第三章 陰キャたちは駆けまわる。

第18話 幽崎先生は被害者を連れて、

三宅さんからの依頼は、結局変態のせいということで片がつき、現象は収まったのか、それから三宅さんが来ることは無かった。

そうして再び、静かで、時間を持て余すだけの日々がやってきた。


僕の出席状況はというと、今の所しっかり登校できている。


インハイの言う通りになるから認めたくないのだが、部活があるということが、

「行かなきゃ……!」

みたいなモチベーションに繋がっているのは確かだった。


恐らく、依存症のグループ療法に近いんだと思う。

似たような苦悩を持つ人間たちが身近にいるというだけで、勝手に協力関係だと錯覚してしまう。


しかも、先の件ではちょっと役に立ってしまったから、ますますだ。

部室が怖いこと以外は、うまいこと回っていた。



その日も、ホームルームが終わり、習慣付いた動きで、ほぼ無意識に部室に向かおうとしていたときだった。

普通棟から特別棟へ向かう渡り廊下で、前から手を振る人影があった。


誰だか知らないけど、無視することにする。

横を素通りしようとすると、「おいおいおい」と肩を止められた。


黒づくめの大人の女性――

幽崎先生だった。


「あ、先生……」

「酷くない? 手振ってたのにさ」

「すいません、どうせ後ろの人だろうと思って」

「自意識が低すぎる」

先生は憐れむように呟いた。

そんな目で見ないでほしい。


「ところで、今日、被害者の子たち連れてくから。みんなによろしく言っといて」

「被害者……? なんの……」

「あはは、心霊現象に決まってるでしょう。あ・た・り・ま・え」

当たり前であってたまるか。


道ゆく生徒がこちらを振り返るので、僕はここから逃げ出したくなる。


「内容は調査依頼というか、探索依頼というか……ま、話は部室でするわ。じゃ、あとで!」

闊達に伝えると、白衣ならぬ黒衣を翻し、先生が教室棟へ去っていった。


消えゆく後ろ姿を眺め、しみじみ思う。


あの人、心調部で一番若い気がする……



  ◆ ◇   ◆ ◇   ◆ ◇ 



「おはようございます……」

いつものように陰気に挨拶して、部室に入る。

すると、部室にいる面々が、本当に僅かに首を下げる。


外から見たら仲が悪そうだが、これが心調部の朝の挨拶だ。

いつも通り。なんなら今日はちょっと明るいくらいだ。


ただ、いつもと違うところが一点に気づく。


普段、教室後方を定位置としている柳女さんの姿が今日は見えなかった。


「あ、あれ。柳女さんは?」

聞くと、国木田さんがスマホを取り出してテキパキと打ち始めた。


――来てない。欠席かも。


「へ、へぇ。それ、許されるんだ……いいな……」


国木田さんはチラッと僕に一瞥送ると、またスマホを打ち始める。


――あの子、ちょくちょく休むけど、騙されないように。


忠告の一言だった。

僕は首を傾げる。


騙されないように、って、どう言う意味……?


「まぁまぁまぁ。いいじゃないですか。平和なうちに休んでも。依頼もそうポンポンあるわけじゃないですし」

わかがお菓子を食べながら呑気に言う。

良いことでもあったか、機嫌がよさそうだ。


それで、僕は、先生からの伝言を思い出した。


「あ、そうだ。その依頼なんだけど、さっき先生が――」


そのとき、


「コンコン」


と幽崎先生の声と共に、背後の扉がノックされる。

開けると、ドアの先に、幽崎先生の後ろに、三人の男子生徒がいた。


思ったよりもずっと早く来たな……


「ヤッホー、みんな。ちゃんと活動してますか?」

幽崎先生が足を踏み込んでくると、その後ろから、男たちが躊躇しながら、

「失礼しまーす……」

とゾロゾロ入ってきた。


なんだか陰気な、とはいえ、僕たちとは雰囲気が違う。

オタクはオタクで楽しくやってます、みたいな人たちだ。


部屋に足を踏み入れると、ラップ音が真っ先に歓迎をして、彼らはビクッと頭上を見上げた。


先生の言っていた『被害者』というのは彼らのことだろう。


「おや、今日葵ちゃんは? いないの?」

先生がラップ音など聞こえないかのように国木田さんに尋ねる。


――見ての通り。


「そうか。じゃあ後で連絡しといて」

先生は軽く流す。


それでいいんだ……

やはり、彼女は『許される』人らしい……


「こちら、科学部の皆さん。心調部のみんなに依頼があるそうです。では、依頼内容をどうぞ〜」

先生に促されると、真ん中の見るからに理系っぽい男子が天井から目を離して、話し始めた。


「科学部の飯山です。結論から言いますと」


彼は理系らしく単刀直入に切り出した。


「うちの姫を探してほしいのです」




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