第20話 それはもう超ド級王道青春シチュエーションで、

空気がじめっと肌にまとわりつくような、梅雨時期の夜十時。


国木田さんとわかは、僕が駅前に着く頃には既にいた。

駅舎からの白い光が、二人を照らしている。


わかはラフなTシャツ姿。


国木田さんは、意外と――と言ったら失礼だけど――女の子っぽい服装をしていた。


手を上げて呼ぶ彼女たちの元へ、小走りに近づく。



二人に会って確信したが、今目の前にある状況は、ひどく現実感がなかった。


だって、こんな夜に、女子生徒二人と落ち合って、学校に忍び込むんだよ……?


僕の豊富な漫画知識から言えば、それはもう、超ド級王道青春シチュエーションだ。

間違いなく、これから夜のプールに飛び込む、ドギマギな展開が待っている。


しかし、現実の僕は、すでに別の意味でドギマギしていた。


これから飛び込むのは、嬉し恥ずかしのプールじゃない。

目撃証言多数の、間違いなく出る、幽霊屋敷である。


先のことを考えると、心がドンドン沈んでいく……

他二人にも、浮ついた感じはなく、どちらかといえば、死地に向かう兵士の面持ちの方が近かった。


そして、案の定、始まる前から欠員が出ていた。


「あの、やっぱり柳女さんは……」


――来ないよ。


国木田さんがつっけんどんに言った。


――既読もつかないから。今日は三人。


「ずるいです、葵先輩……来て欲しかったのに……」

わかが異様にへこんでいる。


――あの子が来ても何にもならないでしょ。


「幽霊のターゲットが四分割になります」

「囮役……」


まぁでも、確かに人数が多いに越したことはない。


――いないものは仕方ない。さっさと行こうか。補導されないうちに。


部長の一声で、僕たちは夜の学校に向かって歩き始めた。




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