第15話 小麦色の依頼が眩しくて、


客人の女子生徒を含めて、全員で車座になる。

白粉を塗ったような不健康な白の中に、焼けた肌が眩しい。


僕は、隣に座る国木田さんの横顔を盗み見た。

一見平気そうな顔をしていたけど、緊張は空気を通して伝わってくる。

しっかりしているようでも、陰キャなのは変わらないのだ。


「えと……三宅です。陸上部で部長やってて。国木田さんと同じクラス」

三宅さんは、両手の指を膝上で合わせ、おずおず話し出した。

「この部活のことは幽崎先生に教えてもらって。その、そういう話を聞いてくれるって……」


「そ、そういう話って……」

僕が恐る恐る聞く。


すると、


「馬鹿にしないでね! 絶対馬鹿にしないで!」

すごい勢いで念押ししてきた。


「は、はいっ」


「その……お化けの相談、とか……」

少しもじもじして三宅さんは呟く。


対面のわかが、苦いのと険しいのが混じった顔をしているのが目についた。

多分、僕も同じ顔をしているだろう。


依頼だ……


今年初にして、僕たちのデビュー戦。


ついに、来てしまったのだ……


「最近、部室がその……おかしいの」

彼女のポツポツとした語り出す。


――具体的には?


「……日が暮れる頃に部室に行くと、絶対に何かが起こるんだよね。ロッカーが開かなかったり、スポドリが飛び回ってたり。あとたまに、誰もいないはずの部室から低くて怖い声がするの。『死ね……死ね……俺より早いやつはアキレス腱切れろ……前十字靭帯を断裂しろ……』って……」


「呪い方が運動部すぎる……」

わかがビビっている。


「何度も体験してるから、絶対間違いじゃない。でも、部員はみんな信じてくれなくて。部長、大会間近でナーバスになってるんでしょ、って言われて……」


「えと、その、他の人は、目撃してないってことですか?」

僕が勇気を出して聞いてみると、彼女は突然嘲笑して、


「ウチ以外は、日が暮れるまでいることないからね。みんな陸上に興味ないんだよ。理解できない……」

「そうですか……」

僕は理解できますけどね……


「気味悪いから、顧問にもなんとかして欲しいって言ったんだけどさ。『俺もインターハイ間近のときは見えないものが見えたもんさ』とか言って。そう言うことじゃないっつーの。マジ使えない、あのゴリラ」

「はは……」


その後は部員と顧問の愚痴に終始したが、彼女の話は、大体そんな感じだった。


『日が暮れると、部室に何かが出る』


事情を聴き終わると、心調部の面々は、誰ともなく顔を見合わせて、無言の相談を交わした。

多分、共通の疑問が全員の頭に浮かんでいたと思う。


依頼を受けたからと言って、その後どうすりゃいいの……?

武器も、知識も、経験もないというのに……


「じゃあ、話は聞いたので、こんな感じで……」

わかが、おずおずとドアを指し示した。


「えっ⁉︎ ほんとに聞くだけなの⁉︎」


「やれることもないですし、先生には依頼を受け付けろって言われてるだけですし……お化け怖いですし……へへ」


間違いなく、最後のが本音だ。


確かに、話を聞く屋として活動して、全部気のせいとして済ませられるなら、それも解決の一種かもしれないけど。


これまでの人生ならいざ知らず、僕はあの黄色い階段で、高校どころか、人生を卒業しかけ、他でもないこの部活に救われている。


少なくとも、彼女の訴えを否定する気にはさらさらなれなかった。


それに、幽崎先生がこの怠慢を知ったら、蜘蛛の糸さえなくなってしまうし……これも最後が本音か?


――とりあえず行ってみよう。三宅さんの部室。


感情のない音声に、全員が、国木田さんの方を向いた。

わかと柳女さんの顔色が恐怖に染まっている。


「行かなきゃダメですかぁ……?」

わかが嘆く。


同感だったが、正直、仕方ないとは思った。


他に取れる選択肢はないのだ。行って何もできなくても、活動実績にはなろうし。


ただ、それとは別に、国木田さんの微かな変化が、僕には引っかかっていた。

妙にやる気が見られるというか、相変わらずの無表情なのに、雰囲気は鼻息フンフンしている感じ……


え、まさか、同級生にいいところ見せたいとか……?




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