて、

毎日通っている通学路も、真っ暗な中では印象が違う。


駅前を過ぎてしまえば、たまに走り抜ける車や自転車以外、人通りはほとんどなく。

僕たち以外の人類がいなくなってしまったかのようにも思える。


いつの間にか、前を行く二人の後ろに僕はついていく構図になっていた。


余談だが、奇数のグループで歩く時、僕はいつも後ろにいる気がする。

なぜだかわからないけど、自分がいるべき場所を探すと、そこになってしまうのだ。


「あ、ちょっと待ってください……よいしょっと」


目の前で、わかがリュックサックを背負い直す。

それは丸々と太っていた。


先ほど中身を見せてもらったが、ポテチにチョコ、飴などなど……

遭難したときの食料だと、真面目な顔して説明していたが、僕にはおやつにしか見えなかった。


そもそも学校で遭難とか、考えたくはない。


対照的に、国木田さんは、小さなカバンひとつ。

何を持ってきたのか尋ねると、なぜか耳を赤くして、


――緊急時にいるもの。


とだけ答えた。


あまり考えず、ラフに来てしまったのを恥じているのだろうか……

小さくなるのが小動物みたいで、少しだけ、嗜虐心が湧いてしまったのは、内緒である。


「葵先輩、まだ既読つきませんか?」

わかが尋ねると、国木田さんが首を振った。


「どこ行っちゃったんですかねぇ。まさか、姫ちゃんさんと一緒に神隠しに遭ってたりして……!」


――草。


そのやりとりで、僕は日中の会話をふと思い出した。


「そ、そういえば、柳女さんって、なんで休んでも平気なの? 先生も気にしてなかったし……」


――あぁ。


国木田さんは、そのことか、とつまんなそうに眉を上げて答えた。


――あの子だけは、先生に集められた人じゃないから。勝手に来たの。


「え、それって、自主的に心調部に入ったって意味……⁉︎」


国木田さんが頷く。


衝撃だった。


数週間程度しか彼女のことは知らないが、初対面から今日まで、そんな風には思えなかった。

むしろ、過剰なくらい心霊を恐れていたし、活動を嫌がっていたはずだ。


「でもその、柳女さん、お化けとか好きそうには見えなかったけど……」


――罰ゲームなんじゃない?


その音声は、機械よりも冷たく聞こえた。

超高速で彼女の指が動く。


――友達同士で何かに負けたから、罰で私たちと一緒にいるとか。まるまる菌とかと同じ。よくあるでしょ。そういうカースト上位の陰キャ弄り。


「そんな……じゃあ、柳女さんは、ほんとはギャル的な……?」


――じゃないとあんな奴らと仲良くしてないと思うけど。


あんな奴ら。

話の流れから、国木田さんの意味するところは、想像できた。


いつか登校中にした、騒がしい陽キャギャルたち……

ああいう強者たちと、柳女さんは仲良しであるということだ。


にわかには信じられなかったが、携帯を四六時中いじっているところも説得力があるし、カースト上位の人間たちは、僕たちを動くオモチャだと思っているから、あり得ないとは言い切れなかった。


柳女さんのオーバーリアクションも、演技であれば、理解はできる。

もしそうなら、徹底的に僕たちを馬鹿にしてるけど……


「ちなみに、アタシには聞いてくれないんですか? なんで入部したかって」

わかが、尻尾が見えるくらい人懐こく言ってくる。


「えっと……わかはなんで入部したの?」

「成績です! へへ」


誇らしげに言わんでくれ。


「で、でも、まだ一年でしょ? 早くない?」

「いえ、アタシ、コネ入学なので。授業についていく学力がないんですよ」

「コネ……?」

「はい。アタシのおじいちゃん、東央高校の創設者なので」

「そ、え……?」


――春和貞央って人、たまに行事で話すでしょ。


国木田さんの言葉で、思い出す。


進学するときに調べただけの微かな知識だが、確か、うちの高校以外にも、系列学校をいくつも作っている、大金持ちだ。

つまり……


「お、お嬢様じゃん……」

「そうなんです……へへ」


再びの衝撃。


「お嬢様がこんな夜に出歩いていいの……?」

「ごもっともですが、アタシは家族にほぼ諦められてるので……」


わかは珍しく、寂しそうに笑って言う。


「留年したら学校辞めて結婚しろってまで言われてますし……」

「え……⁉︎」

「でも結婚したらコミケとか行けなくなるし……」

「そこじゃないそこじゃない!」


彼女は、あ、そっか、とでも言わんばかりの顔で、


「あ、はい。家族は、アタシの学歴なんて気にしてないんですよ。兄さんさえちゃんとしてればいいんで、うち」


知らない世界だった。

わかの存在が急に遠くなった気がする……


「でも、確かにアタシは自制心がない出来損ないですけど、さすがに高卒資格くらい取りたいし、自由恋愛がしたいです!」

がらんとした夜の空間に、わかの声が響いた。

「だから、結婚しないためなら、幽霊とだって仲良くします。そういう覚悟で入りました!」


彼女の瞳には戦う覚悟が燃えていた。


「お、おぉ……」


なんとなくだが、彼女がいやに自分を謙遜して下手に出る理由がわかった気がした。


そんな環境で、むしろよくやってる。やっぱりこの子はタフだ。


ところで、わかも自由恋愛したいって思うんだね。

いやその、他意はないんだけどさ。


「あー、く、国木田さんは、どうして心調部に入ったの?」


勢いで、先頭を歩く小柄な背中に投げかけてみると、彼女は振り向きもせず、音声だけが返ってきた。


――陰野と同じ。


了解。


――着いた。


国木田さんの一言で、僕たちは顔を上げる。


正門前から見る、夜の校舎。


それは、昼間とは表情がまるで違っていて。

真っ暗な夜空を背景に、ぬっと見下ろされているようで、雰囲気に気圧された。


今からここに入るのか……しかも、旧校舎に……


国木田さんは平然と先生から借りていた鍵を出し、通用口を開けて中に入っていった。

僕たちも後に続く。


しかし、生徒に鍵貸すって、この学校のセキュリティは大丈夫だろうか……




🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸 🔸


 このキャラ好き、笑えた、等々思っていただけましたら、

 ★レビューで応援いただけると嬉しいです……!

 https://kakuyomu.jp/works/16817330657160113357#reviews

 (↑上記URLからも飛べます。)


 ★の数は今時点の正直な評価で構いません!

 あとから変更できますのでお気軽に!


 もしよければTwitterのフォローもぜひ~

 https://twitter.com/iyaso_rena

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る